誤解という名の冤罪
誤解は時に冤罪を生む――というか、ただ単に代は不幸なだけ。
それではどうぞ。
「はぁはぁ……一体なんなんだよ!」
「待ちやがれ!」
「待つかボケェ!」
俺は先程から、背後より来るモノクロの魔法使いから逃げている最中だ。あの光を喰らった所為か、着ている制服がボロボロになっている。
「まさか、マスパの余波を利用してんまま逃げるなんてな。驚いたぜ」
「そりゃどうも!」
「だから次は逃がさないぜ」
「こっちに来んなぁ!」
俺はそう叫ぶが、モノクロはそんなことお構いなしに俺に迫ってくる。つか、さっきから、光弾のような物を遠慮なしに俺にぶつけてくる。
「オラッ!」
「うおっ!」
今、光弾が耳をかすった。ヤバい。これは本当に危ない。
「ちっ。なかなかやるな」
そう言うとモノクロはまた、何かを持った手を再びこちらに向けた。
「さて、言い残すことはないか?」
「それなんて死刑宣言!?」
「ないな。それじゃ、また食らえ! 恋符『マスタース」
「同じ手にのるかぁ!」
俺は全力で地面を蹴りつけて、ジャンプする。すると常人のジャンプでは絶対に跳べない高さまで跳んだ。
「なっ!」
モノクロは今のを見て驚いた。人外をなめんじゃねえぞ。
「隙ありだ!」
「! しまっ! おわっ!」
俺はモノクロがまたがっている箒の先を掴み、そして揺らす。さあ、一緒に落ちようじゃないか。物理的にな!
「落ちろー!」
「のわー! やめろー!」
「やめるかよ!」
「……何やってるのよあんた達」
「「へっ?」」
見事にモノクロとハモった。目の前には紅白の巫女服を着た少女が。いいよな。空飛べるなんて。
「よ、よお、霊夢」
「よお、じゃないわよ魔理沙。あんた、そんなとこで何やってるのよ」
「見りゃ分かるだろ? 悪霊に襲われてるんだぜ」
「誰が悪霊だ!」
「お前さん以外に誰がいる?」
「……さあな」
いるじゃない? 他にも。というか、悪霊ってなんだよオイ。もはや妖怪ですらないじゃねぇか。俺は一応、神だぞ。
「ああ、そいつが例の犬神?」
「そうだぜ」
「ならいいわ。ささっと退治しちゃいましょ」
「ちょ! 初対面でいきなり退治とかないだろ!」
「そんなの知らないわよ。えい」
「がほっ!?」
巫女さんは手に持っていたお祓い棒で俺の顔面を殴った。と、同時に箒から手を離してしまった。
「ぎゃー! 落ちるー!」
さっき、落ちろとか言ってたけど、まさか、言った本人だけが落ちるとはね。これなんてコメディ?
「ぐはっ!」
そしてそのまま地面に衝突。激痛が身体中を駆け巡る。
「覚えて……ろ。がくっ」
俺はそのまま気絶した。たった2日で3回も気絶するとは思わなかったよ。何故だろう。気絶する直前、慧音さんの姿が見えた気がした。
◆◆◆◆◆
「……なあ、ご2人さん」
「何よ?」
「なんなのぜ?」
「君達のことは知らない……が、これはねーだろ! これは!」
先程、目を覚ますと神社にいた。ここはどこだ? と、立とうとしたが立ち上がれたかった。理由は簡単。鳥居の柱に縄でぐるぐる巻きにされていたからだ。
「俺、何かやった? やったの?」
「これからする気だったんだろ」
「んなわけあるか!」
むしろ、俺はされた方だろ! なんにもしてないのに、いきなり襲って来やがってして!
「……まあ、とりあえず捕まえたけど、これどうするの? 慧音」
「すまん。そこまでは考えてなかった」
ん? あれ? 慧音さんがいる。やっぱり、さっきのは気のせいじゃなかった。そして紅白巫女よ。捕まえたとはどういうことだ?
「めんどくさいから封印しちゃおうかしらね」
「ちょ! 封印って!」
「いや、何もそこまでしなくてもいいのではないか?」
「えー……つまんない」
「つまんないじゃねぇ!」
こっちにとっちゃ、一大事なんだよ! つか、この巫女色んな意味で容赦ねぇ。
「なら私の使い魔にしようぜ! ちょうど欲しかったんだよ!」
「ふざけんな!」
使い魔とかふざけんなコラ! もう式神なんてもう懲り懲りじゃ! え? 使い魔じゃないのかって? 使い魔も式神も似たようなもんだろ。
「け、慧音さん」
俺は慧音さんの方を向く。今、俺の味方をしてくれそうなのは慧音さんだけだ。頼む! 慧音さん!
「幸いにも、まだ里には手を出していないようだし、ここはひとまず見逃すことにしないか?」
……見事に裏切られました。慧音さん……そこまで俺のこと嫌ってたのか……
「しっかし、犬神と聞いて凄いの想像してたが……まさか、こんなのだとは驚いたぜ」
「えぇ、確かにそうね。名前負けしてるわけね」
「……」
こいつら、さっきから言いたい放題いいやがって……俺、泣いちゃうよ? あ、やべ。本当に涙出てきた。
「……グスッ」
「あれ? こいつ、泣いてないか?」
「あら、本当ね」
「祟り神も泣くのか?」
「うるせぇ! 泣いてなんかねぇよ!」
あからさまに泣き顔なのに泣いてないとか、説得力ねぇな。涙を拭こうとするが縛られてて拭けない。
「大体なんなんだよお前ら! さっきから悪霊だの封印だのと! 俺なんかやったのかよ! 何もやってないだろ!」
「さて、どうしようかしら」
おう。ここまで人が必死に叫んでるのに無視とか。この巫女さん、冷酷だね。
「な、結局こいつどうすんだ?」
「だから今回は見逃すでいいだろ」
「でも、いつまた里に入ってきて、人に呪いをかけるかもしれないわよ? それでもいいの?」
「……ちょっとまた」
ああ。なるほど今、分かった。だから悪霊やら封印するやら言ってたのね。
「君達は誤解をしているようだ」
「は? 何をだ?」
「俺は祟り神じゃない。妖犬から神になったっ犬神だ」
「嘘はよそうぜ。犬から神になるとか聞いたことないぜ?」
うわあーい。信じてくれる気無し。いや、本当だから。嘘じゃないから。うん。これ万策つきたってヤツだな。南無。
「あら、本当よ」
あれ? 紫さんの声が聞こえる……ああ。目の前の現実が辛過ぎて、ついに現実逃避しちゃったんだね俺。
「あら、紫じゃない」
……え? 今、なんとおっしゃった? 脇み……和気巫女さんよ。
「代は祟り神じゃないわよ。ただの神。まあ、ちょっと訳ありの神……」
「紫さぁぁぁん!」
俺は叫ぶ。紫さん。今、アナタが女神に見えます。ババァとか言ってすみませんでした。
「うるさいわよ」
「へぶっ!」
そして、お約束の頭上からタライ。やっぱり痛い。
「や、八雲……ど、どういうことだ?」
「今、言ったじゃない。祟り神じゃないわよって」
「…………………」
それを聞いて3人は無口になる。そして一斉に同じ言葉を発した。
「「「な、なんだってー!」」」
しかもご丁寧にハモりやがった。何故だろう。今、物凄くイラッときた。
「ちょ、それホントなのかよ!」
「だから言ってるでしょ。本当だって」
さっき俺も言っただろうが。
「……ま、たまには失敗もあるわよね」
おい、たまには失敗もあるわよね、じゃねぇよ。こっちはある意味、死にかけたんだぞ。少しくらい反省しろよ。
「す、すまなかったー!」
そして慧音さんのダイナミックに土下座をした! 慧音さんやめて! なんか心が痛くなるからやめてー!
「ちょ、慧音さんやめてください!」
「本当にすまなかった!」
「だからやめてー!」
慧音さんは土下座をやめようとしてくれない。それどころか、どんどん頭が地面に沈んでいく。あれ? もしかして、慧音さんも人外?
「いや、だからやめてください! 分かってくれたらならそれでいいですから!」
「いんじゃないの慧音。本人も許してくれてるみたいだし」
「和気巫女! キサマはもっと反省しやが――ぶへっ!?」
和気女にまた顔面を殴られた。あれ? おかしくね? なんで俺が殴られてんの? 逆じゃね?
「ま、そういうことだから。じゃあね」
「紫さん、ありがとうございました」
「あら。別に気にしなくていいわよ」
そう言って紫さんは、スキマへと消えていった。紫さん。アンタは命の恩人だ。
「……さて、これで一件落ちゃ」
「勝手に終わらせるなぁぁあ!」
何、勝手に終わらせようとしてやがるんだ。というか、こいつもまったく反省してねぇな。
「まあまあ。落ち着こうぜ。な?」
「……殴っていいですか?」
やばい。本気でコイツを殴りたい。ついでに和気巫女も。そして慧音さん。いつまで土下座してるんですか。
「女を殴るとか最低な奴だな」
「お前が女とかないね!」
殴れないのであざ笑ってやった。ざまあみやがれ! ……なんか、虚しくなってきた。というか……
「慧音さん。いつまで土下座してるんですか?」
「君が許してくれてるまでだ! 本当にすまなかった!」
「だからもう許してますって! お願いですから早く顔上げて!」
そう言うと、慧音さんはそうかと言って顔を上げてくれた。案の定、頭から血が流れてた。それで地面の方はというと……お察しください。
「とりあえず、縄を解いてくれない?」
「あ、ああ……今解く」
慧音さんは俺を縛っていた縄を解いてくれた。やっぱり慧音さんって、素晴らしい人だなと思った。
「それに比べてお前らと来たら……」
両手を肩の辺りくらいまであげて、思いっきりため息をついた。本当にあきれた奴らだ。
「って、いねぇし」
どうやら、もう神社の中へと入ったようだ。アイツら、後で覚えておけよな。
「それで慧音さん」
「な、なんだ?」
「お話があ『ぐー』……」
腹がなった。凄く恥ずかしい。そういえば、もう夕方になるのか。夕焼けが綺麗だなあ。
「……ぷっ」
慧音さんが小さく笑った。ヤバい。笑顔がめっちゃかわいい。
「あ、えっと」
「腹が減っているんだろ?」
「……はい」
「なら、私の家で晩飯を食べるか?」
「えー……慧音さんがいいなら」
「よし、じゃあ決まりだな」
慧音さんは歩き出した。俺も後を追って歩く。慧音さんの作るご飯か……きっと美味いんだろうな。楽しみだ。
期待を膨らませながら、神社を後にしたのだった。
はろはろ。風心です。
またまた、一難去ってまた一難。もう不幸なだけじゃないのか?代さんよ。
さて、幻想郷の人間の中で最強(最悪?)の巫女さん登場。
ちと、原作より性格がずれてます。
はてさて……慧音さん宅にまたお邪魔になることになった代。慧音さん宅に着くと、あの人物が……
それではまた。
コメント、待ってます。