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うそつき  作者: 焼き卵
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うそつきデビュー

昭和61年8月。

たかしは、原チャリで田んぼの真ん中の道を走っていた。


「あーあ、また負けちまった。」


給料手取り11万円。この年の3月に大学を卒業した後、

4月から難関の教員採用試験に一発で合格して、田舎の小学校に

赴任したのである。


「もうちょいねばれば、出たかな?」


たかしは、大学入学前の18歳の時からパチンコにはまっていた。

当時は、フィーバー台の全盛期。


給料11万円の身が、今日も3万円の負け・・・・

今月は、すでに給料が底をついた。


「明日の飯、どうしようかな?」


たかしは、小学校の教員の才能があったようで

仕事は、サクサクと進めており、先輩の評判も上々であった。


けれども、彼には、小さい時から人には言えない「くせ」が

あった。


彼は、「うそつき」だったのである。


第1章 小学生のころ


たかしが、はじめて意識してうそをついたのは、小学校1年生の時である。

勉強は、「ややできる」。体育は「ぜんぜんだめ」。クラスの中で目立つことに

無かったたかしだが、小さい時から目立ちたがり屋であった。


夏休み前のある日、クラスの中で夏休みの話題が盛り上がった・・・


「おれ、夏休み、お父さんと一緒に東京に行くんや。」


クラスメートの声が聞こえた。

そんな時、たかしは思わず、


「おれ、カブスカウトの仲間と一緒にハワイに行くんや!」


「えーーー。いいなぁ。」


クラスメートの羨望の声がたかしには心地よかった。

小学校前から教会の日曜学校に通っていたたかしは、

その日曜学校の夏休みの2泊3日の合宿を課題に表現したのだ。


本当は、近くの森に林間学校に行くだけだったのだ。


いつもはあまり目立たないたかしだが、クラスメートの羨望の声に

いい気分で休み時間をおえることができた。


けれども・・・・


次の時間が始まると、クラスメートが担任の久郷先生に


「先生!たかし、夏休みにハワイに行くんやって。」


海外旅行がまだまだステータスだった1960年代。

「ハワイ」の響きは、久郷先生にとっても魅力的だったらしく、

すぐにたかしに聞いてきた。


「そうなの!先生もそんな遠くに行ったことはないわ。すごいわねぁ。」


この時が、たかしに残された最後のチャンスだったかもしれない。


「先生。ごめんなさい。ついうそをついちゃいました。」


その一言が言えていればたかしのその後の人生は変わっていたかもしれない。


「はい。カブスカウトの合宿がハワイであるんです。」


まさに、うそつきデビューである。


久郷先生は、職員室でそのことを話題にした。ますます、話が広がっていく。

音楽の先生も図工の先生もたかしの教室に来る先生は、みんなその話題を口にする。


たかしは、どんどん話を盛っていかなければいけなくなった。


「ハワイのカブスカウトの子ども達と遊ぶんです。」

「1週間ほど行きます。」


そんな日々が2週間ほど続いた。


やがて1学期も終わりに近づき、通知簿渡しの日がやってきた。

たかしの小学校では、保護者が学校に来て、通知簿をもらうことになっている。


たかしは、その日、朝から落ち着かなかった。


「お母さんが学校に来る・・・うそがばれてしまう・・・」


学校は、午前中で終わり、たかしはドキドキしながら家に帰ってきた。

母親は、まだ仕事に行っている。たかしの通知簿渡しの時間は、2時ちょうど。


やがて、玄関先に走ってくる音が聞こえた。


「たかし!どういうことなん?」

「ハワイってなに!」


担任の久郷先生に話を聞いた母親が、家に駆け込んできた。

たかしは、何も言えずに下を向いていた。


母親は、その様子を見てたかしがうそをついていたことを悟ったようだ。

母親を泣きながらたかしをつれて小学校へと向かった。


たかしは歩きながら、ぼんやりと横を流れるどぶ川を見ていた。


学校につくと久郷先生と母親がしゃべっている。

母親は、必死で先生にあやまっているが、たかしは、変に冷めていた。


「うそをつくとこうなるのか・・・・・」


たかしはぼんやりとそんなことを考えていた。


夜になると父親も仕事から戻り、たかしは、ぶんなぐられた。


うそがばれると痛い思いをするんだ・・・たかしは、そんなことを学習した。


次の日になると父も母もいつものような様子になっていた。


そうして、1年が過ぎた。


たかしは2年生になった。


この当時の子ども達にとっての一番の楽しみは、年に何度かやってくる

「お祭り」だった。


たかしの住んでいる町にも「お祭り」がやってきた。

夜店が準備され、なんだか楽しい雰囲気になってきた。


先週「お祭り」がやってきた町に住んでいる友達が学校に

緑ガメを持ってきた。


クラスメートは、その子の周りに集まり大騒ぎだった。

今と違い、緑ガメは、子ども達のアイドルだった。


たかしは、その様子を見てどうしても緑ガメがほしくなった。

クラスメートに聞いてみるとその緑ガメは、夜店で500円で

売っていたそうである。


家に戻り恐る恐る母親に小づかいをねだると、一言で断られた。

当時の500円は大金である。


次の日も友達は、緑ガメを学校に連れてきていた。


たかしは、つい


「おれも緑ガメ持ってるよ。」


と言ってしまった。


クラスメートは、その言葉にすぐに反応し、次の日学校に持ってくることとなった。

学校がおわり家に戻ったたかしは、すぐに近くの川に出かけた。

川に行けばカメがいるかもしれないと思ったからである。


たしかに川にカメはいたが、緑ガメとは似ても似つかない「石カメ」が

河原で寝そべっているだけだった。


どうしようもなくなったたかしは、その夜母親の財布から500円を抜き取ることを

決意した。


母が仕事から帰り、茶の間に財布を置くのを確認するとたかしは、母に


「お母さん、財布、台所に持っていっておくね。」


いつもは言わないセリフを言い、母の財布を台所を運んだ。

母の目が見えなくなるとたかしは、母の財布から500円札を抜き取った。


その瞬間、


「なにしてるの!」


背中から母の大声が聞こえた。

いつもと違うたかしの行動を不審に思った母が台所をのぞきに来ていたのだ。


その日の夜も当然たかしは、父にぶんなぐられた。


けれでも次の日になると父と母は、いつものようになっていた。


こうして、たかしのうそつき人生が始まったのである。







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