人員増員
九垓を呼び寄せる為に雨露を使い、その間は仕方なく自分の部屋に居るように命じたは良いが、何故か春鈴も残っている。
訳を訊けば、志遠様お一人では心細いでしょうから……と言う。
随分と波妃より懐いてくれるようになった。
そうして別に何かするわけでもなく待っていれば、九垓が走り込んで来た。
「志遠様! どういたしました?!」
「いや、そんなに慌てる事はないが。これで雨露を付けることができる」
そう言えば紅運は素直にそれに従い、この部屋を後にした。
それでも春鈴が出て行かないのを見ると九垓は言う。
「春鈴は居る必要があるということでしょうか?」
「いいや、もう充分だ。とっとと自分の部屋にでも戻って好きな事をしていろ」
「はい、分かりました」
少しぶっきらぼうにそう言って部屋を出て行った。
まだあいつには言いたくない。というより、この九垓の前で言いたくない。
機嫌が悪くなったのはありがとうだとかそういう礼がないということだと良いのだが。
「少し気にされていますね」
目敏い。
「何がだ?」
「お忘れですか? 私はあなたがお選びになったとされる物を二つばかり用意した男ですよ?」
それがどういう意味か分かって、志遠はそっぽを向いた。
そういえばいつぞや、こいつには春鈴の為の琵琶だかを用意させた気がする――だから知っているというわけだ。この心の内を。
「まあ、良い。俺にはもう決めている事がある」
「何ですか?」
少しわくわくとした声で言って来るのが気に障る。
「人員増員だ」
「はい? 人員増員?」
「ああ、何故雨露を紅運に付けたかはここに書いてある」
「はぁ……」
困ったようにその巻物を読み、少し考えて九垓は言った。
「では、あの者は人ではないと?」
「いいや、あれは人間だが、その中にそれではないモノも居るということだ。それを書いたのは陛下に読ませる為じゃない。お前にだけ、読ませる為だ。あの二人と一緒では他にやる事もなかったしな」
嘘を言っていませんか? 等と茶々を入れることもなく九垓は真剣な顔付きで言った。
「御意」
それは志遠が書いても意味がない物で、永華として書けば効力が出る物だった。
そんなに簡単にこの後宮に居る宦官、志遠では何もできない。
やはり力が要る時は皇帝陛下の異母弟というのはとても役に立つ。
まあ、戦の為じゃない。
人を集める為だ。
そうすれば武官も好きにやって来るだろう。
宦官としてなら来ないものでも、そうして自分はこの力を使う。




