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【第2話 証拠】

 ざわめきが広がる。


 突きつけた言葉は、確かに場の空気を変えた。

 だが、それだけだ。


「……異議だと?」


 中央の男が、低く呟く。


 その視線が、真っ直ぐこちらに向けられる。


「そうだ」


 喉が乾く。

 それでも、言葉は止まらない。


「今の話は、どれも“証拠”とは呼べない。噂や印象に過ぎない」


 周囲がざわつく。


「夜に外に出ていたから魔女? 星を見ていたから魔女? それのどこに因果関係がある」


「ぐ……」


 言葉を詰まらせたのは、宗教服を纏った男だった。


「この女は、不作の原因だと皆が――」


「“皆がそう思っている”は証拠じゃない」


 被せる。


 少し強く言い過ぎたかもしれない。

 だが、引く理由はなかった。


「証拠というのは、事実に基づくものだ。誰が見ても同じ結論に至るものを指す」


 静寂が落ちる。


 さっきまでの熱気が、わずかに冷えた。


「……では、お前は言うのか」


 中央の男が、目を細める。


「この女は無実だと」


 一瞬、言葉が詰まる。


 ――分からない。


 本当に無実かどうかなんて、今の情報だけでは判断できない。


 だが。


「少なくとも、“有罪と断定する証拠はない”」


 それだけは言える。


 再び、ざわめき。


 今度は、さっきよりも色が違う。


 疑問。迷い。


「……確かに、証拠は弱いのではないか?」


「いや、しかし……」


 人々の声が揺れ始める。


 完全ではない。だが、確実に変わっている。


 台の上の女が、こちらを見た。

 その目に、わずかな光が宿る。


「――ふざけるな!」


 怒号が空気を切り裂いた。


 宗教服の男だ。


「こんな異端の言葉に惑わされるな! 魔女は存在する! 我々はそれを裁いてきた!」


 再び熱が戻る。


 揺れかけた空気が、押し戻されていく。


(……まだ足りない)


 論理だけでは、完全には覆らない。


 それでも。


「なら、証明してみろ」


 男を真っ直ぐ見据える。


「この女が魔女であると。誰が見ても否定できない形で」


「なに……?」


「できないのなら、それは罪ではない」


 静かに言い切る。


 再び、沈黙。


 今度は先ほどよりも長い。


 誰も、すぐには口を開けなかった。


「……裁きを、延期する」


 やがて、中央の男がそう告げた。


「証拠が不十分である以上、即時の処刑は行わない」


 その言葉に、ざわめきが広がる。


 決着ではない。

 だが――


(止まった)


 処刑は、止まった。


 台の上の女が、崩れるように膝をつく。


 完全な勝利ではない。

 それでも、確かな前進だった。


「……貴様」


 宗教服の男が、低く呟く。


 その目には、明確な敵意が宿っていた。


「覚えておけ」


 嫌な予感が、背筋を走る。


 だが、もう遅い。


 この場に口を出した時点で、関わってしまっている。


 周囲の視線が、少しずつ変わっているのが分かった。


 警戒と、興味。


 そして――


 わずかな期待。


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