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番外編・その一 結婚式の準備

ちょっとした、その後の話です。

 結婚式の当日…朝から王宮は、右往左往の忙しさであった。

現国王であるエルフィンの婚姻であるので、当たり前でもあったが、加えて光の神の祝福を受けた者と、大地の神の祝福を受けた者同士の婚姻であるのも、その原因であった。夫婦神を彷彿とさせるこの婚姻は、近辺諸国から遠方の国、そして、この国の宗教であるルーシリア教の神殿までもが注目していた。

この為、各地の国王や神殿から祝福と訪問、出席等、様々な要因でこの王宮の忙しさが増えていたのだ。

勿論、当の本人達も、支度や祝いに関する事柄で、大忙しだったが、傍にいる者達の助力で何とか切り抜けている。そして…一番の大掛かり、結婚式の衣装の着付けと言う物が、始まっている。

ルーイナー改め、リューリシアナは、早朝から花嫁衣装の着付けに入っていた。基本となるのは、真っ白なドレスだったが、その装飾の数々で時間が掛かっている。

宝物庫の奥深くに眠っていた、古の王族の装飾品を、2週間前にエルフィンが探し出し、それを綺麗に磨いた物が目の前にある。

懐かしい品々であるが、それらが全て、彼女の為に用意された花嫁の装飾品だと判った途端、侍女達が寄って集って、彼女を飾り立てる段取りを考え始めた。

この装飾に合うドレスの型を選び出し、レースやフリル、刺繍までをも吟味した侍女達は、その総決算を、ここぞとばかりに力いっぱい披露し始める。

当の姫君は…無抵抗で成すがままである。

花嫁の装飾品は、以前の婚約者と共に選んだものであったが、これを着ける様にと、エルフィンからの希望に従っているだけ。いや、懐かしい品々だった故に、エルフィンの希望が嬉しかったのだ。

リューリシアナは以前、自分の犯した罪によりエルフィンとの結婚が出来ないと思い、彼を諦めようとした時、呼ばれた己の愛称で彼が、昔喪った婚約者の生まれ変わりだと予想していた。

そして、彼がこれらを宝物庫の最奥から見つけ、結婚式で着ける事を指定された時には、この予想が確信になっていた。

「宝物庫の奥から、やっと見つけたんだよ。

一緒に選んだ物だから、君に着けて欲しいんだ。」

嬉しそうに微笑を浮かべ、そう言われて渡された品々が、侍女達の手で彼女の衣装を飾られて行く。

以前着ける事無く、戦火に紛れて消失したと思っていた物が、現在、無事な姿で花嫁の衣装を華やかさを添える。首飾りから始まり、耳飾り、腕輪、等々…そして、最後に王冠が、何時もの物から替えられる。

普段彼女が着けている王冠は、王妃の物で無く、昔の彼女の物…古の王女だった頃の物。これもまた、エルフィン自らが宝物庫の奥から見つけた物である。

しかし、これから着ける物は、この国の王妃の王冠となり、この結婚式には相応しい物となる。エルフィンの妻になる事の決意を示す王冠が、彼女のベールを飾る。

これが仕上げとなり、何時も続いた着付けが終わった。


「やっと支度が終わったのかね、私の可愛い大地の姫君は。」

楽しそうな男性の、低い声が響くと、侍女達が一礼をして道を開ける。そこには、金髪で紫の瞳を持つ壮年の男性が、嬉しそうな顔で佇んでいた。

「ええ、お義父様(おとうさま)。…あの…何処か、可笑しいですか?」

義理とはいえ、娘の花嫁姿を無言で見つめる男性へ、リューリシアナは質問するが、大きく首を横に振り、彼は答える。

「とんでもない!!世界一美しい花嫁だよ。陛下には勿体ない位の…ね。」

そう言って男性は、彼女を抱きしめる。古の王族とはいえ、今の時代での身分が無いに等しい彼女に、この男性は、養父となる事を希望した。

国王・エルフィンの叔父であり、彼の保護者でもある公爵家のこの男性は、やっと甥が認めた女性の保護する事を買って出たのだった。

大地の女神の祝福を受けた者で、古の姫君となれば、それだけでも彼に相応しいと思っていたが、義理の娘になった女性の聡明さを知るや否や、是非とも甥の嫁に来て欲しいと望んだ一人だった。

彼の妻は既に他界し、子供達も息子しかいない彼にとって、義理の娘として来てくれたリューリシアナは、長年の夢でもあり、目の中に入れても痛くない程の、可愛い娘でしかなかった。

勿論、彼の息子達も、妹が出来た事に歓迎したが、直ぐに嫁に行くことを教えられると、その日数を延ばすよう、花婿になる国王へ進言した位だった。

だが、国王は、それを許す訳はない。

是非とも妃にと、望んだ女性との結婚故に、式の予定を伸ばす事はしないで、結婚後の、月に一度の実家への帰省を条件として提示した。

これに承諾したのは良いが、今度は娘の方が、夫になる相手と離れたくないと言い出した物だから、月に一度以上の面会という話で纏まる。

しかし…婚約期間をも後宮で過ごすと、宣言する娘に家族は、毎日の様に面会に来ていた。娘の方は迷惑だと思わず、優しい方々だと思っていた。

まさか自分が、本当の家族として溺愛されていると判るまで、左程時間は掛からなかったが…。今もそう、義理の父であるこの男性は、実の娘として彼女を扱い、惜しみない愛情を注いでくれる。

エルフィンと何か争う事があったら、遠慮なく実家へ帰って来なさいと、真剣な顔で言う辺り、本当に実の娘として見ていると判る。

そんな父親に、娘であるリューリシアナは、断言する。

「お義父様、御心配には及びませんわ。

私達はこれから、苦楽を共に生きて行くのですから。でも…万が一、そんな事が起こりましたら、直ぐにでも、お義父様達の許へ帰りますわ。」

優しい微笑を添えて告げる花嫁に、父親は深い溜息を吐く。

「…判っては…いるんだけどね…。私いや、私達は、今まで君が不幸だった分までも、幸せになって欲しいんだよ。」

父親らしい言葉に、はいと返事を返し、娘は父の腕に己の腕を絡ませる。

義理に見えない程、仲の良い親子の姿は、王宮から去り、結婚式が行われる神殿へとその足を進めた。

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