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事の発端

 これは母の腹の中にいる時から夢見ていた『魂の記憶』だ。

 その年若いみすぼらしい服を着た女はとある小さな村に住んでいたが、可愛げがあり、いつも見つめる先にはいつだって平凡な優しそうな見た目の男がいた。

 その男こそ自分だと志遠には分かったし、そのみすぼらしい姿の年若い女こそ、いつ生まれ変わっても求める唯一の女性ひとだと知っていた。

 二人はいつしか会えば、何気ない会話で笑い合い、何気ない日常の中で求め合い、密かにお互いに恋をしていたのだろう。

 また会いたい、また会いたいと会う時間を徐々に増やして行った。

 次第にそれは深い愛に包まれて、とても幸せで、あなたが居ればそれだけで良いと心から満たされていた。

 そのようになっていたある日、男は蜘蛛の巣に引っかかった今まで見たこともない綺麗な紅い蝶を一頭助けた。

 飛び去って行くのを見つめていた後ろに彼女が現れ、事の顛末を話し、それは私も見てみたかったと言われて、男は言った。

 お前の方がずっと綺麗で、いつも近くに居てくれる。それが心から嬉しいと。

 そこからだ、二人の幸せはズタボロに壊れて行った。

 その蝶にとって、それは猛毒だった。

 姿を現せばすぐに男なんて自分のものになると思い、その姿を現せば、裏切ることなんて出来ない! と拒否をされ、怒りを招いた。

 その蝶こそ、仙女と言われる綺霞であり、今に至る要因だ。

 狂おしいほど憎く思う者が現れなければ、突然終わりを迎えることはなかったのに、そうなってしまってはもうこれしか方法はなかった。

 引き離されてもまた生まれ変わって、あなたを愛す――。

 魂と魂で惹かれ合うのだから、どんな姿になっていようと分かり合える。

 いつの世も人として男は男で生まれ、女は女で生まれる。

 どんなに遠くに離れて居ても、また巡り合い、その愛を期待し、出会うのだ。

 けれど、あの時以来全く、あなたを手にすることはできないと同じ事をまた思うのだろう。

 幾度巡り合っても尚――。

 それを春鈴も知っているからこそ、大事な時だと思うのだ。

 だからこそ、こんな所で怯んでいる場合ではないのだ。

 さっさと片付けて、今生こそは! と思えばこそ、愛しいと思ってしまう春鈴を、その魂ごと自分のものにしたいのだ。

 志遠は浅はかにもそう思ってしまう。

 それが自分の思う一番の拠り所だからだ。

 他のものは何もいらなくて、それだけが欲しかったからだ。

 仕方ない、それにしか自分は興味が持てないのだから。

 だから、あきらめてそれに従う。

 春鈴を他の者にあげたくなくていっぱいいっぱいだ。

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