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中編

 連れられて扉を出た先は、長く続く階段だった。

魔力の封印から出た為、何の制限無しの心の眼で見つめるルーイナーは、長き階段に絶句した。

神の怒りが、これ程までに大きい事を痛感したのだ。

「かなり長いが、大丈夫か?」

若き王・エルフィンに問われ、彼女は直ぐに答えられなかった。永い間封印されていた身が、この階段を登れるとは、言い切れなかったのだ。

『判らない…。』

「まあ、女性の身では、大変だろうと思うが…、無理だけはするな。」

優しく気遣われたルーイナーは、内心驚いていた。

この醜悪な自分に、優しい声を掛ける者など、今までいなかった。

ましてや、普通の人間の女性扱いするなど、大それた事をした者は、皆無に等しかったのだ。

白銀色の床まで付く長い髪に、吊り上がった瞳孔のない紅の瞳…顔の右側は、白銀色の髪で隠れているが、その下には醜い、(ただ)れた様な傷痕(きずあと)

手足には鉤爪(かぎづめ)の様に長い爪と、鱗のような肌が肘まで覆っている。それは額にもあり、そこに鋭い角が三本、長さの違いはあれど、存在している。

背には小さいながらも、龍の翼の様な黒い光沢を持つ被膜の翼。そこにも突起のような、鋭い鉤爪があった。

そして、腰に巻き付いている、白い毛で覆われた細く長い尾…。

如何贔屓目(どうひいきめ)に見ても、人間には見えず、人型の獣人よりも中途半端で、(みにく)い姿…人間と獣人、龍人をごちゃ混ぜにして、更に醜さを追加したような物だった。

口は耳まで裂けてはなく、普通の大きさだったが、(のぞ)く牙は鋭さがあり、肉食の獣を彷彿とさせている。

故に、人に恐れられ、(いとま)れた。


 手を取られ、ゆっくりと歩みを進める。

思った以上に歩けるようであったが、如何せん、上り階段。

エルフィンの気遣いにより、途中何度か、休憩を取った。ルーイナーは異形であれど、女性の体、男性の…鍛えられた肉体を持つ王とは、体力の差が有り過ぎる。

やっとの思いで、永遠に続くような階段を上り切り、外へ通じる扉に辿り着く。息は切れ切れで、その場に座り込みそうになっている。

ふと、体が浮くのを感じ、見上げると、真近かに人の顔が見えた。一瞬、自分が如何いう状況になっているか、判らなかったが、体に触れる暖かさで気が付く。

若き王の腕の中、横抱きにされている…抗おうにも、あの階段で体力が失われ、力を駆使しようとしても、心が動揺して出来ない。

「暴れると、怪我をするぞ。」

耳元で響く低い声に、余計に動けなくなる。

体を離そうにも、強く抱き締められ、密着している。

落ちるからと言う理由で、手を首に回すよう言われ、更に体が触れ合う…。顔を見られないよう、エルフィンの胸に埋めると、彼は薄らと微笑んだように感じた。

滅びの乙女(ルーイナ ー)となって、初めての女性扱い…戸惑いながらも、嬉しく想う自分がいる。

罰により、失われた光と安らぎ、声と…人の暖かさ。

この若き王に封印を解かれ、久し振りの外へと彼女は、誘われる。

夢にまで見た、光満ちた場所…神々から罰を受け、闇深いあの場所に封印されて以来の、外であった。


 そんな二人の姿を神官は、何とも言えない顔で見ていた。

人間には見えない姿のモノを、若き王が人間扱い…然も、女性扱いをしている。

滅びの乙女の顔は、王の胸の中で見えないが、その姿は人に恐怖を齎す。畏怖としてしか見えないモノを、王は人として扱い、異性として扱っている。

伝説では、元人間の…女性だった筈のモノ。

自身が起こした世界の滅亡の危機で、神々の怒りを買い、姿は元より光と声を失い、地中深い場所で厳重に封印されたモノ。

そんな異形のモノを王は、封印を解き、自ら外に連れ出している。

この事に老いた神官は、掛ける声を迷った。

止める言葉と祝う言葉…何故か、この二つの言葉が頭に過る。

試練の始まりかもしれない…そう思った神官は、深い溜息を吐いた後、白い髭を撫でながら、無言で彼等を見送った。

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