不思議ちゃんの冒険31
アリスの体が、降りかかる血の雨を浴びながら、かがみ込んだ姿勢のままでいる。
彼女の意識に広がってくる暗黒の安らぎ。
……彼女もいつのまにかよく知っている超美少年、ルシファーが華奢な色白の体を暗闇に浮き立たせる。そして左に彼女の父セラフィム卿が立って、なにかを話している。
「ミントを失った!! 私の末っ子を! カネで買われた戦士たちによって……それも長女の仲間たちによって」
嘆き続ける卿を、事件の元凶であるはずのルシファーが慰める。
「きみは分かったんだ。どれだけ人間が悪なのかを。その元はカネだというのも……。ぼくにはダルトンが死ぬ前言ってたように、カネの能力はない。それは悪霊にはカネが要らないからなんだ。ぼくに必要なのはただ『愛』することだけ……ずーっと昔、まだ神と天使たちがいた頃、愛は彼らに守られてたんだけど、カネに彼らが滅ぼされたあと、ぼくは恐れて愛で身を守ろうとした。……そして今までそれを通してる。愛はカネという人間のツールをこえるものだと信じてる。だって、なにより悪霊のぼくが愛によって生き延びてるんだからねwカネの時代を」
卿の意外そうな表情……神と天使はとっくにカネで滅んで、愛を残った悪霊が相続して受け継いでいる……
「悪霊よ」
「なに?」
卿の食い入るようなまなざし。
「きみは愛そのものなのか?」
卿の質問に寂しく微笑んでうなずくルシファー。
「神がカネに滅ぼされた今は、愛はぼく、ルシファーそのものさ」
卿が悪霊を笑う。そのあまりに皮肉な運命に。
「あれ、笑って……元気出てきたみたいだね」
(人間がカネの真実を知ったとき、悪霊よりも悪になる)
つづく