不思議ちゃんの冒険9
「ジャンさん、次なにしたらいい?」
いつのまにかカワイイエプロンをつけたアリスがキッチンで微笑みます。
「タマネギみじん切り、大丈夫? やれる?」
ジャンさんがウサギの肉を切りながら、顔を上げずに言います。
「うん、たぶんできる。やってみるね」
まな板にタマネギを乗せて……、アリスの手が止まります。
(こんなにコロコロしてるのを、どうみじん切りしろっていうのよ! あのオヤジ。でもたぶんできるって言っちゃったしなあ……そう、ジャックに聞いてみよう)
アリスがテーブルで待ってるジャックを見ます。
「ジャック暇そうね! ちょっとこっち来て!」
めんどくさそうにキッチンへ来ました。
「なにアリス」
「ちょっと、タマネギのみじん切り教えてよ」
アリスが食い入るように見つめます。
「知らないよぼく。料理なんかできないもん」
アリスのカワイイ顔が微笑みます。
「あんた、あたしに恥かかせる気? 今、どういうシチュエーションだか分かってるわよね」
ジャックの目が、まな板をゆっくり叩く包丁に留まります。
「うん、分かる」
「今度はさ、さっきの裏拳みたいに済まないと思うけど」
「あ、はい」
いけませんねぇこれは……よい子のみなさんはぜったいにマネしないでね。
「だったら教えてよ」
美少年ジャックの目が、まだタマネギを切ってもいないのに、大粒の涙を流し始めます。
「まだ切ってないわよ。なに涙流してんの」
「ぼく、代わりにやる」
アリスが叩いてる包丁をぱっと取って、ジャックがタマネギをまな板に置きます。が……手は動かず……。
「ええいっ! こんなのーっ! タマネギごときがあっ!」
すさまじい速さで振り下ろされてく包丁。まな板には、タマネギのみじん切りがちゃんとできていきます。
「うわっ、マジ……。ジャックやるじゃーん」
アリスの目が、見直したようにジャックを見つめます。
「どうだーっ! ……はぁー終わったあ」
自己満足に浸るジャック。その横でアリスが不思議そうな顔をしてます。
「切ったの赤タマネギだったっけ、ジャック?」
アリスの言葉に、陶酔からむりやり引き戻されたジャックが指の激痛に初めて気づきます。
「い、いだぁー!! たぁーっ!!」
「タマネギどう? 切れた?」
つづく