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【第4話 秩序と平等】

 高い天井だった。


 石で組まれた広間は、無駄に広く、そして静かだ。

 人の気配はあるのに、誰も音を立てない。


 中央に伸びる赤い絨毯の先。


 そこに――座っている。


(あれが、王か)


 豪奢な椅子に腰掛けた男は、想像していたような威圧的な存在ではなかった。


 ただ、静かにこちらを見ている。


 それだけで、場の空気が支配されているのが分かった。


「連れてきました」


 宗教服の男が頭を下げる。


「魔女と、その協力者です」


 協力者。


 軽く笑いそうになるのを堪える。


 ずいぶん都合のいい呼び方だ。


「……ふむ」


 王が、ゆっくりと口を開く。


「そちらが“証拠を求めた男”か」


 視線がこちらに向けられる。


 逃げ場はない。


「名は?」


「……ありません」


 正確には、ある。

 だが、この世界での意味はない。


「ほう」


 王の口元が、わずかに歪む。


「名もなき者が、我が国の裁きに異議を唱えたと」


 嘲りではない。

 純粋な興味だ。


(……このタイプか)


 感情で動く相手じゃない。


「理由を聞こう」


 王はそう言った。


「なぜ、証拠を求める」


 単純な問いだ。


 だが、この場でそれを問われる意味は重い。


 少しだけ、息を整える。


「証拠がなければ、罪は成立しないからです」


 はっきりと言う。


「それは、お前の国の理だろう」


「違います」


 即答した。


 場の空気が、わずかに揺れる。


「どこの国でも同じです。事実がなければ、罪は作れない」


「だが、この国では違う」


 王が言う。


「疑わしきは排除する。それが"秩序"だ」


 静かな声だった。


 だが、その一言に、この国の全てが詰まっている。


(……やっぱり、そこか)


 正しさではない。

 優先されているのは、安定。


「では、お聞きします」


 一歩、前に出る。


 視線を逸らさずに。


「その“疑い”は、誰が決めるのですか」


 沈黙。


「民か。宗教か。それとも――王ですか」


 広間が、凍りつく。


 明らかに、踏み込みすぎた。


 だが、止めない。


「基準がなければ、それは裁きではありません」


「……ほう」


 王の目が細くなる。


「では、お前は言うのか。基準があれば、裁きは正しくなると」


「正しくはなりません」


 否定する。


 即座に。


「ですが、“平等”にはなります」


 わずかなざわめき。


 さっきまでとは違う種類の動揺だ。


「同じ基準で裁かれる。それが法です」


「……平等、か」


 王が呟く。


 考えるように。


「それで国が回るのか?」


「回らないかもしれません」


 正直に答える。


 ここで取り繕っても意味はない。


「ですが、今のやり方でも、いつか綻びます」


 宗教服の男が顔をしかめる。


 構わない。


「疑いだけで人を裁き続ければ、いずれ誰もが疑われる側になる」


 言葉を重ねる。


「それは秩序ではなく、恐怖です」


 静寂。


 長い沈黙が落ちる。


 誰も、口を開かない。


 やがて――


「面白い」


 王が、そう言った。


 小さく、だがはっきりと。


「ならば見せてみろ」


 視線が、こちらを貫く。


「お前の言う“法”とやらを」


 息が止まる。


「この場で、裁いてみせろ」


 周囲がざわつく。


「この女が有罪か無罪か。お前の理で示せ」


 逃げ道はない。


 完全に、場に引きずり込まれた。


(……上等だ)


 ゆっくりと息を吐く。


「条件があります」


 自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。


「なんだ」


「この場の誰も、途中で口を挟まないこと」


 宗教側がざわつく。


 だが、王は手を軽く上げた。


「許す」


 一言で、全てが止まる。


「もう一つ」


 続ける。


「証言は、事実のみ。推測や噂は排除する」


「……いいだろう」


 王が頷く。


「それが、お前の法か」


「はい」


 短く答える。


 広間の空気が変わる。


 さっきまでの“裁きの場”ではない。


 何か別のものに、変わり始めている。


 視線を上げる。


 王と、目が合う。


「始めろ」


 その一言で、全てが動き出す。


 ――これは、初めての“裁判”だ。


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