第1話:その爆発、化学式で説明できます
「セリーヌ・フォン・アルケミーナ! また爆発させたのか! この無能め!」
鼓膜を震わせる怒号。衝撃音に続く、鼻を突く硝煙の匂い。 視界を覆う黒煙の向こう側で、婚約者である第一王子・ユースタスが顔を真っ赤にして叫んでいる。その後ろでは、取り巻きの貴族たちが「またか」「公爵令嬢の風上にも置けない」とクスクス笑う声が聞こえた。
――あぁ、五月蝿いな。
私は煤けたドレスの裾を払いながら、思考のノイズを整理する。 先ほどの大爆発。その衝撃で私の脳細胞は、数百年分、いや「一生分」の記憶を呼び覚ましていた。
(……思い出した。私、化学教師だったわ。それも、私立女子校で『爆発は芸術じゃない、計算ミスよ!』って毎日教壇を叩いてた、筋金入りの理系人間)
同時に、ここが前世でプレイした乙女ゲーム『エリュシオンの乙女』の世界であり、自分が将来、断罪されて詰む「悪役令嬢」であることも。
「聞いているのかセリーヌ!貴様の火魔法は、いつも制御不能の暴発ばかりだ!そんなことでは、清らかな治癒の力を持つ『聖女候補』のリナ嬢の足元にも及ばないぞ!」
ユースタス殿下は、寄り添うピンク髪の美少女――ヒロインのリナ――の肩を抱き寄せ、勝ち誇ったように笑う。 リナは「殿下、そんな……セリーヌ様がお可哀想ですぅ」と言いつつ、口元は「計画通り」と言わんばかりの歪んだ笑みを浮かべていた。
これだ。この「無能だと蔑まれる悪役令嬢」というテンプレート。 しかし、今の私にとって、殿下の罵倒など「希釈されすぎた塩酸」よりも刺激が少ない。 それよりも、私の興味は、目の前で漂っている『黒煙』にあった。
「……殿下。少々、よろしいでしょうか」
私はスッと立ち上がり、煤だらけの顔で無機質な笑みを浮かべた。
「なんだ、今さら命乞いか?」
「いいえ。……事象には必ず理由がある、というお話です」
私は地面に焦げ付いた「爆発の跡」を指差した。
「今、私が放ったのは火魔法ではありません。……いいえ、正確には『魔力を用いた水の電気分解、およびそれによって生じた水素と酸素の混合気体による急激な燃焼反応』です」
「は……?スイソ……?何を言っている」
「簡単に言えば、私は魔力で空気中の水分を分解し、最適な比率で混ぜ合わせていただけです。爆発したのは、その比率が『2:1』という、最も効率的な『爆鳴気』の状態になっていたから。つまり私の魔法は『失敗』ではなく、むしろ『理論上、完璧な物理現象』を引き起こしていたに過ぎません」
私は懐からハンカチを取り出し、顔を拭う。 周囲は静まり返っている。殿下は「こいつ、頭を打って狂ったか?」という目で私を見ているが、構わない。
「殿下、あなたは私の魔法を『制御不能』と評しましたね」
私は一歩、殿下に詰め寄った。
「ですが、制御できていないのは私ではなく、この世界の『魔法理論』の方です。魔力のベクトルを数ミリ調整するだけで、あなたのその豪華な金髪を、眉毛ごと一瞬で炭化させることも可能なんですよ?……あぁ、安心してください。今はまだ、この世界の物理定数を検証するのに忙しいので、あなたを実験台にする時間は無駄ですから」
「き、貴様……っ!不敬だぞ!」
「それでは失礼します。次の授業……いえ、次回の『再現実験』の準備がありますので。……あ、そこのリナ様。その香水、少し『エステル』の配合が不自然ですね。合成(魔法)の匂いが強すぎて、嗅覚がバカになりそうですわ」
私は優雅に(そして心の中で『君の理論、0点だよ』と毒づきながら)カーテシーを披露し、呆然とする一同を残してその場を去った。
歩きながら、私は思考を加速させる。 断罪イベントまで、あと一年。 リナから漂う、あの不自然なほど甘い香りの魔法……。あれは脳内の報酬系を刺激する、いわば「魔力のドラッグ」に近い。
(……面白いじゃない。魔法という名のブラックボックス、すべて化学式で解体してあげるわ。……諦めたら、そこで実験終了ですよ?)
セリーヌ・フォン・アルケミーナ。 彼女の瞳には、かつて生徒たちを恐怖させた「マッドサイエンティスト」の光が宿っていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
本作品はAIの支援を借りつつ、皆様がワクワクするようなお話を作って行っております。
続きを読んで「面白い」「また読みたい」と思っていただけたら、
下部にある「ブックマーク」や「評価(★)」で応援してくださると励みになります。




