スイッチ
あらすじはひどく真面目に書いてますが、内容はとても下らないものとなっています。他の皆様の作品を読まれた後の気分転換や、小休止などとして読んで頂ければ幸いです。
僕はそのボタンに手を伸ばした。
手を伸ばして、そのまま動きを止めた。指先が震える。
このボタンを押せば全てが終わる。いや、始まるのか。どちらでもいいことだ。とにかく、変化が訪れるのだ。僕はその変化が恐ろしいのだろうか。
ポン、と僕の肩が叩かれた。振り向くと友人が僕のことを見ている。真剣な顔つきだ。
「無理しなくていいんだぜ」
僅かに顔を綻ばせてそう言った。
「でも」
僕は何か言わなければと思った。思ったけど、言葉が続かない。
「言い出したのは俺達だ。別にお前が罪をかぶる必要は無いんだ」
「そうさ。お前は単なる巻き込まれだ。そりゃ、これに加担すれば全員共犯者だ。だが、最も危険なのはやっぱりボタンを押した奴だ」
もう一人の友人と二人、僕をなだめる。僕を思いやる二人の心使いが胸にしみる。
事の発端はなんてことはない、単なる思い付きだ。友人の二人が思いついて、僕も承諾したというだけの話だ。もちろん、それが持つ罪の重さを知った上で。
ならばやっぱり、承諾した時点で僕も彼らと同じだけの罪を背負っているのだ。
そうだ。
もう、迷う必要は無いだろう。
「いや、これはやっぱり僕が押すよ。」
「……いいのか?」
「二人を止めない時点で、僕も二人と同じ、罪人さ。僕たち三人は一蓮托生、堕ちるなら三人一緒だ」
「へへっ。嬉しいこと言ってくれるじゃないか」
僕は二人の前に拳を突き出した。
歯を見せて笑った二人はそれぞれの拳を突き出す。
コン、と軽く拳をぶつけて頷きあう。
僕には二人がいる。何も怖いことは無い。
「さあ、二人とも。準備してくれ」
僕は再びボタンに指を伸ばす。戸惑いは無い。指先も震えない。
振り返って二人を見ると、もう準備は終わっていた。冷や汗を流しこちらを見つめていた。空気が緊張しているのを感じる。
三人の視線が交錯する。
今だ!
僕の指がボタンを正確に捉え、押し込む。
――ピンポーン!――
僕らは全力で走った。
最後まで読んで頂きありがとうございます。ええ、そうです。ただのピンポンダッシュです。ただただこのオチをつけたいが為だけに書いたお話でした。こんな下らないものにお付き合い頂きまして恐縮千万です。
そしてどうしてもこれだけはお伝えしておかねばなりません。
“当作品はピンポンダッシュを肯定、推奨、助長またはそれらに類する目的で書いたものではありません。とても迷惑な行為ですので、くれぐれも真似などなさらぬようご注意下さい”
こういうものを書いた以上注意書きをしておかないと怖い小心者ですので……。
長々とお付き合い下さりありがとうございました。よろしければ他の作品も読んで頂けると光栄です。