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2.古本の居場所

どうも風心です。

2話目更新です。本編はここから!

では、どうぞ。


 本というものは不思議だ。絵や音がなくても、文字を見ているだけで頭の中にイメージが湧いてくる。例えばこの世界ではない別の世界のこと。今、手元にある本が丁度、その別世界のことを紹介しているものだ。

 タイトルは『現代版 幻想郷絵巻』という。絵巻と名が付いているが、見た目は洋書のような形をしている。厚さは数百ページ程度だが、幻想郷について事細かく説明している。前半は地理について、後半はそこに住んでいるとされる妖怪について書かれている。挿絵などはないが、文字だけでも明確にイメージできるほど細部まで説明されており、いつ読んでもわくわくする。

 この本を読んでいると、幻想郷に行きたいという気持ちが湧く。もちろん、その場所が存在しているとは思っていない。しかしながら本当にありそうだと思ってしまうほど、この本はリアリティに溢れていた。まるで本当にこの世界に住んでいる人が書いたようかである。


「忘れ去られたものが集まる場所ねぇ」


 本のページを捲りながら、前書きに書かれていたことを呟く。幻想郷はこの世界から忘れ去れた存在、すなわち妖怪や神さまなどが最後に集まる場所だという。そんな場所だからか、幻想郷は古き時代の原風景のイメージが思い浮かぶ。もしもこの場所があれば、皆そこにいるのだろうか。そんな想像をしてしまう。

 ふと背後に立ち並ぶ本棚に目をやった。もしも本が忘れられたら、これも幻想郷にたどり着くのだろうか。まあ、本が忘れられるというのは、ある意味本末転倒だと思うが。

 俺は読んでいた本を閉じ、机の上に置いた。そろそろ昼時だ。飯でも食べに行こうと、椅子から立ち上がる。その瞬間にカランカランと、店のドアが開く音が聞こえた。ああ、客が来た。タイミングが悪いなあ……そう思いつつ、椅子に座り本棚の影から客が見えるのを待つ。その客はすぐに見えた。


「あの、どうも」


 本棚の奥から現れたのは、眼鏡をかけた金髪の女の子だった。肌白く、目は青色だ。その風貌は外国人のようだった。後、見覚えのある制服を着ている。あれは確か、隣町の高校の制服だったか。有名校だった気がする。そうだとしたら女学生か。そう思いながら、俺は笑顔を作って話しかける。


「いらっしゃいませ」

「あの、すみません、探している本があるんですが」


 女学生は辺りの本棚を見回す。何か目当ての本でも探しているようだ。その素ぶりから、あまりこういう場所には来たことがないような感じがする。

 ここは俺が営む古書店だ。中古本が所狭しと本棚に収納されている。取り扱っている本は数千冊にも満たないが、ジャンルは広く、中には稀覯本もある。そのため客足はあまり多くないが、古本マニアが定期的に来るのでそれなりに売れている。ただ彼女のような若い人が来るのは滅多にない。


「あの……って、あ!」


 女学生は俺の手元に視線を落とした際に、一瞬、目を輝かせた。まるで探していたものをようやく見つけたかのような目だった。彼女の視線先には、俺が先ほどまで読んでいた幻想郷絵巻がある。俺がこれかいと指を差すと、女学生ははいと首を縦に振った。


「あの、すみません、その本欲しいのですが……」

「ええと……すみません、この本は売り物ではなくて」

「そ、そうなんですか?」

「はい」


 俺は女学生にこの本について説明をする。この本は数ヶ月前、店に来た女性が置いていったものだ。わざと置いていったものか、それとも忘れものなのか分からない。もしかしたら、その女性がまた取りに来るかもしれないと思い、売らずに保管していると告げる。


「そ、そうですか…ええっと……ということは、無理ですよね?」

「無理……ですね。申し訳ない」

「い、いえ……あの借りることも……」

「出来ませんね」


 店のものではないため、本の貸し出しは出来ないと告げる。すると女学生の顔はみるみる曇った表情に変わっていった。それはまだ諦めきれないような表情にも見える。

 女学生は無言のまま幻想郷絵巻に視線を落とす。その様子から、相当この本が欲しい様子が伺える。申し訳ないとは思うが、売り物でもないものを初めて会った人に渡すのは気が引ける。


「分かりました……すみません、ありがとうございました……」

「いえいえ……またお待ちしています」


 女学生は諦めた様子で、ため息をついて店を後にした。その後ろ姿を見ていて、心の中で本当に申し訳ないと思った。彼女がいなくなった書店内には少し重い空気が流れていた。

 俺はため息をついて、幻想郷絵巻を手に取る。この本は有名なものだったりするのだろうか。それとも稀覯本なのか。いずれにせよ、あの女学生の様子から見ると、マニア受けしそうな本ではあると思った。

 気がつけば俺は本を開いて読んでいた。他人のものを勝手に読むのも正直どうかと思うが、この本に対する興味は尽きず、手元にあるとついページを開いてしまう。そんな魅力があった。

 ふと見えた壁時計の針はもう昼過ぎを差していた。しかしながら昼食のことは既に頭の中になく、ただ本を読む時間が過ぎていくのだった。

いかがだったでしょうか? 女学生はまた後に出てきます(ネタバレ)。どんなキャラか予想してみてください。

では、また次回に。

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