第3話:硝子越しのコンタクト、あるいは天才同士の不毛な衝突
学園入学を来月に控え、私は一つの大きな壁にぶつかっていた。 それは、この世界に「信頼できる実験器具」が決定的に不足していることだ。
「……耐熱性、透過率、目盛りの正確性。どれを取っても『赤点』だわ」
私は、街で一番のガラス工房から取り寄せたフラスコ(らしきもの)を眺めて溜息をついた。 少し加熱しただけでひび割れるソーダガラスでは、濃硫酸や王水の反応には耐えられない。科学者にとって、質の悪い器具を使うのは、プロのゲーマーに初期装備のコントローラーで世界大会に出ろと言うようなものだ。
「無ければ作らせる。それが教師の指導力よ」
私は、自ら設計図を引き、王都の端にある「変わり者の魔導具師」の工房を訪ねることにした。 そこは、宮廷魔導師団をクビになったという「変態天才」が引きこもっていると噂の場所。
「……立ち入り禁止? 『そんなの関係ねぇ』わよ。知識の前に門門払いは無意味だわ」
工房の扉を蹴り開ける勢いで入ると、そこは足の踏み場もないほどの魔導書の山と、複雑な数式が刻まれた黒板に占領されていた。 部屋の奥で、ぼさぼさの黒髪を掻きむしりながら、一枚の石板に向かっている男がいた。
「違う、この術式構成ではマナの還流が起きる……。熱力学(?)の第二法則を無視している……!あぁ、脳が、脳が震える……!」
「――そこ、共鳴係数の計算が間違っているわよ。あと、その術式の展開図は、二重結合の位置が不斉炭素と衝突して反発してるわ」
男の動きが止まった。 ゆっくりと振り返った彼の瞳は、極度の寝不足で血走りつつも、獲物を見つけた猛獣のような光を宿している。
「……今、なんて言った?名も知らぬ公爵令嬢」
「セリーヌ・フォン・アルケミーナよ。不斉炭素なんて概念、あなたにはまだ早かったかしら?その式、左側の項を右辺に移項して、魔法陣の円周率を『3』じゃなくて『3.14159……』まで計算しなさい」
男――カスピアン・V・アイゼンバーグは、一瞬呆然とした後、猛然と黒板に書き込みを始めた。 カリカリとチョークの音が鳴り響く。数分後、彼は「ははっ!」と乾いた笑い声を上げた。
「……完璧だ。魔法の安定度が指数関数的に向上した。おい、君、いやセリーヌ。君は何者だ?魔女か? それとも僕の妄想が生み出した理想の女神か?」
「ただの化学教師(を、かつてやっていた女)よ。女神だなんて、『そんなふうに考えていた時期が俺にもありました』って後で後悔することになるわよ」
カスピアンは椅子を蹴って立ち上がると、私の手を取ってぶんぶんと振った。
「素晴らしい!理論で魔法を殴りつけるその快感、理解できるのは世界で僕たち二人だけかもしれない。……して、そんな『賢者』が、僕のような変態に何の用だい?」
「取引よ。あなたのその変態的な精密工作魔法を使って、私の設計した『耐熱ホウケイ酸ガラス』を錬成してほしいの」
私が差し出した設計図を見て、カスピアンの片眉が跳ね上がる。
「……SiO2にB2O3を添加する?熱膨張率を抑えるのか。面白い、実に面白い!だが、僕を動かすにはそれ相応の報酬が必要だ」
「報酬なら用意してあるわ。……あなたがずっと頭を悩ませている『魔法発動時の残留熱エネルギーの再利用方法』。これの解答を、熱力学(の、さわりだけ)を使って教えてあげる」
カスピアンは一瞬の沈黙の後、不敵な笑みを浮かべた。
「いいだろう。……君との出会いに、『圧倒的感謝っ……!』を捧げよう。セリーヌ。君のような劇薬となら、この退屈な世界をまるごと分解できそうだ」
こうして、私は「最強の設備」と「最強の共犯者」を手に入れた。カスピアンは、ゲームでは「誰にも心を開かない孤独の天才」として登場し、ヒロインに癒やされて仲間になるキャラだったはずだが……。
(……まぁいいわ。癒やしなんて不確かなエネルギーより、共通の理論という『強固な結合』の方が、よっぽど裏切らないもの)
実験室の準備は整った。 次は、いよいよ学園。ユースタス殿下、そしてリナ様。「愛」だの「運命」だのという不純物(不確定要素)だらけのあなたたちの世界に、最強の試薬をぶち込んであげるわ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
本作品はAIの支援を借りつつ、皆様がワクワクするようなお話を作って行っております。
続きを読んで「面白い」「また読みたい」と思っていただけたら、
下部にある「ブックマーク」や「評価(★)」で応援してくださると励みになります。




