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第一話

 いつもと変わらない通学路を歩く。

 ただいつもと違ったのは住宅街の狭い道路に赤色灯を灯した救急車とそれを眺める野次馬たちが道路を塞いでいたことだ。

 野次馬の間を通っていると家の中からぐったりした高齢の女性が担架に乗せられ救急車に運び込まれているのが見える。女性の頭の上に白く4という数字が浮かんでいた。

 ああ、気の毒に

 あの女性はもう4日しかもたないのだな。

 俺、やなぎ史乃ふみのは人の寿命が見える。人の頭の上に数字が見えてその数字が死ぬまでの日数だ。しかしいつも見えるわけではない。その数字は大抵はぼやけていて、よくて桁数がわかる程度で、意識しなければ見えないことの方が多い。だが死期が近づいている人間の数字は読み取れるぐらいにはっきりと見える。それに死期が近い人間の数字は意識せずとも見えてしまう。だがはっきり見えたその数字も絶対ではなく別の日に見ると変わっていることもある。

 天賦の才だろうが正直役に立ったことはない。これのせいで苦しめられてきたことばかりだ。せめて自分の寿命でも確認できればいいのだが写真や鏡越しでは使えないし、直接見ようにも頭の上を見ることは出来ない。欠点だらけだ。

 気が付けば俺の通う市立中学校に着いていた。教室へ向かい、自席に座り、荷物を出すがその間俺に話しかけるような人間は誰もいない。

 友達なんて一人もいない。それもこの力のせいだ。

 小学校低学年の頃だ。クラスの男の子の頭の上に数字が見えたのだ。不思議に思い本人に尋ねたが当然知らないと言われた。他の同級生や教師にも聞くが同級生には見えない、分からないと言われ教師からは嘘を言ってはいけないとたしなめられた。ここで自分がおかしいのだと気づき、適当なことでも言って誤魔化せればよかったのだが俺はしっかり子供で嘘なんて言ってないと喚いた。それで相手の男の子も泣いてしまいすっかり俺が悪者になってしまった。嘘をついて男の子を泣かせた悪者、そう思われるだけで終わったならまだよかったのだがそうはいかなかった。男の子の数字は日に日に減り数字が見えなくなったその日、彼は死んだ。詳しくは知らないが心臓系の病気だと聞いた。

 俺が彼ともめたことがまだ冷めきらないうちにそんなことがあり唐突な同級生の死に混乱していただろうこともあって突飛な話が学年中で広められた。やれ死んだのは俺のせいだの俺に目を付けられると死ぬだのそんな感じの噂だった気がする。

 すると俺も避ける人間が少なくない数出てきた。低学年の小学生でも自分は巻き込まれたくないという意識はあるもので簡単に一人ぼっちになった。柳史乃と関わってはいけないという流れが出来上がっていてそれは学年が何度上がっても引き継がれていった。そうして俺は孤立した小学校生活を送った

 中学校はエスカレーター式で近くの市立中学校に進学した。俺の通う中学校は近隣のいくつかの小学校からも生徒が進学してくる形で、俺が小学校時代は孤立していたなんて知らない人間も多い。だから中学からやり直そうとしたが、俺の体にはすっかり一人でいることが卒業までの数年間でしみ込んでいてうまく人と関われず結局中学二年生の冬の今でも俺は独りだ。

 荷物も片づけ終えてしまったから本を読む。一人でいる可哀想な奴だと思われたくなくていつも本を読んでいる。孤独ではなく孤高なのだと気取っている。もう中学からの同級生も俺は孤独なのだと気づいているだろうが。

 朝のホームルームの時間が近づいて登校してくる生徒も減ったころ、教室の前のドアがガラガラと音をたてて開く。本から目を少し上げると、腰ぐらいまである長い黒髪の女子が俯きながら入ってくるのが見えて誰なのか気がつき本に目を戻す。クラスメイトもちらっと見るだけで彼女に話しかけることもなければ挨拶することもない。

 白森香澄しろもりかすみ

 彼女は俺が通っていた小学校とは別の小学校だったらしく二年生で同じクラスになった時に初めて見た。落ち着いた雰囲気であまり友達が多いタイプには見えなかったがまさか俺と同じぐらい友達がいないとは思わなかった。

 俺の学校では二年生に進級するタイミングで一度だけクラス替えがある。クラス替え直後、皆が新しいクラスで孤立しないよう愛想笑いを浮かべながら周りに話しかけてる中、話しかけても上手くいかず惨めな思いをするだけだと分かっていた俺は話しかけるなと牽制するように本を開いていて香澄もまた本を読んでいた。違ったのは香澄には話しかける人がいたことだ。香澄は歩けば誰もが振り返るような美人というわけではなかったが顔は整ってる方で色白、静かで落ち着いた雰囲気もあって大人びて見えた。だからか男子の何人かが話しかけていたが香澄はそのたびすぐに話を切り上げ本を読んでいた。男子が苦手なのかと思ったが女子が話しかけても同じだった。そうするうちに誰も香澄に話しかけなくなった。

 そんな彼女に俺は一方的に親近感を覚えていた。俺と同じように一人で、本をいつも読んでいて、昼休みに図書室に行くところも同じ。香澄を見かける度に独りなのが俺一人じゃないことに安堵していた。

 ドアの開く音とともに、ホームルーム始めるぞーと担任の野太い声が聞こえ本を閉じた。本をしまいながら顔を上げ、ぎょっとする。心臓がドクンと跳ねる。

 浮かんでいる、白い数字が。白い、94という数字が。

 その数字の下にいたのは、白森香澄だった。

三話連続投稿となります。彼らの物語をどうかよろしくお願いします。

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