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106「とある看板娘の憂鬱③」

「はぁ、それにしてもあの三人、一体どうしたんだ? ミナちゃんにしろリリィにしろ、あんなに積極的だったっけ? ヘルは……いつも通りか」


 と、先程までの修羅場のような光景を思い出し、そう愚痴を漏らしながらバルコニーへと出ると、そこにはすでに先客がいるようで椅子に腰掛け外の景色を見ている女性がいた。


「あ、すいません。隣いいですか?」


「え? はい、どうぞ……って、キョウさん?」


「え?」


 その女性からの思わぬ名前呼びに振り返る。

 そこに映ったのは純白のドレスを身にまとった純白の天使。

 白い髪に白い肌、まさに透き通るような美しさであり、柔らかな雰囲気を携えた妖精のようなその人物にオレは思わず目を奪われた。

 って、前にもどこかでこんなふうに目を奪われたことがあったような……。


「ぱぱー!」


 と、気づくとその女性の膝の上に乗っていたロックがオレの膝の上へと飛び乗る。

 そうだ、この城にはロックも一緒に来ていたんだが、さっきのダンスを踊る際に、一度離れたんだが、そのままバルコニーに行って、この女性の膝の上に乗っていたのか。

 というか、ロックがオレ以外に懐くような人物なんて他にいたっけ?

 と、そこまで考えて、改めて目の前の白い女性を見て、その正体に気づいた。


「あ、もしかして……ツルギさん、ですか?」


「は、はい、そうです」


 そう言って雪のような肌をわずかにりんご色に染めながら、目の前の美少女は微笑んだ。

 そうだ、そうだ。

 ここまでの人間離れした綺麗な人物なんてオレの知る限りツルギさん以外見当たらない。

 ぶっちゃけ見た目の雰囲気や美しさで言えば、某ロリ巨乳な女神様よりもだいぶ女神様みたいなオーラを出している。


「ツルギさんもパーティに来ていたんですね」


「ええ、まあ、実は帝王様からご招待に預かって。せっかくのパーティですから久しぶりにドレスなんて着てみたのですが、いざ着てみると恥ずかしくて……」


 そう言ってツルギさんは頬を染めたまま、わずかに視線を逸らす。

 うーむ、こんだけ美人なのに普段はフードかぶって正体隠しているのが本当にもったいない。

 もっと全面的に正体を明かせば、人気爆発するはずなのになー。

 いや、そういうのが苦手だから、フードかぶってキャラ作ってたのかな?

 と、そんなことを思っていると膝の上のロックを見て、目の前のツルギさんに言わなければならないことを思い出した。


「そうだ、ツルギさん。ロックにあなたの能力を教えてくれたんですよね? おかげで帝王との戦いの時にはそれが決め手になりましたよ。本当にありがとうございます」


「へ? ……あ、ああ、いえ、どういたしまして」


 となぜかオレのそのお礼に対してなぜかあやふやな態度を取るツルギさん。

 ひょっとして違ったのかな?

 あの転移能力はまさしくツルギさんの能力と同じものだと思ったんだが。


「よお、兄ちゃんもバルコニーで星空見学かい」


 と、不意に背後から聴き慣れた声が聞こえる。

 その声に反応し後ろを振り向くとそこには燕尾服を着たジャックと、その隣を歩く女性エストがいた。


「ジャックこそ、ロスタムからの招待を受けて連れて行きたい人がいると聞いたから誰かと思ったら、やっぱその人だったか」


「まあ、エスト嬢にはオレ達も世話になったからな。これくらいの恩は返さないと」


「そんな、ジャックさん気になさらないでください。私はジャックさんが無事に戻ってきただけでも十分なのですから」


 そう言いつつも、エストさんはあの時とは異なる綺麗なドレスを身にまとい、ジャックの隣を歩く姿はまんざらでもない様子だ。


 あれからジャックはパンプキングと呼ばれるかぼちゃ系魔物の最上位種族に進化したらしいが、見た目の変化は変わりはなく、あえて言うなら王冠とマントが付いたくらいだろうか。

 後ろ姿だけ見るとマジでどこかの王様みたいなカリスマがあるから困る。


 そんな風にバルコニーに来たジャックやエストを交えての雑談をしているうちに、オレの膝の上に乗っていたロックがいつの間にか眠ってしまったようで、膝の上ですやすやと寝息を立てていた。

 オレはそんなロックの頭を思わず優しく撫で、それを見ていたツルギさんがふとなにかを訪ねてくる。


「ひとつお聞きしてもいいでしょうか。キョウさんはロックちゃんのこと、どう思っているのでしょうか?」


「そんなの決まってるだろう、大事な娘だよ」


 ツルギさんからの問いかけにオレは間髪入れず答え、それを聞いたツルギさんの表情が優しげに微笑んだのが見えた。


「あー! お兄ちゃんそんなところで何してるのー!!」


 と、オレとツルギさんが静かな雰囲気の中、まったりしていたところ、背後よりそんなけたたましい声が響いた。

 まあ、そろそろ来る頃かなと思っていました。


「ちょっとキョウ! アンタなに一人で退散してんのよ! こうなったらアンタに誰と踊ってもらうか決めてもらうからね!」


「は?! なんでそうなった?!」


「き、キョウさん! 今日は私と一緒に付き合ってくれるんですよね!」


「くっくっく、兄上、なにも悩むことはないぞ。ここは無難に妹と踊ると言ってしまえば全ては円満にカタがつくのだ。そう、肉親と踊るならば変ないざこざは起きない! というわけでお兄ちゃん! アタシと踊ろうよ!」


「だーもうー! だから、そういう言い合いをやめろっちゅーに!」


 とか、和気藹々としていたその瞬間、満天の星空に光の花が咲いた。

 見るとそこには星空に次々と無数の花や飾り、そうした光による芸術が生まれていた。

 どうやら、上空へ向け魔法を放つことで光のイルミネーションを演出しているようだ。


 先程まで言い合いをしていたリリィ達も、目の前で打ち上がったその光の幻想に目を奪われ、共にバルコニーにて感嘆の声を上げながら、それを眺めた。


「気に入ってもらえたかな。これは先日、我が国の勇者が考え出した技術でな。光の魔法を使ったイルミネーション、星空にて生み出される芸術作品だな。魔法も戦場で使うのではなく、こうした人々を楽しませる娯楽として昇華する。それもまた立派な文明の進化だとオレは思っているよ」


 と、見ると先程まで三人に踏みつけられていたロスタムが後ろから来て、そう説明してくれる。

 確かに、もうここから先は戦うのではなく、別の方法での進化で十分だろう。


 この先、この世界に求められるのは戦ではなく、文化に対して貢献を果たす勇者であろう。

 実際オレがいた地球においても、星の文化を促進させたのは、多くの文化人による功績が大きい。

 戦における勇者も確かに誉れ高いことであろう。

 けれど、新しい文明や文化、技術などを作り、発見し、それを世の広めた人達こそ、人類史における真の意味での英雄であり、世界の進化を加速させた勇者であるとオレは今になってそう思った。


「今宵の宴はまだもう少し残っている。よければ最後まで楽しんでいって欲しい。それからそちらのリリィとヘル嬢も、せっかく我が城に来たのだ。しばらくはここでゆっくり過ごすといい。幸い客用の部屋はいくつでもあるから好きに使うといい」


「あ、ありがとう……じゃあ、そうさせてもらうわ」


「くっくっく、まあ貴様がどうしてもというのなら仕方がないから、しばらく我が厄介になってやろう」


 そのロスタムからの提案にリリィもヘルも素直に頷いた。

 やがて星の空に輝いた光の幻想が終わり、みんなの表情がどこか感極まったように余韻を楽しんでいるのを感じ、ふと隣に立つミナちゃんの表情を見る。


 そこにはここへ来る前にあった、どこか緊張した表情もなく、自分を責めていた悔恨の感情も薄れているようであった。

 この城でのパーティに加えて、先ほどのみんなでのやり取り。

 なんてことはない。

 ああした、いつもの雰囲気があればよかったんだとオレはミナちゃんのその表情を見て安堵した。


 やがてオレの視線に気づいたのかミナちゃんがこちらを振り向き、視線が合い、わずかに顔を逸らして互いに頬を染めるものの、ボソリと呟いたミナちゃんの声がオレの耳に入った。


「……今日はありがとうございました、キョウさん……また今度ふたりっきりでデート、してくださいね……」


 そのミナちゃんの声を聞き、オレは今日、何度目かになる心臓の跳ね上がる音を聞いた。

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