不死の心
はい。あの人登場ですよー。
ではどうぞ。
博麗神社から慧音さん宅まで、徒歩で数十分。慧音さん宅に着いた時には、もう日は沈んでいた。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様」
「ごちそうさん!」
そして今、慧音さん宅にて夕飯を食べ終えたところだ。ご飯に味噌汁、焼き魚に漬け物と質素だったが、味はこの上なく美味だった。これ、3星とれんじゃね?
「慧音さん、美味しかったですよ」
「ははは。ありがとう」
「慧音の作る飯はどれも美味いもんな」
「そんなことはないさ。妹紅」
あ、そうそう。慧音さんの家にお邪魔しようとしたときに、赤いもんぺを着た白い長髪の少女と出会った。どうやら慧音さんの知り合いらしい。
「あ、そういえば、まだ名前を聞いてなかったや。あのー」
「ん? どうした? 犬っぽいの」
……カチン。
「俺は犬じゃねぇ! 犬が……ゲフンゲフン。神だ神」
犬神だ! と、言おうと思ったが、またあのような事になるのは嫌なので、言うのはやめた。
「へー。神なのか。その割にはまったく神々しさがないな」
「必ずしも、神に神々しさがあるもんじゃないぞ。ワトソン君」
「は?」
「……ごめん。なんでもない。今の気にしないで」
一瞬、恥ずかしくなった。うん。分かる訳ないよね。ごめん。
「ところで、まだ君の名前を聞いてなかったよね」
「え? あ、そういえばそうだな。私は藤原妹紅だ。よろしく」
「白銀狼代です。よろしく」
妹紅さんと軽く握手をする。藤原妹紅って言うのか……ん? 藤原? どっかで聞いた事があるような気が……いや、気のせいか。
「あ、代」
「え? あ、なんですか?」
妹紅さんと握手をし終えた同時に、慧音さんが何か思い出したような顔をして、話しかけてきた。
「聞き忘れていたのだが、代は場所があるのか?」
「場所があるのかって……一体、何がですが?」
「いや、だから、どこか寝る場所はあるのか?」
「……あ」
完全に忘れてた!
「……ないです」
しまった。寝る場所の事、すっかり忘れてた。もう夜も遅いし……どうする俺。
「ないのか?」
「はい……」
「そうか……なら、今日は私の家に泊まっていくか?」
「……な、なんだってー!」
心踊るシチュエーションきたー! とか思ってしまった。しかし、さすがに女性しかいない家に泊まる訳にはいかない。
「いえ、泊まらせていただきます」
……あれ? なんで断ろうとしたのに、泊まらせていただきますとか言っちゃってんの俺。
「そうか分かった。妹紅はどうする?」
「ああー……帰るの面倒くさいから泊まっていくよ」
「ん? 妹紅さんってここに住んでるんじゃないのか?」
「いや、住んでないよ。私の家は竹林の方にあるよ」
「え? そうなの?」
「ああ、そうだよ。どうして妹紅が私の家に住んでるなんて思ったんだ?」
2人ともお茶を飲みながら話をしているので、俺もなんとなくお茶を飲んだ。
「いや、なんかさ。2人見てると、姉妹みたいだったからさ」
「「ぶっ!」」
と、2人同時にお茶を吹いた。おお。見事な息のぴったりさ。
「ゴホッ! ゴホッ!!」
「い、いきなり何を言うんだ!」
「え!? 姉妹じゃないの!?」
「「ち、違う!」」
2人とも顔を赤くして否定した。違うのか。雰囲気が姉妹ぽかったから、てっきり姉妹かと思った。
「た、確かに慧音のことは――!」
「た、確かに私は妹紅のことを――!」
2人は同時に何かを言う。この2人、息合い過ぎだ。つか、声重なって最後の部分聞こえね。
「……ま、いいか」
「「よくない!」」
またハモった。姉妹じゃないなら、親子か何かか? と、言うのは止めよう。俺は一応、紳士だし。……あんなこと言ってる時点で、紳士でもなんでもねぇか。
「ところで」
「な、なんだ?」
慧音さんまだ少し顔が赤いよ。だが妹紅さんはまだ顔が真っ赤のままだ。それに何かぶつぶつ言ってる。
「俺どこで寝ればいいのでしょうか?」
重要な事である。成り行きで泊まることになったとはいえ、さすがに女性と一緒に寝るわけにはいかない。
「あ、ああ……代はここで寝るといい」
「はい。分かりました」
「慧音? 私は?」
あ。妹紅さん忘れてた。
「そうだな……妹紅もここでいいか?」
……え? 慧音さん今、なんて言いました? ここでいいかとか言いませんでしたか?
「私はいいけど、代は?」
妹紅さんはこっちを見て問う。そんなもん、答えは決まっている。
「別に大丈夫ですよ」
……おい待て! 今、大丈夫って言ったな? 言ったよな! 大丈夫じゃねぇだろ! まずいだろ! 何かあったらどうするんだよ!
「じゃ、決まりだな。今、風呂を焚くから先に入るといい」
「あれ? 慧音は先に入らないのか?」
「私は少しやる事があるからな」
「そうか。分かったよ慧音」
慧音さんは妹紅さんと話を終えると、風呂場の方へと歩いていった。どうしよ。このままだとまずいよ。
「……なぁ、代」
「は、はい!」
いきなり話しかけられたので、背筋がピシッとなった。もしかして、考えてる事を読まれたか?
「さっき、慧音と姉妹みたいだって言ってたよな」
「え、ええ。はい。言ってましたね」
どうやら違うようだ。つか、まだ気にしてんの? いいじゃないか。別に悪口じゃないんだからさ。……なんか、妹紅さんの顔がどことなく暗いよな。
「……少しばかり、昔話に付き合ってくれないか?」
「え? いいですけど……」
妹紅さんは「ありがとうな」と言って話を始めた。妹紅さんの目はどこか悲しんでるように見えたのだった。
◆◆◆◆◆
「……不老不死……か」
俺の声が風呂場に響き渡った。
「きっと、大変だったんだろうな……」
不老不死……老いることも死ぬこともない……いや"できない"か。今までずっと独りきりでがんばってのかな……
「……後で謝らなきゃな」
いくらなんでも、さっきのは無神経過ぎるよな……
「……少し熱いな」
風呂の温度はざっと40ちょいだろうか。
「……もう上がろう」
俺はそう言って、湯船からタオルを巻いて出た。尻尾が邪魔でタオルが巻きにくかった。
さっき、俺は妹紅さんから色んなことを聞いた。自分が蓬莱人であること、慧音さんとどのようにして出会ったのかを。
全て聞き終えた後、俺は自分の愚かさに気付かされた。なんであのとき、あんな無神経なことを言ってしまったのだろう。そんな思いが、さっきから俺の心を締め付けている。
「あ、慧音さん。上がりました」
「あ、代か。湯加減はどうだった?」
「ちょうど良かったですよ」
風呂場から出て丁度、書斎らしき部屋から出てきた慧音さんと会った。俺は何故か慧音さんの顔を見れなかった。
「うむ、そうか」
「はい。では、おやすみなさい」
「ああ。おやすみなさい」
俺は慧音さんから逃げるように部屋へと戻った。妹紅さんはもう寝ていた。
「……夜風にでもあたろうかな」
俺は妹紅さんが起きぬよう、部屋の戸を静かに閉め、玄関へと歩いていった。そして、玄関を開けて外へと出た。
「うわ……綺麗だな」
空を見上げると、星屑が輝いていた。そういえば、こんな星空を見たのは何十年振りだろうか。現代じゃ山とか特定の場所に行かなければ、こんな星空を見ることはできないだろう。
「……」
俺は空に手を伸ばし、そして握った。握り拳の隙間から光が漏れていた。
「代、何をやってるんだ?」
後ろの方から慧音さんがやってきた。恐らく、玄関が閉まる音に気づいて来たのだろう。
「少し考えごとを」
「そうか」
やっぱり、慧音さんの顔を見ることが出来ない。俺には見る資格がない。そんなことを思っていたとき、慧音さんが口を開いた。
「幻想郷には慣れたか?」
「いえ、まだ……」
「そうか……まあ、まだ来てから2日しか経っていないんだもんな。仕方ないか」
「……ん?」
あれ? なんで、慧音さん俺がここに来て、まだ2日しかたってないことを知っているんだ?
「さっき、八雲が来てな。色々と代のことを聞いたよ」
ああ……紫さんか。あの人、毎回どこに出てくんだよ。
「大変だったんだな」
「……いいえ。妹紅さんに比べたら俺なんて全然ですよ」
「妹紅?」
「さっき、慧音さんが風呂焚きに行ったときに色々と聞いたんですよ」
俺は妹紅さんから聞いたことを簡単に話した。すると、慧音さんは小さく笑ったのだった。
「ははは……妹紅の奴、そんなこと言ってたのか」
「……えぇ」
「ふふ、あいつらしいな」
「……あの慧音さん……」
「ん? なんだ?」
「すみませんでした!」
俺は頭を地面につけ土下座をした。謝ればすむ問題ではないことを知っていながらも、心の底から謝った。
「……気にしなくていいさ」
「で、でも」
「……本当は、代に妹紅と姉妹みたいだと言われて嬉しかったんだよ」
「へ……?」
「いや、別に変な意味ではないからな。ほら、あれだ。妹紅はドジだから危なっかしくってな!」
慧音さんは顔を赤くして変な意味ではないと、何度も俺に言ってきた。
「悪かった慧音。ドジで」
「も、妹紅!」
「妹紅さん!?」
後ろに振り返ると、妹紅さんが立っていた。あれ? さっき寝てなかったっけ?
「い、いつからいたんですか?」
「代が土下座していた辺りから」
「ぎゃー!」
み、見られたー!
「しかし、代。まさか、お前が気にしてるとはな」
「いや、だってあんな無神経なことを……」
「いんだよ。本当はさ、私も姉妹って言われたとき、嬉しかったんだよ」
「え……」
「いや、だからその……代は気にしなくていいさ」
妹紅さんはそう言うと、眠いと呟きながら慧音さん宅の中へと戻っていった。
「ははは……」
「どうした代? 大丈夫か?」
「ええ……大丈夫です」
妹紅さんに気にしなくていいと言われた途端、力が抜けた。やっぱり、妹紅さんに慧音さんは素晴らしい人達だ。
「そろそろ戻ろうか」
「……はい」
俺は立ち上がり、慧音さんと一緒に家へと戻った。
布団に入ろうとしたら、妹紅さんに占領されていた。寝相、悪いのかな?