108「とある少女勇者の憂鬱②」
「へぇ、なかなか小洒落た店だな。外でのカフェにちゃんと日傘も当ててるあたり気が利いてるじゃないか」
「そ、そうね」
オレとリリィはあれから通りにあるカフェの一つに入った。
最近出来た店らしく街の人たちからの評判も高いそうだ。
なんでもロスタムの奴がわざわざ国外から腕の立つ勇者を招き入れ、店の経営を任せているらしい。
ここでいう腕の立つは料理に関することだ。
「へえー、パフェなんてあるのか。これもこの店の勇者が考えたやつかな? ちょっとオレこれ頼んでみるわ。お前はどうする、リリィ」
「へっ?! じ、じゃあ、アタシも同じのを……」
オレの質問に対して挙動不審に答えるリリィ。
とりあえず、パフェを二つ注文するものの本当にさっきからどうしたんだ、リリィのやつ。
そう思いつつもオレもリリィの姿を正面からじーっと見ると、なぜかすぐさま顔を逸らしたくなってしまう。
というのもいつものと違う雰囲気のリリィを見ていると知らぬ間に胸の内がドキドキしてしまうからだ。
態度もこのとおり、しおらしいというかなんというか。
まあ、とにかくいつもとため調子の狂う感じではあったが、そうこう思っているうちに先程頼んだパフェが二つ、オレ達のテーブルへと置かれた。
「へぇ、こいつはなかなか」
以前のフィティスとイースちゃんのデザート対決の際に、この世界のデザートのレベルもかなり高いとは思っていたが、いま目の前に置かれたパフェはまさに地球にあるものと遜色ないくらいにしっかりとした外見であった。
スプーンですくい、味を確認するが、ややクリームの甘さが足りず、アイスの味がまだまだ単純すぎる部分は多いが、それでもパフェとしてかなり原型に近い形に作り上げている手腕は見事と言ってもいい。
この世界において食の文化がどれほど重要かはオレもすでにわかっているつもりであり、これほどのデザートを独自に開発したとなれば、この店の経営を任された勇者はかなりの手腕を持つことも確信できる。
もしかしたら、今後この勇者によってデザート料理の新たなる促進が起こるのではと期待できるほどであった。
「リリィ、これなかなかいけるな。オレ的にはもう少しトッピングを含ませればもっと改良できると思うんだけど、お前的には――」
とリリィの感想を聞こうと目の前を見た瞬間。
「あ、あああああああああっ?!」
なぜかリリィの目の前に置いてあったパフェのグラスが急に傾き、そのままテーブルを転がったかと思うと地面に向け落ち、中身もろともぐちゃぐちゃとなる。
あっ、お前、なにやってんだよ……。
よく見るとスプーンを握る手がプルプル震えており、そのせいで中身をつかめずグラスにぶつけてしまったのかと思ったが、なんにしろこれではリリィのパフェは食べられない。
せっかくこんな美味しいものを注文したのに食べられないというのは不憫だ。
そう思ったオレは自分のパフェをスプーンですくい、それをリリィの方へと差し出す。
「ほれ、食べていいぞ」
「へっ…………へえええええええっ?!!」
とオレが差し出したスプーンを見て、顔を真っ赤に奇声をあげるリリィ。
あっ、しまった。
よくよく考えたらこれってかなり恥ずかしい行為じゃね?
と思ったが、今更差し出したこのスプーンを下げるのもそれはそれで恥ずかしい。
とりあえず、差し出してしまったものは仕方がないのでリリィがそれを口に含んでくれるまで、オレはそっぽを向いた状態のまま固まることにした。
やがてこちらの意図に気づいたのか、沈黙を守ったままリリィが差し出されたパフェを口の中に入れてくれるのがわかった。
オレは、ほっと胸をなでおろすと同時にリリィに味についての感想を聞く。
「……ひょくわかんない……」
だそうです。
うん、なんか味どころじゃないような顔しているし、まあいいか。
そう思いつつ、オレは再びスプーンで自分のパフェを口の中に入れるが、その瞬間、またもや目の前のリリィが顔を真っ赤にして、あたふたと動揺した様子を見せる。
い、いったいなんなんだ?
リリィ、お前になにがあったんだ?
わからん。
なにがどうなってるのかさっぱりわからんが、なぜだかこの場の雰囲気がとてつもなくむず痒いことだけはわかるぞ。
なんだこの、男子中学生が家族と一緒に少女アニメを見るようなむず痒さ。
よくわからんが、とにかく何とも言えないむず痒さを感じつつ、オレはパフェを食べ進め、リリィには改めて別のデザートを注文するようメニューを渡すのであった。




