住むとかなんとか
今更ながら、代って碌な目にあってないですね。
「ふわぁー……ねみぃ……」
俺は大きく欠伸をする。昨日は野宿だったためか、全く寝れなかった。今天狗の棟前にあるテラスでくつろぐ。
昨日は本当に最悪だった。迷子にはなるし、寝る場所は奪われるしで散々な1日だった。挙げ句の果てに、よく分からない妖怪に明け方まで追いかけ回されてた。
「あの妖怪、一体なんだったんだ……」
姿や匂いはさっぱり分からなかった。まるで幻影みたいだったな……なんでだろうか。今、頭に正体不明とかいう言葉が思いついた。
「……にしても暇だな……」
野宿だったので、いつも朝やる布団の片付けはない。後、朝食はさっき1階の軽食屋らしき場所で済ました。つまり、今は何もすることがない。
「そういえば、流花の奴本当にここに住むのかな?」
それはそれで嬉しいが、昨日みたいなことになるのは嫌だし、何より久羅のことはどうするんだろ? アイツ、探すとかいいながら探す気配が全くないしな。まぁ、アイツが探さないなら俺が探すまでだが。
「とにかく暇だー」
日向ぼっこをしながら、のんびりしているのも良い。だが、動き回りたい。
「よし! 麟さんの様子でも見」
「あ! いたいた!」
「……なんで今来るんだよ」
後ろの方から文が駆け寄ってきた。タイミング悪過ぎだろうが。
「代さーん! 天魔様から……あれ? なんかやつれてますね? 何かあったんですか?」
「気にすんな。ただの寝不足だ」
「はあ……」
「それで俺に何の用だよ」
「ああ、そうでした。天魔様から呼び出しきてますよ」
「天魔から?」
嫌な予感がする。アイツからの呼び出しは大体、俺に厄介事を押し付ける時だ。つまり今回も多分……
「今すぐ天魔様の部屋に――って、代さん!?」
「めんどくさくから行かない!」
そう言って、俺は逃げ……もとい走り出す。厄介事を押し付けるのは御免だ。文には悪いが、ここはとんずらさせてもらうぜ!
◆◆◆◆◆
「んでもって、捕獲されましたっと」
逃げようとしたら、文にあっという間に捕まり現在、天魔の部屋の前。つか、文の奴速すぎだろ。なんだよあれ。気付いたら目の前にいましたとか、どんだけ速いんだよ。
「まったく……いきなり逃げ出さないでくださいよ」
「いや、逃げるだろJK」
「そんな常識はありません」
……ん? あれ? 文もしかして、JKの意味知ってるのか? ちなみにJKとは「常識的に考えて」の略だ。テストには出ないけど覚えておくように。
「とにかく入りますよ」
「はいはい……」
文は天魔の部屋の扉を押し開けて、中へと入っていった。俺も文に続いて入っていく。
「天魔様失礼します」
「遅かったじゃないか射命丸文よ」
「すみません。代さんがいきなり逃げ出すもので……」
「何? そうなのか代?」
天魔がこっちを見る。つか、なぜ俺に聞くんだ。
「そうだよ」
「また御主は……昔もそうだったのう。我が呼び出すとすぐに逃げるのだから」
「お前から呼び出しは大抵、俺に厄介事を押し付ける時だろ」
「は、はて? そうだったかのう?」
天魔は顔を逸らして苦笑いをする。どうやら図星らしい。なんでコイツは毎回、毎回、俺に厄介事を押しつけてくるんだ。押し付けるこっちの身にもなれっつーの!
「んで? 今回はどんな厄介事を押し付ける気だ?」
「違う違う。今回は」
「どーん!」
「な、なんだ!?」
突然、叫び声とともに扉を吹っ飛び、誰かが部屋に入ってきた。……って、
「流花じゃねぇか!」
「お、代だ。おはよー」
うん。流花だ。間違いない。こんな道場破りみたいな入り方して、一体どうしたんだ? 何を朝から荒ぶってるんだ?
「おいおい、壊すのはやめてくれ」
「いいじゃない。直すの我流じゃないんだから」
「だからってな……」
コイツら初対面の割には随分とフレンドリーだなオイ。つか、目の前で道場破り紛いの入り方されても眉一つ動かさない天魔もすげぇ。
「……ん? 我流? なんで流花、天魔の名前知ってんだ? 初対面な」
「初対面じゃないよ?」
「……ぱーどぅん?」
「だから、初対面じゃないよ」
「なん……だと?」
初対面じゃない……だと? そんなバカなずが……あるか。よくよく考えてみれば、俺がここに来る前に1回くらい天魔と会っててもおかしくはないよな。
「久しぶりだねー天魔ー」
「御主とはまた会いたくなかったわい」
「ちょっと待て」
今、流花なんて言った? 久しぶりだねーとか言ってたよね? え? 何? 2人はもしかして……
「知り合い?」
「うん。そうだよ」
「「な、なんだってー!」」
文と共に驚く。2人が知り合いだったとか、俺も知らねぇぞ?
「流花さんも天魔様と知り合いなんですか!?」
「うん」
「いつから天魔と知り合った! さぁはけ! はくんだ流」
「うるさいし近い!」
「ごふっ!」
流花は突然どこからか槍をだし、そして俺を殴った。やめて痛いから。その前に槍なんか出さないで。
「ってあれ? グングニルじゃない?」
流花が手に持っていた槍は奇妙に曲がりくねった槍、グングニルではなかった。そういえば、昨日の槍もグングニルじゃなかったよな。あの槍なんなんだろ?
「いや〜年取ったね我流」
「御主はまったく変わらんのう」
「まね。ところで、我流にお願いがあるんだけど」
「なんじゃ?」
「ここに住ませてくれない? つか、住む」
ストレートに言いやがったコイツ! しかも住むって! そしてなんで確定になってんの!? そんな言い方じゃ、流石にOKだしてくれるわけ……
「まぁ、いいじゃろう」
「いいのかよ!」
「? 別に問題ないじゃろ?」
「いやいや、大ありだから!」
「じゃあ決定ね〜♪」
「ちょっと!」
流花はそう言って、スキップしながら部屋を出ていった。つか、あんな言い方されて普通OKだすか?
「相変わらず騒がしい奴じゃったのう」
「天魔……流花をどの部屋に住ませる気だ?」
「安心しとけ。後で流花にはどの部屋か伝えておく」
「ならいいけど……」
よかった。天魔のことだから俺の部屋にするのかと思った。……いや、それは流石にないか。
「これでより一層ここも賑やかになるのう」
「ならんでいいし……」
というか、賑やかになるというよりうるさくなるの間違いじゃないか?
「とりあえず部屋に戻るわ……」
俺は天魔の部屋を出た。そういえば何か忘れているような……まっ、いいか。