第7話:聖女の神託、あるいは騎士団長の合理的選択
約束の一週間後。アルケミーナ公爵領の試験農場に再び現れたレオンハルト・フォン・アイゼンは、愛馬の手綱を引いたまま、彫像のように固まっていた。
「……あり得ん。こんな光景、前代未聞だ」
彼の眼前に広がっていたのは、周囲の畑を置き去りにするかのように、力強く、そして均一な緑色を湛えて伸びる小麦の苗だった。まるで大地そのものが「やる気」を出したかのような異常な成長速度。だが、そこに「魔法の輝き」などの情緒的な演出は一切ない。ただ、淡々と、圧倒的な生命力が整列している。
「あら、騎士団長様。『よろしい、ならば実験(検証)だ』と言った通りになったでしょう?」
私は、カスピアンに作らせた「ポータブル土壌硬度計」を片手に、畦道からひょっこりと顔を出した。 「セリーヌ……。貴様、本当に何をした。禁忌の術式も使わず、ただの『異臭のする液体』を撒いただけで、なぜこれほどまでに……」
「何度言えばわかるのかしら。私は大気中の窒素を固定し、植物が吸収しやすい形に変えて提供しただけ。……レオンハルト卿、あなたは部下に満足な食事を与えずに戦場へ送り出す? 出さないわよね。私も同じよ。この子たち(小麦)に、必要な栄養を適時・適量与えた。それだけの話よ」
私は、レオンハルトの目の前に小麦の苗を一株、差し出した。
「根の張りを見て。これが『理論』の結果よ。神の気まぐれな恩寵(雨)を待つより、よっぽど信頼できると思わない?」
レオンハルトは、無骨な手でその苗を受け取り、じっと見つめた。彼の脳内では今、長年培われてきた「騎士道精神」と、目の前の「圧倒的な生産力」が激しく衝突しているはずだ。
「……食糧は、兵站の要だ。この技術があれば、遠征中の飢えも、冬の飢饉も過去のものになる。……セリーヌ、貴様は自分が何を作り出したか分かっているのか? これは、剣よりも恐ろしい『力』だぞ」
「あら、心外ね。私はただ、美味しいパンを食べたいだけ。……でも、もしあなたがこの力を『正義』のために使いたいと言うなら、護衛くらいはしていただくわよ? 私の研究を、無知な王子たちに邪魔されたくないから」
レオンハルトは短く吐息をつくと、その場に膝をつき、騎士の礼を取った。
「……認めよう。貴様はただの悪役令嬢ではない。この国に必要な『賢者』だ。……アルケミーナ公嬢、今日よりこのレオンハルトの剣、貴様の『実験』を守る盾として使わせてもらう。……『私の心臓を、貴様に預ける』」
「重いわね。……でも、いいわ。あなたのその筋肉、重い実験機材を運ぶのに重宝しそうだわ」
背後で、その様子を見ていたカスピアンが「くく……」と喉を鳴らした。
「ひどいねぇ、セリーヌ。純情な騎士団長を『人型搬送機』扱いか。君の脳内、本当に『愛・覚えていますか』じゃなくて、『数式・覚えていますか』なんだろうね」
「黙って、カスピアン。次の試薬の調合に戻りなさい」
その頃、王都。学園のサロンでは、これまでにないほど険悪な空気が流れていた。
「……殿下。もう、誰も私の祈りを聞いてくれません……」
リナは、ユースタスの腕の中で震えていた。石鹸の一件以来、令嬢たちは彼女を遠巻きにし、さらにレオンハルトまでもがセリーヌの領地へ足繁く通っているという噂が広まっていた。
「おのれセリーヌ……!あのような煤けた不気味な女に、レオンハルトまで誑かされるとは!あいつは『禁忌の術』で、この国を根底から汚すつもりだ!」
「殿下……。私、昨夜『神様』の声を聞きました……」
リナが、伏せていた顔を上げた。その瞳には、かつての「聖女」らしい輝きはなく、どこか濁った、狂気じみた光が宿っている。
「……神様は言いました。セリーヌ様は、大地の理を歪める『禍つ者』だと。彼女の術を放っておけば、この国には災厄が降り注ぐ……と」
「……リナ、それは『神託』か?」
「はい。……近日中に、神殿で公表します。『神に代わってお仕置きよ』……って」
リナの指先から、不自然に強い黄金色の光が漏れ出す。それは、周囲を癒やす光ではない。過剰な魔力合成によって生み出された、不安定な高エネルギー体――。
科学による「改革」か。神託による「弾圧」か。
物語の天秤は、いよいよ大きく揺れ動き始めようとしていた。
(セリーヌの心象) (……神託? いいわよ。迷信と科学、どっちが真理に近いか、徹底的に『比較試験』してあげようじゃない)
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