出会い
どこにでも居るモブ顔の洋太はコンビニで働きながら、ただ人生を消費していた。ある日、デリヘル嬢に一目惚れをしてしまい、洋太の人生が変わっていく
誰もが人生の主人公
とてもいい言葉だ。スポーツ選手やアイドル、芸人、YouTuber、手を繋いでレジの前でイチャつくカップル、店内を走り回る子供達、それを注意しない若い親。皆、その人の人生の主人公らしい。
「ありがとうございましたー」
気持ちがこもってないお礼を今日は何回言っただろうか?
「あの子供達注意したほうがいいですよね?」
僕は先輩に小声で聞いた。
「いや、やめとけ。今の時代何言われるか分からないしな」
ため息混じりに答えた先輩の目は親を睨んでた。
「なぁ、モブオよぉ。なんであんなバカ共が家庭を持って幸せそうにしてて、俺が彼女無し歴=年齢の人生なんだろうなぁ?」
声を震わせながら先輩は僕の肩を揺らした。
「さぁ?そういう人生を選択したからじゃないっすか?」
僕は先輩の手を振り払い冷たい言葉をかけた。先輩の容姿は悪くないと思う。無精髭を生やしてはいるが、少し怪しい雰囲気の大人の男って感じで若い女の子にモテそうだ。年齢は聞いたことは無いが、このコンビニに務めてそろそろ15年になるらしい。
「あと、モブオって呼ぶの辞めてください。僕には洋太っていう親に付けてもらった立派な名前があるんで。あと、知らないんですか?人はみんなその人の人生の主人公なんですよ」
「よく聞く言葉だな。でもよぉ、お前はこう、なんて言うかパッとしないんだよ。1年合わなかったら多分俺はお前のこと忘れるぜ」
先輩はニヤつきながら言ってきた。
「別に先輩に覚えててもらわなくてもいいっすよ」
僕は事務所に向かいながら言った
「可愛くないやつだな。なんだ?今日はもう終わりなのか?
時刻は21時になっていた。いつもは0時までだけど今日は特別な日だ。
「はい。今日はこれから予定があるので」
「この時間からの予定?まさか、女か!?お前も俺を1人にするかの!?」
「さぁ?想像にお任せします」
僕はニヤケながら先輩をあしらい、コンビニを出た。車はほとんど走ってない。少し肌寒く、とても落ち着く雰囲気だ。
「よし、行くか」
僕は帰路とは違う道に歩きだす。予定ではあと2時間後に彼女と会える。僕はこの日のために生きてきたんだ。浮つく気持ちで僕はホテルに向かう。
ホテルに着いた僕はシャワーを浴び、念入りに歯磨きをして、彼女を待っていた。
「あと5分」
時計を何百回も見た後に鏡を見た。そこにはなんの取り柄もない冴えない男のニヤケ顔が写ってた。
「モブか……」
僕は先輩に言われた言葉を思い出していた。
コンコン。
ドアのノックの音が聞こえた。その瞬間、先輩の言葉なんか何処かに飛んで行った。
ガチャッ。
ドアを開けた。そこには絶世の美少女が立っていた
「洋太君!久しぶり!」
彼女は勢いよく抱きついてきた。
「ナツキちゃん!会いたかったよ!」
僕も負けじと抱きついた。
「本当に?嬉しい!」
彼女は笑いながら僕の顔を見上げた。大きな目を細めて、少し鼻を膨らませ、白い歯をチラつかせる。
彼女と出会ったのは4ヶ月前。僕の22歳の誕生日の時だった。それまで女の子と縁のない人生だった僕は、自分に誕生日プレゼントとして大人なお店を利用する事にした。そう。彼女はデリヘル嬢だ。そして、僕は彼女に一目惚れしてしまった。それから1ヶ月に1回、給料が入ったら彼女を呼んだ。薄い給料袋が更に薄くなったが、彼女に会えるのなら痛くも痒くもない。
「洋太君と居ると落ち着くんだよね。素の自分で居られるって感じで。仕事の愚痴も聞いてくれるし、音楽の趣味も合うしさ。私たち相性いいんじゃない?」
ナツキちゃんと初めて会った日に言われた言葉だ。もちろん、これが彼女の仕事だという事は理解していた。だけど、全部奪われた。
「今日も呼んでくれてありがとうね。いっぱい気持ちいい事して、話そうね」
彼女は服を脱ぎながら言った。
「うん!」
僕はもう彼女にメロメロだった。彼女がこの世の全てになっていた。彼女が僕の人生の主人公になっていた。
一通りの流れを終えた後は他愛もない話しで盛り上がる。この時間が1番好きだ。
「このバンドのこの曲オススメだよ。あと、このアニメも面白いから見てね。あ、この映画面白かったよね」
基本彼女が喋って僕は相槌を打つ。
「あ〜、そろそろ時間だなぁ。」
彼女は寂しそうに言った。
「もうそんな時間か。早いな」
僕も寂しそうな顔で彼女を見る。
「また会えるかな?」
天井を見ながら彼女が言った。
「え?」
初めて言われた言葉に僕は固まった。今までは「また来月ね〜」で終わっていたのに、彼女の声は今にも消えそうだった。
「ううん。大丈夫。また会おうね!」
彼女は玄関に向かった。胸がザワついた。もしかしたらこのまま会えなくなってしまう気がした。
「ナツキちゃん待って!」
僕はスマホを片手に持っていた。
「どうしたの?」
「あ、あの、君の事がもっと知りたいんだ。もっと君と話したいんだ」
僕は目線を彼女の足に向けながら伝えた。動かない。
「そっか。じゃあさ、今度デートする?お店には内緒だよ」
彼女はスマホを取りだした。その瞬間僕は初めて神様に感謝した。
「また後で連絡するね」
そう言って彼女は小走りで帰っていった。僕はベッドにダイブした。
2日後、彼女からLINEがきた。
「来週の火曜日ひまですか?」
僕はガッツポーズをした。生まれて初めて。
「バイトも休みなので1日暇です」
「良かった。夜にご飯でも行きませんか?」
「行きたいです!」
「じゃあ、19時にこのお店に集合で大丈夫ですか?」
「はい!」
「楽しみだね」
「めちゃくちゃ楽しみです!」
こんなに上手くいって良いのか?僕は少し考えた。
「あれ?やっぱり俺のこと好きなんじゃね?」
痛客の完成である。
約束の日。少し雨が降っていた。約束の10分前からお店の前で彼女を待っていた。そのお店は少し路地に入っていった先にある小さな居酒屋だった。
「おまたせ!」
後ろから彼女の声がする。僕は首を180度回転させた。そこにはジャージ姿の彼女が立っていた。
「ごめんね、あんまりムードとか無いよね。でも、このお店前から来てみたかったんだ」
彼女が申し訳なさそうにする。
「全然大丈夫だよ!早く入ろ、お腹空いちゃった」
「うん」
お店に入るとカウンター席に案内された。1席空けて、隣には2人組みの女の人。奥の座敷では宴会が行われていた。
「何食べよっか?」
メニュー表を見て彼女に問いかけた。
「とりあえずオススメっぽいもの全部食べよ」
彼女はニコっと笑った。初めて見る表情だ。
夢のように楽しいひと時を過ごした。沢山話して、彼女の事を知れた気がする。近くの大学に通ってる事や、バイクに乗ってる事。タバコも吸ってるらしい。
「今日は楽しかったよ」
帰り際に彼女が言った。
「僕もだよ、また行こうね」
僕は彼女の目を見て話した。
「うん。今度はカラオケに行こうよ」
「うん!」
そう約束して僕らは別れた。帰りにコンビニに寄って僕はタバコを買った。
それから1年間彼女は僕の前から姿を消した
初めて書く物語です。大目に見てください




