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ラストワード

知る人ぞ知るチートスペカの登場。





「いやはや……もうやられちゃった人がでましたか」


 空高く打ち上がった代を見て、文は苦笑する。まだ始まったばかりなのに、もう弾幕勝負に負けた人がいるとは。本当に代さんは弱いんだな。そう心の中で思う。


「これじゃあ、開催した意味がないと思うんですが……」

「いいえ。大いにあるわよ」

「え? あ、紫さん」


 文の隣の空間にスキマが開き、そこから紫が現れる。そしてスキマに腰を掛け、手に持っていた扇子を開く。


「意味はちゃんとあるわよ」

「そうですかね? だって、代さんもう負けちゃってますよ?」

「代はどうでもいいのよ。もう実力も分かったし」

「は? それじゃあ、なんで?」

「最近、幻想入りしてきたのが多くなったでしょ? いちいち"安全"かどうか力の確認をするのがめんどくさいから、こうやって一斉に見極めちゃおうってこと」

「ああ、なるほど……」


 文は呆れた顔をしてそう呟く。横着者だと、思ったりしたのだろう。と、紫が扇子を閉じてこう言った。


「それに、幻想入りしてきた者たちに、スペルカードルールを教えるいい機会でしょう?」

「あ。確かにそうですね」

「後、私が見ていて楽しいから」

「そうですか。まあ、理由がなんであれ、一番は参加者の皆さんに楽しんでいただかないと」


 そう言って文は黒い翼を羽ばたかせ、ゆっくりと舞い上がった。それを見た紫が文に問いかける。


「あら、もう取材しに行くのかしら?」

「いえいえ、違いますよ」


 文はニヤッと笑って、ポケットからあるもの取り出し、それを紫に見せた。


「私も参加者の1人なんですよ」


 文が紫に見せたのは、あの3枚のカードだった。


「あらそう。貴女も参加してるのね」

「そりゃもう。優勝したら願い事を叶えてられるなんて、うまい話に乗らない訳ないじゃないですか」

「そう。願い事はさしずめ新聞の契約者を増やす、かしら?」

「そりゃもちろん」

「貴女らしいわね。まあ、がんばりなさい」

「言われなくてもがんばりますよ」


 そう言って文はどこかへと飛び去っていった。紫はその姿を見つめながら、ニヤッと笑って呟く。


「精々がんばりなさい。負けるのが目に見えてもね」


 含み笑いをしながら、紫は手をスキマの中へと突っ込み、中から1本の太刀を取り出した。


「……さとて、苦労して手に入れたこの黒い太刀。もったいないけど、元の持ち主に返さなきゃいけないわね」


 紫は太刀を手から離す。すると太刀はそのまま地上へと落ちていった。


「さて、これでお膳立ては出来たかしら。後は代しだいね」


 紫はスキマの中へと消えていった。




◆◆◆◆




「あー……全身痛い」


 大の字に横たわりながら、俺はそう呟いた。全身のあちこちが痛い。多分、空高く飛ばされて落ちたからだろう。


「くそっ……流花と朱の野郎……」


 俺は頭をかいて起き上がる。開始と同時にスペル宣言とかずるすぎるだろ。しかも無抵抗の奴に。まあ、飛ばされたお陰でカードは取られずに済んだけどな。


「……で、ここどこだ?」


 キョロキョロと俺は辺りを見渡す。辺りは木々が生い茂っている。見るからに森か林だろう。少なくとも、博麗神社近くではないのは確かだ。だとすると、俺はどんだけ吹っ飛ばされてんだよ。


「まあ、いつものことだよなこれは」


 吹き飛ばされて知らない場所に落っこちるなんて、こっち来てからしょっちゅうだったからな。慣れました。はい。


「さて、これからどうしよ」


 流花と朱に見つかれば、確実にまた狩られる。とにかくあの2人には、出くわさないようにしなきゃな。


「とりあえず、こっから離れよう」


 同じに場所にずっといれば、最悪あの2人にエンカウントしてしまうかもしれないからな。ここは動くのが得策だろう。


『ヒュー……』

「ん?」


 ふと上から何か落ちてくる音がした。俺は空を見上げる。……なんだあれ? なんか細長い物がこっちに向かって、落ちてきている……え? こっち!?


「ちょ、ちょっ! なんでこっちに」

『ガゴン!』

「がうっ!?」


 そして気づけば目の前に。避ける暇もなく、その細長い物は顔面に直撃した。俺は顔をおさえて悶える。痛い。顔面は本当に痛い……


「いつつ……一体、何が……刀?」


 顔を押さえながら、俺は落ちてきた物を見る。それは太刀だった。……ん?


「んん?」


 俺はその太刀を手にとってよく見る。鞘は真っ黒で、柄の部分に桜の花びらを象った装飾がなされている。なんでだろ。凄く見覚えのある刀……って、ああっ!


「これ、刻天埜舞桜か!」


 思い出した! この刀、花神楽を使う前に使ってた刀だ! 道理で見覚えがあると思った。


「でもなんで空から……?」


 俺は空を見上げて首を傾げる。なんで空から舞桜が降ってきたんだ? 舞桜はとうの昔に折れて捨てたはずなのに……


「……よいしょっ。お、直ってるや」


 なんで舞桜が空から降ってきたのかを気にしつつも、俺は鞘から刀を抜き出す。折れていた黒い刀身は直っており、綺麗な曲線を描いて内側に反っている。


「なんでか気になるけど……この際だからいいや」


 俺はそう呟いて、舞桜を腰に携える。やっと花神楽以外の武器が手に入った。これでなんとか他の奴らと戦えそうだ。


「いや、むしろ敵なしだな」


 舞桜がありゃ、どんな奴にも勝てそうな気がしてきたぜ。


「よっしゃ! 誰でもかかってこい! 返り討ちにしてやるぜ!」

「あらそう。じゃ、手合わせ願いできるかしら?」

「へ? ……おうのう……」


 振り向くとそこにはやる気満々の博麗さんが! やっべ。とりあえず前言撤回。


「ん? 代、アンタ目の色が」

「ここは逃げる!」

「は? なっ!?」


 俺は逃げ出す。いや、走り出す。勝てそうな気がしてきたからって、幻想郷最強の巫女さんに勝てるわけがない。ここは戦術的撤退をするしかないだろ。


「さすがの博麗でも俺の逃げ足にはかなうまい!」


 博麗は足が確か遅い。ならば全力疾走さえしちゃえばこっちのもんだ!


「足が遅い? 何言ってるのかしら」

「は? って、うっそーん!?」


 気が付けばすぐに横に博麗がいた! って、博麗は足遅くないんかい! 誰だよ遅いとか言った奴は!


「足が遅いなら飛べばいいじゃない」

「ああ、なるほどねー」

「な訳で霊符『夢想封印』」

「あぎゃばっ!?」


 博麗は至近距離でスペカを俺に放ってきた。もちろん、直撃して俺はその威力で横に吹き飛ばされる。


「い、いってぇ……」

「やっぱり弱いわね代は」

「至近距離から放たれれば誰だって避けられないだろ」

「そうかしら? ま、どうでもいいわ。さて、カードもらうわよ」

「はいはい……って、ちょっと待てよゴラァ!」


 博麗は俺のカードを3枚ポケットから取り出そうとした。俺は博麗の腕を掴んで制止する。


「何よ」

「何よじゃねぇよ! 何3枚持ってこうとしてんだよ! 1回につき1枚ってルールだろ! ルールはちゃんと守れ!」

「は? ルールはちゃんと守るわよ?」

「へ?」


 ルールはちゃんと守る? いやまさに破ろうとしてんのに何を言ってんだ?


「3枚奪うんだから、後2回代を倒せばいいんでしょ?」

「……え?」

「霊符『夢想封印 集』」

「は? え? って、おま、ぎゃあああー!」


 再び博麗はスペカを俺に放つ。しかも今度は零距離で。俺はまたその威力で後方の方へと吹き飛ばされた。


「ゲ、ゲホッ! ゲホッ! てめ、博れゲホッ! 零距離っておまっゲホッ!」

「安心しなさい。手加減はしたから」

「手加減とかそういう以前の問題だろ! 何、零距離でスペカぶち込んできやがるんだ!」


 いくら手加減されても、零距離じゃ意味を成さないだろ。つか、あれでも手加減してたのかよ。


「あら、大丈夫よ。次はもっと手加減してあげる――」

「調子にのんなよな! 剣技『舞桜一閃』!」

「へ? きゃっ!?」


 俺は舞桜を鞘から抜き出して、斬撃波の弾幕を打ち出す。しかし博麗は驚きながらもあっさりと避けた。


「いきなりなんてセコいじゃない」

「お前が言うな! 人形劇『ネクロドール』!」

「へ?」


 俺はスペカ宣言をする。すると横の足元の土が盛り上がり、やがて俺によく似た土の人形となる。博麗はそれを見て唖然とした。


「あ、あんたそのスペカ何……?」

「うるせぇ! 食らいやがれ! 剣技『幻影犬舞』!」

「!? くっ!」


 博麗に向かって、俺は斬撃波を数回撃ち放す。土の人形も俺と同じように斬撃波を数回撃ち放った。博麗はとっさに避けるが、今度は避けきれずに斬撃波がかする。


「危ない危ない。グレイズしちゃった」

「おいおい。これでも直撃しないのかよ……」

「残念ながら私に直撃させるには、まだまだみたいね」

「チクショウ!」


 時間切れのためか、土の人形は崩れ去った。クソッ! なんで直撃しないんだ! 後もうちょいで当たりそうなのに! と、博麗は静かに笑い出した。


「まあ、いいわ。それなりに強くはなったみたいね。なら、私も少し力を出そうかしらね」

「は?」

「見るといいわ。私の切り札を! 博麗の名の元に、森羅万象を塞げ! ラストワード!」

「はあ!? ラストワードぉ!?」


 なんだよそれ! 聞いたことねぇぞ!


「『夢想転生』!」

「な、なんだあれ……」


 博麗の周りに何か光輝くオーラみたいなのが漂っている。見た目は綺麗だが、あからさまにヤバい気配がする。


「ちょ、お前なんだよそれ!」

「さあね。アナタが知る必要はないわ。さあ、食らいなさい!」

「は? ちょ、む、無理ぃぃい!」


 博麗が手を振り下げた瞬間、無数の札の弾幕が降り注いできた。無理。こんなの避けるの絶対に無理だろー!


「ぎゃぁぁあ!」


 抵抗おろか避けることさえ出来ずに、俺は弾幕の雨にのまれた。そして今日何回目になるか分からない断末魔をあげた。






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