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流れには追い付かない

本編、最終話です。最後までお楽しみください。




 なんというか、ひとまず久羅のことは解決した、ということでいいだろう。解決したという割には事の真相は分からないままだが。

 まあ、藍さんが言ってたように、いずれ分かるだろう。火のない所に煙なしってね。だから今はよしとしておこう。


 さて。これからは今の話。先ほど昼ごはんを食べ終えた。博麗たちからの味の評価は思ったりよかった。まあ、伊達にこの半年間、自炊してきたわけじゃないからな。それなりにできるようになってるさね。

 それで今はゆっくりと縁側でくつろいで……いた。今日は昨日よりも暑くないし、夏にしては過ごしやすい。くつろぐにはもってこいの環境だ。なのだが……こいつらが来ると、まずくつろぐことなんてできなくなる。え? こいつらって誰かって? そりゃこの2人だ。


「それでそれで、その後どうなったの代!?」

「どうなったんですか!?」

「だぁ! うるさい! どうもこうもねぇよ! そのまま帰ってきたっての!」


 俺は大声でそう言った。そんなんじゃ分かりません、とか言ってるダカラスがいたが無視した。かまったらきりないしコイツの場合。それで博麗は隣で他人事のような顔をして、和菓子を食べている。

 この2人、というのはダカラスこと文と、本来ここにいないはずの流花である。俺のこれまでの経験上、この2人がいると鬱陶しいことこの上ない。まあ、1人だけでも鬱陶しいのは変わらないが。


「つか、なんで流花いんの? 仕事はどうした」

「サボって来ました!」

「そうですか。文。咲夜さんに伝言を」

「ゆっくり話し合うじゃないか代」


 流花は俺の肩に手を乗せてそう言った。話し合うって何を? 別に話し合うことはないんだけど。


「いやね、代。分かるよ気持ちは」

「何がだよ」

「でもさ、たまには休息も必要なんだよ」

「流花さん。分かりますその気持ち」


 今度はなんか共鳴し始めたし。なんなん? 本当に鬱陶しいくてたまらんのだが。そろそろご退場をお願いしようか。と、俺は思いながら裾に手をいれてスペカを握った。その時だった。


「賑やかじゃのう」

「あ、久羅だ」


 声を聞いて、俺は振り向く。奥から久羅が縁側に向かって歩い来るのが見えた。んー……なんかやっぱり違和感あるなあ。まだ今の久羅の姿になれてないだけだと思うけど。


「どうも久羅さん」

「おや、文もいたの」

「早速ですが、空狐の件につい」

「おおっと!?」

「!? あちゃぁ!?」


 文が久羅に話をしようと振り向いたとき、文の手が俺の肩にぶつかって、その反動で手に持っていた湯飲みを落とす。すると中のお茶(熱湯)が文のもう片方の手にかかった。文は手を押さえて悶える。その後に、こんなことを言ってきた。


「い、いきなり何するんですか! というか、なんで熱湯なんですか!?」

「いや、そう言われて」

「代ぉ〜。そういうことはやっちゃダメだよ」

「え? いや、だから」

「こぼしたんなら、ちゃんと拭いておいてよ代」

「……」


 俺は無言で久羅の方に顔を向ける。すると……


「はい。雑巾」


 ……雑巾を渡された。それどっから持ってきたんだよ……


「……ありがと」


 俺は久羅から雑巾を受け取り、泣きたい気持ちを押さえてお茶がこぼれた場所を拭いた。

 どうして弁明もできずに、俺がやっとことになってるんだ? 今のは明らかに文が原因だろ。百歩譲って文が原因じゃないとしても、不慮の事故だ。それなのにコイツらときたら……


「……思うだけ無駄か……」


 ため息をついてそう呟いた。いうだけ、思うだけ無駄よね。言葉にしても耳を傾けてくれそうにないし、思うだけだけじゃ意味ないし。何より今に始まったことじゃないし……


「はぁ……」


 俺は床を拭きながら、またため息をつく。なんか疲れた。考えごとをするのはもうやめよう。

 やがて床を拭き終わり、俺は雑巾を持って立ち上がり、縁側から茶離れて、茶の間の戸を開く。その時に立ち止まってふと思った。


「この雑巾どこにあったヤツだ?」


 そういえば、これはどっから持ってきた雑巾なんだ? 久羅が持ってヤツだが……というか、よく見てみるとこれ、雑巾じゃなくてハンカチじゃないか? なんか手触りもそんな感じだ。もしかして……これってどっからか持ってきたのじゃなて、久羅のハンカチだったんじゃ……


「なあ、久羅。これって、もしかして久羅のハンカチか?」


 俺は振り返り、久羅の顔を見て聞く。と、久羅はこう答えた。


「うむ。そうじゃよ。儂のじゃ」

「ああ、やっぱりか。これどうすればいい?」

「洗うって返すのが当たり前でしょ代」

「え?」


 そんなふぬけた声を出して、俺は前を向いた。向いた先の方からは樟葉が来て、そのまま俺を避けて茶の間へと入っていく。俺は何も言わずに、というか言えずに樟葉を目で追った。流花と文も何も言わずに、ただ樟葉を見ている。

 えと……今の聞き間違えかな? 樟葉が俺のこと呼び捨てで言ったような気がしたんだけど……気のせい、だよな……?


「ん? どうしたの代。人の顔ずっと見て」

「あ、いや、うん。なんでもないよ」


 気のせいじゃなかった。やっぱり呼び捨てしてる。いや、別に呼び捨てするとかじゃなくて、なんでこう……急に呼び捨てするようになったんだろうか? と、流花と文がが言葉を発する。


「ねえ、代。その子誰?」

「知り合いですか?」

「あー……知り合いというか……」


 俺はチラッと樟葉の顔を見て、アイコンタクトをとろうとする。樟葉は俺の視線に気づいたからか、軽くため息をつく。その後、すぐに笑ってこう言った。


「初めまして。天風流花さん、射命丸文さん。あなた方の話は耳にしております。私は狛木樟葉。代の双子の妹です」

「いや、ちょっとまでぇ!?」


 樟葉の言葉にツッコミを入れようとしたら、突然、樟葉の右肘が後ろに下がってきて腹に直撃した。あまりの痛さに腹を押さえて、その場にしゃがみ込む。その後、しばし痛みに悶える。


「え、ちょ、今のなんですか? 樟葉さん……」

「え? あ、代ごめん。反射的にしちゃった」

「お、おう……」

「いや、今の故意的にしたように見えたけど……」


 流花のおっしゃる通り。


「まあ、とにかく、私は代の双子の妹なんです。これからよろしくお願いしますね」

「あ、はい。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


 樟葉と文と流花は、互いに向き合って会釈する。なんというか、すごく奇妙だ。義理と実が互いに挨拶するのって……腹がまだ痛い。

 俺は片手で腹を押さえたまま立ち上がる。本当にまだ腹が痛む。どれだけ力込めたんだよ……とりあえず、樟葉の話にあわせよう。またアレをくらいたくないし。


「そ、そんなわけだから、これから仲良くしてな2人とも」

「うん」

「分かりました。さてと」


 文が縁側から立ち上がり、翼を広げる。そして、振り返って一言。


「ネタ提供ありがとうございます! これはいい記事になりそうですよ!」

「へ? あ! ちょ、待」

「それではまた!」

「テメ、文ぁ! 変な記事書いたら、またはったおすからなぁ!」


 遠く空に消えていく文の姿に向かって、そう叫んだ。しまった。すっかり文のこと忘れてた。また変な記事書かれるのかよ……毎回毎回ネタにされる度に誤解を解くのどれだけ大変か分かってるのか? まあ、そういうの知ったこっちゃねぇ、ってこと感じだけど。


「……うん。それじゃあ、私もそろそろ帰るね」

「あら、流花さんもですか?」

「うん。そろそろ帰って仕事を続けないと、あの人にまた怒られちゃうし」


 だったらサボったりして来たりすんなよ、と心の中で流花にツッコミを入れた。そら、誰だって怒るがな。


「そうですか。お仕事、がんばってください。私はいつでもここにいるので、よければまた来てください」

「ついでにお土産もよろしくね」

「あはは。考えておくよ。それじゃあまた」


 流花はそう言って立ち上がり、鳥居の方まで歩き、そのまま石段を下って行ったようだ。飛んで帰れよ。そっちの方が速いだろうに。


「……ねぇ、代。隠す必要あったの?」


 流花の姿が見えなくなったと同時に、博麗が俺にそんな質問をしてきた。なんだよ藪から棒に。そう思いながら、俺は答える。


「そうだな……あったといえばあった。まあ、色々とあるんだよ。隠さなきゃいけない理由が」

「ふうん……そう」

「まあ、後で流花には伝えるよ」

「さぞかし驚くだろうねあの子」


 樟葉は笑いながらそう言った。まあ、驚くだろうな。そしてグーが飛んできそうだ。なんで今まで黙ってのかって……


「……あれ? そういえば久羅は?」


 そういや、さっきまでいた久羅の姿が見当たらない。誰かいなくなったような感じはしてたんだが……久羅がいなくなってたのか。どこに行ったんだろ?


「なあ、久羅どこに行ったんだ?」

「久羅さん? 久羅さんならさっき裏の茂みの中に入っていったよ」

「し、茂み?」

「うん。誰かに呼ばれたからって」


 なんじゃそりゃ……誰かに呼ばれたって、誰にだよ。まあ、それは本人のみぞ知る、かな。とりあえず、いなくなるなら一言いってけ。いきなり無言で居なくなったりしたら心配するだろうに。


「あ、そうだ。霊夢。今暇でしょ?」

「お茶のみで忙しいわ」

「暇ね。これから里に買い物行こうよ。何かおごるからさ」

「行きましょう」

「え、ちょっと!?」


 唐突過ぎる話でほんの一瞬、何をいってるのか分からなかった。どうして久羅の話から出かける話になったんだよ。さっきまでの話に関連性はあったのか? いや、ない――


「それじゃあ、留守番よろしくね代」

「え? あ、オイ!? ……行っちゃったよ」


 気がつけば樟葉と博麗は外にいて、そのまま一言残して去っていった。その時間、まさに風のごとし。瞬く間の出来事だった。なんていうか……一言くらい言わせてよ。お願いだから。


「……流れる時間には犬も録も追いつかないってか?」


 そんな言葉をぼそりと呟いた。本当、流れる時間ってあっという間に過ぎてくよなあ……












風心です。


やっと、ここまでこぎ着けることができました。この話をもって、本編は終わりとなります。


からこれ初掲載してから四年近くが経ちました。途中とで色々とありましたが、なんとか続けることができました。


これも、この話を読んでくれる、読み続けてくれる読者の方々がいるお陰です。本当に心の底からお礼を申し上げます。


さて、本編は終了しますが、流犬録自体はもう少しだけ続きます。今度は番外編を掲載する予定です。こちらも是非、読んでください。


それともうひとつ。現在、流犬録の続編にあたる作品を制作中です。詳しい掲載予定日などは決まっておりませんが、もしもし掲載されたら読んでみてください。


それではまた。次作でお会いしましょう!



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