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103「人の成長、魔物の成長」

「魔物の、成長?」


 それってどういうとオレが問いかけるより早くモーちゃんが説明してくれた。


「君が育てた魔物達と、普通の魔物達との違い。なんだと思う?」


 と言われてもなぁ。

 なんだろう。

 大人しい? 人を襲わない?

 うーん、なんか違う気がするなぁ。

 ジャックやドラちゃん、ロック達にしろ、あいつらはむしろ家族みたいなもんだしな。


「そのとおり! それだよそれ!」


「へ?」


「つまりだね。人が成長する最も大きい要因ってなんだか分かる?」


 うーん。

 これまでの話をまとめるなら、この世界での成長は単純な肉体での話でないのは分かる。

 むしろ精神的成長のほうがどちらかというと大きい気がする。

 となると、そうした精神を成長させる要因、それが肉体的にも繋がる部分、感情……いや、もっと大きい意味で言えば。


「心か」


「イエース! さっすがキョウ君!」


 どこかで聞いたような名言を思わず呟いたがどうやらそれが正解だったようだ。


「君が育てた魔物達はみんな人のような心を持って成長する。それが普通の魔物との大きな違い。普通の魔物は獣に近い性質だから、彼らが人を襲うのも本能のようなもの。けれど、君が育てた魔物達は心を持ち、自分で考えることをしている。だからこそ、ほかの魔物にはない行動や想い、感情、そして成長を持っているんだよ」


 言われて見れば思い当たる節はいくつかあった。

 オレがピンチの時に駆けつけてくれたヒュドラ達。

 確かにあんな行動は決して感情のない獣にはできないことだ。


「そうした意味ではそこで倒されているジャック君が一番の功労者とも言えるね」


 言ってモーちゃんが指す方向にて倒れたままのジャックを見る。

 確かにそうだ。

 ジャックはこの中で一番の強敵と戦い、それを凌いだんだ。

 オレ達の中で誰が大きな結果を残したかと言えば、それは間違いなくジャックであろう。


「サンキューな、ジャック」


「……なぁに、兄ちゃんの相棒なら当然よ……」


 そう小さく呟いたオレの声に反応し、倒れたままのジャックが起き上がるのが見えた。


「ジャック! お前、起き上がっても大丈夫なのかよ?! 胸とかめっちゃ穴空いてるし、無理しないほうが……!」


「忘れたのか、兄ちゃん。オレの本体はこのかぼちゃ頭のジャック・オー・ランタンだぜ。かぼちゃ頭がなければ即死だったろうが、そこ以外なら致命傷には届かないさ」


 言っていつものニヒルな笑みを浮かべるジャック。

 それを見て思わず安心してしまう。


「ということで、キョウ君」


 言ってモーちゃんがオレに近づき、ニッコリと笑みを浮かべる。


「今後は人の成長だけでなく、君が育てた魔物、いやほかの魔物たちの成長も世界の成長に影響を与えるとわかった。だから今後は君だけじゃなく、君たち全員がうまく成長してくれればこの世界の成長も無事果たせるよ。そして、それは遠い未来の話じゃないよ」


「その通りだ、栽培勇者」


 言って帝王勇者ロスタムが玉座の奥にあった扉を開き、そこからなにかを持ち出し、オレの方へと差し出す。


「これは……世界樹の種か?」


 そこにあったのはロスタムが持っているとされる三つの世界樹の種であった。

 よく見れば、どれもわずかな光を放ち、種の中でなにかが芽吹こうとしているのがわかった。


「先程までの君たちの成長のおかげでオレ、というよりもロスタムと兄上が手にした世界樹の種にも影響を与えてくれた。まだ発芽には届いていないが、女神様の言うとおり遠からずこの三つの世界樹の種も発芽するであろう。そうすれば君が持つ種と合わせて地上にある六つすべての世界樹が芽吹くであろう」


 言ってロスタムはオレの手にその世界樹の種を三つ手渡した。

 これで合計六個。

 遂にオレは当初の目的であった世界樹の種を全て揃えた。

 そして、そのうちの三つ。

 オレが持っていた分の種はすでに発芽しており、あとは植えるだけの状態だ。


「ロスタムからもらったその三つの種も今のうちにどこかに植えておいていいと思うよ。時が来れば自然と発芽するだろうし、これで事実上君の役割も果たされたようなものだしね」


「――ええ、そうしておきます」


 女神モーちゃんのその提案にオレは静かに頷く。

 やがて話がまとまったのを見てか、ロスタムとザッハークが改めてオレの前に立つ。


「栽培勇者。戦う前に言ったとおり、今やオレのこの身は君に捧げたようなのもの。君が望むのならどのようなことでもしてみせよう。無論、この命も差し出す決意だ」


 と律儀に何度も同じ事を言うロスタム。

 まあ、ここまで事情を聞いた以上、こいつをどうする気も隣に立つ兄ザッハークをどうする気もない。

 結果を言えば、こいつは自分の役割に従っただけだろうし、それによってオレ達の目的も達成できたんだ。

 けど、一応けじめとしてこれだけは言っておくか。


「じゃあ、今度オレが困ったら力を貸してくれよ。というかわりと頻繁に借りることになるかもしれないけど、そういうことで頼む」


 そう言ったオレの提案にロスタムだけでなく、隣に立つザッハークまで驚いたような顔をした。


「そんなことでいいのか……?」


「いやいや、オレ結構わがままなこと頼んじゃうよ。なにしろ一国の帝王兄弟だろう? かーなりの権力持ってるわけだし、なんだったらこの城の一角貸し切っちゃうくらいにわがままな頼みするかもしれないから、覚悟したほうがいいぜー?」


 そんなオレのわざとらしい脅しに対して、しかしロスタムもザッハークもどこか嬉しそうに微笑む。


「望むところだ。君が望むのなら帝王の地位も譲ることにためらいはない」


「いやいや、さすがにそういう帝王とかはオレの性分には合わないだろうし、パスしておくよ」


 言って差し出されたロスタムの手をオレは握り返す。

 今後、こいつらとも仲間としていい関係を築ければいいなと、そう願いながら。


 そんなオレ達の中で、今回の件についてひとまずのハッピーエンドを迎えていた隣で、静かに暗く、不穏な会話がされようとしていたことにオレは気づかずにいた。







「いや、ごめんね。わざわざ君たち夫婦に残ってもらっちゃって」


「別に構いませんわよ。地下でそちらのセマルグルから事情を聞いてからある程度は覚悟しておきましたから」


 そう言って、その場に残った四人。

 女神モコシと、そのお付きのセマルグル、現魔王のファーヴニルとその夫である氷室敬司達は先程までの明るい雰囲気はどこへやら皆、真剣な表情を浮かべていた。


「それで、一体どんなまずい事態が起こっているのですか?」


「あははー、さすがね。まだなにも言っていないのに気づくなんて」


「当たり前ですわ。あなたがキョウを使って世界樹を発芽させ、世界を進化させようとしているのはわかりますが、とは言え、今回の件といい明らかに成長を急いでいる節がありますわ」


 その魔王ファーヴニルの推測に対し、女神モコシは沈黙を持って肯定として表していた。


「……あの子が目覚めるかもしれないんだ」


 モコシのその発言に魔王ファーヴニルはこれまでにない緊張した面持ちを見せた。


「……時間はいつまでですか?」


「わからない。早くて数年か、もしかしたらもっとか。いずれにしてもあの子が目覚める前にすべての世界樹を覚醒させて、世界を進化させる必要があるんだ」


 その女神の発言に、魔王はわずかに吐息を吐きつつも同意をする。


「時間は間に合いますの?」


「キョウ君が持つ六個の世界樹が全て目覚めてくれれば、僕が管理している生命の樹に実っている残り四つの実も地上へと落ちる。その四つも、残り六つに反応してすぐに大樹に成長してくれるさ。だから、あとはキョウ君が持つ三つの種、これが目覚めれば準備はほぼ完了すると思っていいよ」


 そう微笑んだ女神の表情に、しかし魔王はどこか複雑な表情を浮かべていた。


「……正直、私は魔王という立場を得てからあなたのことがあまり好きになれませんでした。それはそうでしょう。ほかのSSランク達はともかく、私は自分が人に倒されるために用意された駒だなんて、なかなか受け入れられませんでしたわ。あげくあなたが作り上げた勇者ポイントなる制度のせいで、目の前で多くの部下や魔物達が狩られていった。正直、最初の頃は自分の役割なんか放り投げて、生きることを優先してやるなんて思っていましたわ」


 それは魔王ファーヴニルが語ったはじめの本音であった。

 そこには女神が作り上げたこの世界のシステムと、そんな魔物に対する役割への不満と憎しみが積もっていた。


「けれど……この人に会って、家族を得て、いろいろ考えも変わりましたわ。魔物だけでなく、人にも家族がある。それならお互いに傷つかない方法でなんとか歩み寄って世界の成長を果たせないかと」


「で、それを君の息子が果たしてくれたわけじゃん。やるねー! 息子さん!」


 そう言って茶化すような態度の女神に、魔王はやや呆れながらも同意する。


「ええ、そうですわね。その点に関してはあなたに感謝しますわ。あの子を選んでくれて、ありがとうと」


「どういたしまして♪」


 やがてわずかな沈黙の後に、魔王は最後に女神に問いかけるべきことを尋ねる。


「……あなたは本当にいいのですか? そのまま女神の役割を全うして……」


 その魔王からの問いかけに女神モコシはわずかに沈黙した後、いつもの明るい笑みを浮かべて頷く。


「とーぜん! 僕は女神モーちゃんだよ! 自分の役割はちゃんと最後まで果たすさ! 君たち、SSランクばかりに世界の貢献なんて美味しい役をさせはしないよ」


 そう言って可愛くポーズを取る女神に、しかし魔王は茶化すのでもなく、ただ真剣に彼女のその気持ちを汲み取った。


 やがて訪れる世界の成長。

 それが果たされたとき、この世界にどのような結末が生まれるのか。

 まだこの時点で、その明確な答えを知る者は神を含めて存在しなかった――。

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