予兆
人類は長い歴史の中で、ありとあらゆる場所の自然を破壊してきた。山は切り開かれ平原となり、豊かな緑は無機質な金属やコンクリートに塗り潰された。
これだけのことをして、何の報復も無いはずが無い。
星はあるべき姿を求め、地を赤く染め始めた。
20XX年 モス・シティ
日曜日
とあるゲームセンター
「スゲー。高野さん、ゲーム上手いんだな」
坊主の男子、岡島が感嘆の溜息を漏らす。
「昔から、得意なんだ」
茶髪の女子、高野は照れ臭そうに言った。
画面の中では、今時の女子高生に扮したアニメ調のキャラクターが、パンチやキックを繰り出している。3D格闘ゲームの新作である。発売されて間もない作品なのだが、店内では1番やりこんでいるようだ。
「あーっ!また負けたー」
岡島が叫んだ。高野のキャラクターの必殺技を食らい、ノックアウトされている。
「岡島君も、結構強いね」
「え、そう?やった。高野さん程じゃないけどな」
褒められて嬉しかったのか、岡島は照れ笑いを浮かべる。
「鈴木君も、どう?」
高野は、眼鏡をかけた黒髪の男子に声をかける。
「ぼ、僕?」
鈴木は、口ごもりながら答えた。
「あ、あんまりゲームはやったこと無くて……」
「じゃあ、私が教えてあげる」
高野は、鈴木にコントローラーを差し出す。鈴木はコントローラーを受け取った。
3人は同じ高校の同級生だ。この日は学校の創立記念日で学校が休みなので、3人で遊びに来ている。3人は仲が良く、普段から一緒にいることが多かった。
「あ、あれ?上手くいかないな……」
「あ、それはね……」
高野は、鈴木に操作方法を教える。
「あ、なるほど。ありがとう」
「どういたしまして」
高野は、優しい笑顔を浮かべた。
モス・シティは海に面した大都市だ。昔は山や森が広がっていた地を、先人たちが切り開き、広大な平原にしてしまった。さらに、海を埋め立てて、新たな土地を生み出している。そのおかげでこの都市は、この世界の中で一番大きな都市だと言われている。
海に面しているので、交易が盛んだ。港には毎日大きな船が出入りし、内陸部からの品物や人の行き来も多い。さらに、異国の商品を扱っている店も多数ある。
そんな海に、あんな怪物がいるとは、誰も思っていなかった。
はるか沖。一隻のタンカーが横転していた。船体には、巨大な爪痕のようなものがついている。周囲では複数の戦艦が大砲を構えている。
突然、海が沸騰し始めた。蒸気が霧となって辺りを包む。蒸気が晴れたとき、そこには穏やかな海が広がっていた。
先ほどまでタンカーも戦艦も無かったかのような、穏やかな海面が。




