不思議ちゃんの冒険30
「お前ら、話は終わってない」
父の声とともに、掴みかかってきたアリス。
放心状態のオーウェンがまず捕まる。
その隙に急いで部屋から出て行く仲間――ミントを消すのに従った者たちだった。
アリスの手がオーウェンの胸ぐらを掴む。
「『消した』というのは本当か!? 言え!」
アリスの体内から搾り出てくる父セラフィム卿の声。怒りに震え、おぞましさに満ちている。
だがアリス自身のほうは、口を固く閉じ、まるで父の状態を悲しむようにただ涙を流している。
オーウェンは答えない。
アリスの右手甲から霊剣が滑り出て……。
シューッ、パラパラパラ……。
アリスの前に、がっくりと膝を落とすオーウェン。
彼の血しぶきに染まっていくアリスの美しい顔……頬の血に混ざってゆく涙……。
後ろにいた爺とベルナールが、無言でそれを見守る。
それを見て仲間のうち部屋に残っていたダルトンが――すでにこわれていた――『カラ笑い』する。
「ははは、アリスきれいだ! ははは」
彼女の中から出る声。
「ダルトン、お前は笑えるのか? ミントを裏切って」
根が優しい彼は、急にキレてわめき出した。
「ああそうさ。裏切った。どうせおれは使えないヤツさ。それに、それにてめぇみたいな悪霊には使えないが、生きてるおれたちには大事な『カネ』ってものが要るんだ……。カネだよカネ……ミントを裏切ったらずいぶん貰えたよ、カネ……悪霊は関係ないんだよなカネなんか……ふざけやがって!! いい気なもんだな悪霊さまは、ははは」
そう言ってダルトンの拳がアリスの胸――声の出ているあたりを何度も殴る。
「カネ、カネ、カネ!! カネなんだよ世の中は、この悪霊!!」
ダルトンの首に、アリスが吐いた血がかかる。
涙を流し続けるその血塗られた美しい顔。
「カネ、カネ、カネ、……カネ!」
ダルトンがやっと殴る手を止めた。
「……だってさ、おれたちは生きてかなきゃいけないんだ、現実を……お前みたいな悪霊と違って……ラクになりたいなあおれ……」
胸を押さえて崩れていたアリスが、ダルトンのその言葉に応えるように、霊剣を出して下から突き上げる……。
アリスの髪に勢いよく降りかかる血……。
つづく