尻尾を巻いて逃げてみた
情けないの一言につきます(笑)
ではどうぞ。
「……もう朝か」
障子の隙間から、僅かに朝日があふれている。外の天気は快晴だろうか。
俺は眠いと呟きながら、上半身を起こし背伸びをした。そして、とんでもないものを見てしまった。
「!」
「ん?」
なんと、妹紅さんが俺の真横で着替えていたのだ。俺は反射的に顔を逸らす。その瞬間、首からいい音が聞こえた。
「お、代起きてたのか」
「え、ええ」
首が痛い。俺は顔を逸らしながら話を続ける。
「? どこ向いてんだ?」
「明日を見ています」
「は? 明日って何を?」
「さあ?」
何を言ってるか、自分でも分からん。つか、早く着替えろ。じゃなくて、他の所で着替えろよ。
「おーい。2人とも起きて……たか」
慧音さんが障子を開けて入ってきた。いいところで来てくれた。
「慧音さんおはようございます」
「おはよう慧音」
「2人ともおはよう。ところで代、さっきからどこを見てるんだ?」
「……明日を見てるんだ」
「そ、そうか」
慧音さんが苦笑しながら少し引いた。そりゃあ、いきなり訳の分からんことを言われたら、誰だって引くよな。
「なあ、慧音。明日を見るって」
「慧音さん。朝食作るの、手伝いましょうか?」
とりあえず、話を変えよう。これ以上突っ込まれても困るし。それと妹紅さん。詮索はよくないよ。
「いや大丈夫だ。もう出来てるからな」
「早っ」
「なら、早く食べようよ」
「ああ、分かった」
慧音さんって、本当に料理得意だな。俺も見習わなきゃな。
◆◆◆◆◆
「ごちそうさま」
「ごっさん」
「お粗末様」
朝食は昨日と同じ、味噌汁にご飯、それから漬け物に焼き魚だった。やっぱり美味である。クセになりそうなうまさだ。俺は食べ終わった食器を、流し台へと持っていった。
妹紅さんは食べ終わった直後に、じゃあなと言って帰って行った。自分の使った食器くらい片付けろや。
「そういえば、代はこちらに住み着くのか?」
と、慧音さんが食器洗いながら俺に話しかけた。
「んー……そういうことになる……のかな?」
「随分とあやふやだな」
「まあ、突然のことだったし、そこまで考えてなかったんですよ。やっぱり、向こうの世界も恋しいですしね」
慧音さんはそうかと言いながら、水を止めて手を拭いた。今気づいたんだが、流し台、やけに近代的だな。
「しかし、まだ戻らないんだろ?」
「戻らしてくれない……ですけどね」
「とりあえず、しばらくはここにいるのだろ?」
「ええ一応」
「住む場所はどうするんだ?」
「……考えてませんでした」
俺は膝立ちになり、顔を伏せ両手を地面につけた。すっかり忘れてたよ。最近、俺忘れ事多くないか? まさか、ボケちまったか? いや、まさかね……
「そうか。なら、里の近くに使われてない小屋がある。そこにしばらく住んだらどうだ?」
「ああ……じゃあ、そうします」
それじゃ、案内するよ、と慧音さんは玄関の方へと歩き始めた。俺も慧音さんの後を追った。
◆◆◆◆◆
「ここだ」
「おー。思ってた以上に綺麗ですね」
「ああ。もう少し荒れてるかと思ったんだがな」
目の前には立派に立っている小屋があった。里から出て約5分くらいの場所にある。小屋の横には川が流れている。
「さてと中は……うん。大丈夫そうだ」
小屋の中もきっちり整理されていた。というか何もなかった。
「ここで大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫です。わざわざありがとうございます」
「気にしないでいいさ。では、そろそろ寺子屋があるから私はこれで。また後で会おう」
「はい。がんばってください」
慧音さんはそれじゃあと言って、里へと戻っていった。
「……でも、なんでこんなに綺麗なんだろ」
慧音さんは昨年から使われてないと言っていた。整理されていたとしても、ホコリ1つないのはおかしい。
「……ま、いいか」
多分、慧音さんが度々来て掃除しているのだろう。俺は床に寝転がった。やはり畳はいい。
◆◆◆◆◆
「……あの小屋あんなに綺麗だっただろうか?」
数ヶ月前来た時は荒れに荒れていた。少しは掃除したが、全部は綺麗にはしてないはずだ。
「……奇妙だな」
誰か住み着いていたりしていたのだろうか? ……いや、そんなはずはないか。
「ま、後で調べればいい」
慧音は不思議に思いながらも、寺子屋へと向かった。
◆◆◆◆◆
「……やることねー」
さっきから俺は寝転がっている。小屋掃除をする気だったのだが、すでに綺麗だったためやることがなくなったのだ。なので暇でしょうがない。
「なんか面白いことないかなー」
そんなことを呟いた瞬間、本当に起きてしまった。突然、小屋の扉が吹っ飛び、そして俺の顔面に直撃した。
「ぶへっ!?」
「ここだよルーミア!」
そして、扉があった場所から、青いワンピースを着た幼女が現れた。いや、背中には氷柱見たいのがあるから妖女か。そしてに……奴はいた。
「そーなのかー」
はい出た! なんでここにいんだよ! ま、まずい。早く逃げなければ……
「ここを秘密基地にしようよ!」
「おおー! いいのかー!」
こいつ、何勝手なこと言ってやがる!
「ここは俺ん家だあ!」
扉を蹴り上げて飛び起きた。渡さん。ここは絶対に渡さん。絶対にだ!
「だ、誰よ!」
青いワンピースの幼女が俺を指差して叫んだ。よしここは神らしくして……
「ふ、ふふふ……俺か? いいだろう。教えてやる。俺は」
「あー! この前の人間!」
「人間じゃねえ! 神だあ!」
せっかくカッコ良く言おうとしたのに、金髪幼女に邪魔された。そして、何故2人とも手に札を持っている。
「アタイの縄張り入るなんていい度胸ね!」
「この前は取り逃がしたけど、今回は逃がさないよ!」
うわー……これはヤバい。
「「食らえ!」」
「ちょ! おまっ! いきな」
ワンピースの子からは氷の、金髪幼女はよく分からない黒い光弾のような物を、俺に向けて放ってきた。
「ぎゃー!」
そして被弾する。しかし、ここは吹っ飛ぶわけにもいかないので、歯を食いしばって耐え凌ぐ。
「ふふふ……なんだ? その程度か? 痛くも痒くもないぞ?」
「「き、きいてない!?」」
2人とも同時に驚いた。嘘です。めっちゃ痛いです。はっきりいって、立ってらんないです。
「さて、次は俺の番か……どうする? 今逃げるなら見逃してやるぞ?」
さあ、逃げろ。逃げるがいい。無力な自分を恨み逃げるがよい。……どうした。早く逃げろよ。頼むから逃げてくれよ!
「いい度胸じゃない。このさいきょーのアタイにケンカ売るなんて」
「そーなのかー」
うわぁーい。逃げるどころか、むしろやる気満々だよこいつら。
「……そうか。なら仕方ない!」
俺は身を構えた。そして、2人の間に目標を定めた。狙うはあそこだ。
「行くぞ!」
俺は大きく踏み込む。2人とも両手を顔の前で交差させて防御の姿勢をとった。ふっ……無意味なことを!
「そこだぁぁあ!」
俺は声を張り上げた。同時に2人は目を瞑った。よし、計算通りだ。
「さらばだ!」
俺はそのまま2人の間を駆け抜けた。2人は豆鉄砲を食らったよう顔をして、俺が遠くなっていくのを見ていた。ごめんね嘘ついて。俺ね、君らには適わないんだ。妖怪に勝てない神様とかおかしいよね。