表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/48

35.仲直り

 フェンドルの夏がやってきた。

 夏といっても肌寒いので、外出する際は長袖のドレスを着ることになる。半袖でちょうどいいくらいだったサリアーデとは随分違う。リセアネは驚いた。

 春との違いは、日が長くなったことと晴れの日が増えるくらいのものだ。

 その日は、港での公務が予定に入っていた。

 グレアムと共に王室専用の馬車に乗り込み、目的地へと向かう。こうして夫婦揃って出かけることは、今まで殆どなかった。

 あの晩餐会以降、グレアムと2人きりになるのを極力避けていたリセアネは、移動する間中、居心地の悪さを味わう羽目になった。


「――どうしてそのようにジロジロとお見つめになるのです」


 とうとう堪えきれず、先に音を上げたのはリセアネだった。

 窓の外を熱心に眺める振りを続けるのにも限度があった。

 すぐ隣に腰掛けているグレアムが、馬車に乗り込んでからというもの、ずっとこちらを見てくるからだ。


「自分の妻を眺めるのに、許可が必要か?」


 からかうような声色に、リセアネの頬がカッと赤く染まる。


「眺めても面白くも何ともないでしょう。――そもそも陛下のお好みは、賢く落ち着きのある女性では?」


 リセアネの頭に浮かんだのは、もちろんエレノア・ランズボトムだ。

 エレノアは名門の令嬢としては珍しく屋外を好むようで、よく庭で姿を見かけた。

 彼女を目にした途端、回れ右をしてしまうリセアネには、何をしているのかまで窺い知ることは出来なかったが、遠目に見ても凛とした賢そうな眼差しで植物を愛でている様子に、いつも心を苦しめられていた。

 見目だけが優れたお飾りの王妃とは違い、大人の魅力にあふれたエレノア嬢。

 陛下の寵愛を受けていると聞いても、さもありなん、としか思えないことが辛い。

 複雑な嫉妬心に苦しむリセアネの精一杯のあてこすりを、グレアムはさらりと受け流した。


「昔は確かにそうだったかもしれないが、今は違うな」


 己に注がれるグレアムの愛しげな眼差しに、リセアネは唇を噛みしめた。

 どうして今になって、夫が思わせぶりな態度を取るのかさっぱり分からない。幼く思慮の足りないリセアネは、あの日見限られたはずだ。

 柔らかな沈黙の後、リセアネが口を開こうとしたところで、馬車は一度大きく揺れ、やがて止まった。

 

 港には大きな船が何艘も停泊している。

 サリアーデの仲介を経て、今回初めて取引をすることになった南国トルージャの貿易船だ。

 使節団を率いているのがトルージャの皇子だというので、グレアム自らが港まで足を運び、輸入品の検分を行なうことになったらしい。

 そこでリセアネは、思わぬ人との再会を果たした。


「リセアネ王妃陛下。私のことを覚えておいでですか?」

「――もちろんですわ、サリム皇子殿下。ようこそ、フェンドルへ」


 リセアネが初めてトルージャのサリム皇子に会ったのは、今から五年前のこと。姉・ナタリアの求婚者としてサリサーデを訪れた皇子には、正直不愉快な思い出しかない。

 ところがサリム皇子にとっては違ったようで、親しげな物腰でリセアネに話しかけてくる。


「こうして誰かのものになってしまった貴女を見る羽目になるとは。心が破れてしまいそうです」


 リセアネにだけ聞こえるような小声で、甘い戯言まで囁いてくるのには、ほとほと呆れてしまった。

 傍から見れば、サリムは感じの良い美青年でしかない。だがナタリアに求婚しに来たというのに、あっさりと妹姫に鞍替えしたサリムは不実な男だった。

 姉様の素晴らしさが分からなかった時点で、人を見る目がないとしか言いようがない。リセアネは決めつけ、こっそり溜息をついた。

 どうにかしてサリムから離れられないものか、と策を巡らせていたその時。


「リセアネ。こちらへ」


 優しげな低声で名を呼ばれ、リセアネは弾かれるように声の方に目を向けた。

 まさか。そんなはずはない。

 ――だって、今まで一度も名前で呼ばれたことなんてないもの。

 グレアムは手を伸ばし、戸惑うリセアネを力強く引き寄せた。


「ずいぶん皇子と親しいのだな。嫉妬させるつもりか?」


 貨物の説明をしていたトルージャの文官、そしてフェンドルの事務官らの間からどよめきが起こった。

 王が王妃に対し、公の場であからさまな愛情表現を示したことへの驚きだった。

 グレアムのこれまでを知っている王室警備隊の面々は、目を丸くして主を凝視した。

 女性嫌いで通っていた気難しいグレムアの姿はどこにもない。


「まさか! お戯れを仰らないで!」


 リセアネは真っ赤になって身をよじったが、愛らしい照れ隠しだと誰もが微笑ましく見守っている。

 そんな中ただ一人悔しげに拳を握りしめていたサリムは、グレアムの鋭い一瞥に背筋を凍らせた。

 ほんの一瞬目があっただけだったが、あからさまな牽制を含んだ凄みのある眼差しだった。


「これからも貴殿の国とはより良い関係を築きたいと願っている。その為にも、私の宝にはあまり近づかないで頂きたいものだ」


 グレアムはふっと視線を和らげ、冗談めかしながらもしっかりと釘をさした。サリムはただ頷くことしか出来なかった。



 その夜、リセアネは久しぶりにグレアムの訪れを受け入れた。

 相変わらず指一本触れてこようとしないグレアムに、言い知れない悲しみを覚えながら、リセアネはもそもそと寝台にもぐりこむ。

 グレアムは手慣れた様子で薄い掛け布を引き上げ、リセアネを包みこんだ。


「随分、大人しいのだな」

「……今日は一日中一緒でしたもの。何も申し上げることがございませんわ」


 視線が絡むのを恐れるかのように、リセアネは天井を見つめたまま小さく答える。

 頑なにこちらを向こうとしないリセアネの耳が赤く染まっているのに気づき、グレアムは薄く微笑んだ。

 心の内を知った今となっては、彼女の仕草の一つ一つに己への恋慕を読み取ることが出来る。

 妻の願いを叶えてやりたい。あの健気な元皇女の願いも。

 そして、かつての友が愛したファインツゲルトの民の未来も、より良いものにしたかった。

 人が聞けばなんと貪欲な、と呆れることだろう。

 だが、何一つ諦める気にはなれないのだから仕方ない。


「貴女の父君から私信が届いた。来月、王宮でクロード殿下の誕生会を開くそうだ。その式典で国王自ら、王太子妃の選定へ入るとの宣言をされる心積もりらしい」

「なんですって!?」


 リセアネは、寝耳に水の知らせに飛び起きた。

 今月に入りクロードからきた手紙を思い返してみるが、そんなことは全く書かれていなかった。

 だとすればクロードの意志とは関係なく、父がいつまでも身を固めようとしない王太子に痺れを切らし縁結びに乗り出した、ということなのだろう。

 ああ、ティア。お兄様。私は、間に合わない。


「王妃はクロード殿下に気の進まない婚姻を結んで欲しくない。そうだな?」

「もちろんです! 大切な……大切な兄なのです。私が物心ついた時から、兄が自分から、自分の為に何かを望むのを見たことがありません。兄はきっと父の進言を受け入れるでしょう」


 話しているうちに感情が昂ぶり、リセアネの声は震え始めた。


「――一体、どうすればいいのでしょう。兄が愛しているのはティアだわ。ティアも同じ想いなのに、引き裂かれてしまうなんて。……私が、私が無力だから」


 嗚咽を噛み殺しながら、はらはらと涙を零すリセアネの頬を、大きな固い手が拭った。


「頼むから泣いてくれるな。それに私の妃を悪く言うのは、今後一切止めて貰おう」


 リセアネは濡れた瞳を上げ、きっとグレアムを睨みつけた。


「下手な慰めはいりません。陛下だってそうお思いでしょう? 綺麗なだけで考えの足りない白痴姫。それが私ですわ。生きた人形なのです」

「いや、違う。そんなつもりは無かった。あの時は、他ならぬ貴女に他所の女を充てがわれ、カッとしてしまったのだ」


 グレアムはすかさず首を振り、疑心に満ちたリセアネの前で深々と頭を下げた。

 一国の王であるグレアムが、誰かに頭を垂れることはない。許されてもいない。リセアネは蒼白になり、目の前のグレアムに縋り付いた。


「陛下!? なりません! どうか顔をお上げになって!」


 細い手で頑強な肩を揺さぶってみるものの、グレアムは微動だにしない。

 リセアネは何とかしようと必死で手を伸ばした。グレアムの両頬を包み、力任せに引き上げる。

 ようやく目が合うと、グレアムはリセアネが居た堪れなくなるほど優しい眼差しで見つめてきた。


「許してくれるか? 女心の分からない粗野な男だと、気の済むまで罵ってくれ。リセアネ」


 自分の名を呼ぶグレアムの愛しげな声に、リセアネはとうとう屈した。


「……私が悪かったのです。もっと思慮深く行動すべきでした。ティアが兄様の隣に立てるくらいの身分を得られると、舞い上がってしまいました」


 グレアムはリセアネの手に自分の手を重ね、じっと言葉の続きを待っている。


「それでも、陛下に頭ごなしに叱られるのは、辛かった。……陛下に、嫌われたと。失望させたと、そう思って」


 リセアネは途切れとぎれに告白し、きつく目を閉じた。


「エレノア嬢を推薦したのは私なのに、いざ陛下があの方を寵愛し始めたら、苦しくてたまらなくなりました。……馬鹿でしょう。どうぞ、お笑いになって?」

「嬉しい」

「え?」


 リセアネは耳を疑った。

 グレアムは微笑むとリセアネの手を取り、左手の薬指に口づけた。


「愛しているよ、私の妃。貴女だけが私の妻だ。エレノア嬢には指一本触れていない。剣に誓って、だ」


 上目遣いで告げられ、リセアネの頭の中は真っ白になった。

 唖然としているリセアネに向かって、グレアムは計画を打ち明けた。


「私はサリアーデへ行ってくる。クロード殿下の婚約が正式に決まってしまう前に、貴女の父君と話をしようと思う。全てを任せてくれないか?」

「――どうか。どうか、お願いいたします!」


 ようやく我に返り、リセアネは懸命に懇願した。


「ティアを兄様に嫁がせる方法があるのなら、どうかお力を貸して下さいませ。私に出来ることがあるのなら、どんなことでも致します! ……出来ることがあれば、ですけれど」


 グレアムは、やれやれ、と呟き、涙に汚れたリセアネの瞳を覗き込む。

 二人はしばらくお互いに見入った。

 見間違えようのない恋慕を互いの瞳に見出し、やがてどちらからともなく唇を合わせる。

 リセアネはもう唇を拭ったりはしなかった。

 経験のない妻を驚かせないよう、グレアムは忍耐力を総動員して、軽いキスにとどめた。


「卑下するのはやめろと言った筈だ。私の妃は勇敢で、正義感が強く、公平な女だ。頭もいい。情が深すぎるきらいはあるが、そこも美点だと思っている」


 グレアムの注意に、リセアネは思わず噴き出した。

 心が羽のように軽く舞い上がる。グレアムはリセアネを愛している、と確かに言った。勇敢で公平? 頭がいい? 今まで誰にも言われたことはないが、もしかしたらそうなのかもと思えてしまうの不思議でならない。


「私を評してそんなことを言うのは、世界中を探しても陛下くらいだわ」

「それなら良かった。誰にも決闘を申し込まずに済む」


 グレアムも破顔し、2人はひとしきり声をあげて笑った。


「では、私にも何なりとお申し付け下さい」


 涙の痕をぐいと拭い、強い意志の光を瞳に宿したリセアネが言う。


「事が成った暁には、あなたが欲しい」


 グレアムは平然とした表情で答えた。


「な……にを」

「エレノア嬢には指一本触れていないと言っただろう? ……いつまでも我慢が出来るとは思うなよ。私も男だ」


 あっけに取られているリセアネを隣に横たえ、グレアムは固まったままの妻の額に軽いキスを落とした。


「返事は?」

「――陛下は意地悪ですわ!」


 驚きと羞恥で混乱してしまったリセアネは、頭まで掛け布を引き上げ、布越しにくぐもった悪態をついてくる。


「そうだろうか。妻にここまで甘い夫はなかなかいないと思うのだが」

「もう何も仰らないで!」


 掛布にくるまったまま身悶えするリセアネは、まるで芋虫のようだ。グレアムは可笑しくなった。

 だが口に出すのは良くないのだろう、と賢明にも口を噤み、布越しに最愛の妃を見つめる。

 芋虫王妃の隣に寝そべり、布ごとぎゅうと抱き締めれば、リセアネは再びかちこちに固まった。



 それからしばらくして。

 グレアムは数名の騎士を伴に、サリアーデへ旅立った。名目はクロードの誕生祝いを兼ねた視察だ。

 王城の外門まで見送りに出たがったリセアネは、その前夜、グレアムにやんわり諌められてしまった。


「見送りはいい。港まで宰相もついてくるそうだ。私と王妃があまりに仲睦まじいと、怪しまれてしまうからな」

「私は陛下の不在を見計らって勝手にダルシーザを訪問する、気儘な王妃ですものね」


 リセアネがわざと拗ねてみせると、グレアムは彼女を抱きしめることでそれに応えた。


「損な役をさせてしまうな。許せ。――留守を頼んだ」

「何でもすると言ったのは私ですもの。……いってらっしゃいませ」


 腕の中ではにかむリセアネに、グレアムは幸福な目眩を覚えた。

 和解してからというもの、リセアネの美しさに更に磨きがかかったような気がしてならない。

 後ろ髪を引かれる思いで、グレアムは馬上の人となった。


 グレアムが王宮を発った次の日。

 リセアネは打ち合わせ通り、エレノアを自室に呼びつけた。

 怯えた様子でエレノアを連れてきた侍女を下がらせ、ついでに人払いを済ませる。

 少し前から傍妃候補に嫉妬する正妃を演じた甲斐あって、誰もこれが予定調和のお芝居だとは気付いていないようだった。


「ようやくお目にかかれました。王妃様、お久しゅうございます」


 丁寧に膝を折るエレノア・ランズボトムに、リセアネは硬い笑みを浮かべた。

 グレアムの言葉を信じていないわけではない。

 だが夫の方に気持ちはなくても、目の前の令嬢はどうだろう。エレノアが僅かでもグレアムへの思慕を抱いていたなら――。

 独占欲と罪悪感がないまぜになり、リセアネは短く息を吐いた。


「……どうか、お掛けになって」

「はい。失礼いたします」


 ソファーに腰掛けたエレノアに、ティアがお茶の給仕を始める。

 ティアとエレノアが親しげな視線を交わすのを見て、リセアネは首を傾げた。


「もしかして、ティアはエレノア嬢と面識があるの?」


 こくり頷き、ティアは取り出したメモに鉛筆を走らせリセアネに差し出した。

 声を出せるようになったとはいえ、老婆のように醜くしわがれた己の声を耳にするのは辛い。

 リセアネはティアの羞恥心を慮り、今までのように筆談でも構わないと告げてある。

 『それに、ティアのお喋りする声を真っ先に聞きたいのは、兄様でしょうからね』

 そう微笑んでくれた優しい主に、グレアムとの密談を打ち明けることは出来なかった。

 言えば、どんないきさつで話すことになったのか、と問われてしまう。

 すっかり仲直りをした2人に安堵しているティアは、そのきっかけを作ったのが自分だとリセアネに知られたくなかった。

 誰かに促されたせいでグレアムが動いた、などという勘違いをして欲しくない。


<ファインツゲルトの土地について、色々尋ねられていたのです。どんな環境でどんな植物が育つのか。エレノア様は黒麦の改良にご興味をもたれていて、十八の時から色んな交配を試されているそうですわ>


 メモを読み終わったリセアネはティアとエレノアを見比べ、きゅっと眉根を寄せた。

 随分前から、この2人は交流を持っていたらしい。嫉妬の針がチクンとリセアネの心をつつく。


「どうやらエレノア嬢と陛下のことを知らなかったのは、私だけのようね。酷いわ、ティア。私がどんなに気を揉んでいたか、知っていた癖に」

「――もうしわけありません」


 ひび割れた掠れ声は、ティアの唇から洩れたものだった。たおやかな美しさをたたえるティアのあまりに酷い声に、リセアネもエレノアも息を飲んだ。

 悲しげに眉を下げたティアを見て、リセアネは自分の首を絞めたくなった。


「謝らないで! ……ごめんなさい。ちょっと考えれば分かるのにね。陛下に口止めされていたのでしょう? 私は本当に愚かだわ。ほとほと自分が嫌になってしまう」


 ほろ苦い笑みを浮かべ頭を下げようとするリセアネを、ティアは慌てて押し留めた。

 激しく首を振るティアに、エレノアも加勢する。


「王妃様のように情け深い方が、愚かなはずはありません。人の痛みを我がことのように感じ、自尊心を折ってでも謝罪される。しかも最も高い身分にあって、です。そのように素晴らしい女性を王妃として持つことが出来たこの国を、私は誇りに思います」


 エレノアがリセアネと接したのはほんの僅かな時間だった。結婚式の前と、そして今。

 だがエレノアは王宮に上がってからというもの、一方的にではあるが、ずっとリセアネを見てきた。賢王と謳われるグレアムの一言が、そのきっかけだ。

 初めて王の寝室に呼ばれた日。

 緊張と不安で身を固くするエレノアに、グレアムはこう言った。

 ――『わざわざ王宮に上がってくれたというのに、貴女に寵愛を与えることは出来ない。どうあっても、私は王妃だけしか愛せない。すまない。期待させてしまったのなら、どのようにも詫びよう』

 恐れ多い、と後ずさるエレノアに、グレアムは他に何か望みはないか、と尋ねてきた。

 迷惑をかける詫びに、何でも言って欲しい、と。

 真摯な王の謝罪を受け、エレノアは長年の夢を思い切って打ち明けてみることにした。

 結果、グレアムは快く彼女の夢の出資者となることを約束してくれたのだ。

 誉れ高き王に、「ただ一人しか愛せない」と言わしめた姫は、どのような方なのだろう。

 エレノアは、次の日からリセアネを目で追うようになった。

 王妃たろうと努力しているリセアネを見て深い尊敬を抱くのに、そう時間はかからなかった。

 

 リセアネは大きく目を見開き、エレノアの訴えを聞いていたが、彼女が口を噤むとみるみるうちに大粒の涙を浮かべ始めた。


「お、王妃様!? 私は何てことを……。出過ぎたことを申しました。どうかお許しを」

「違う、違うの!」


 謝ろうとするエレノアに向けて、リセアネは必死に笑みを浮かべた。


「嬉しくて。――そんな風に仰って下さることが、本当に嬉しくて。私達、お友達になれないかしら? 本当のことを言うと、結婚式の日から貴女と仲良くなれたらと思っていたの」

「有難いことでございます。私のような者でよろしければ、どうか末席にお加え下さいませ」


 エレノアは頬を紅潮させ、リセアネの差し出した手を両手で握りしめた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ