勘と戯言
長いことでもないが空いていた銘朗宮に新たな妃が入ったとして後宮内では騒ぎになっていた。
だが、こちらとしては今日の朝方発見された雲雕の死体の方が問題だ。
後宮内の事ではないので誰も問題にはしないが、拷問まではしておりません! と言う九垓を信じるならば、何が原因か? 目立った外傷もないようだし、やはり最初から衰弱が激しかったせいか――それで片付けられるなら良いが、他に原因があるとしたら何か? 皇帝陛下に伝えるべきかと思うが、あれから何も得られた事はない。それに自分の母がした事を言ってしまえば、こちらがどうなるか分からない。
このまま闇に葬ってしまいたい事実だ。
自分の部屋に戻り、溜め息を吐こうとした瞬間、人が来る気配がして止めた。
「志遠様! お聞きになりましたか?」
「ああ」
そこには夜更けに思っていた本物の春鈴が来ていたのに全然喜んではいられなかった。
「昨日の今日で銘朗宮に入られた詰妃の事か?」
「それもありますが、あの……」
「何だ?」
とても言いにくそうに春鈴はぽつりと静かに志遠にしか聞こえない声で言う。
「倒流香炉は無事なのですよね?」
「はあ?」
心配する所に意表を突かれて、間抜けな声が出てしまった。
そう言えば、あの時見せてもらった倒流香炉は持って行きたい! と雲雕に駄々をこねられて仕方なく持って行くのを許したが、それをずっと手元に置いておくのは駄目だと言って取り上げたままになっていた。
「あの雲雕が持っていた倒流香炉は確か……」
まだその所在を確認していない。
「早急に確認させよう」
「はい!」
とても明るい返事をした春鈴の顔を見た途端、志遠も心が少し軽くなった気がする。けれど、その直後に自分の部屋にズカズカではないにしてものこのこと間が悪くやって来た紅運に邪魔をされた。
「その心配はいりませんよ」
「何故だ?」
「あれは持ち去られましたから」
「何故、お前がそれを知っている?」
紅運には関係のない事なのに。
「私の仲間が持って行ったのです」
「は? 何を言ってるんだ?」
「あの圭璋も使った倒流香炉はアイツが持って行ってしまいました。それに以前、善裕宮の雪妃の所で探していらしゃった倒流香炉ももうここにはありません」
「どういう意味だ?」
「今はあなた達が会いに行かれた所にあります」
それ以上答えない紅運に志遠は言う。
「それを言いにわざわざ来たのか?」
「ええ、大切な事でしょう? あなたというより、圭璋にとっては」
そう言って、紅運は春鈴の方を見た。
どういう事だ?
紅運は春鈴が圭璋であることを知っているのか?
ドキドキと胸騒ぎがして来そうな所で、紅運はまた口を開いた。
「まあ、無くしたと思っていた物が出て来たのですから、それは心地良くないでしょう。まして知られたくない事を知られてしまったわけですし、どうやって復元したかと言いますと、暗示をかけてそう思い込ませるしか方法はなかったのですが。あなたとは付き合いが長いですしね、何も言えないようなので私がお答えしているのですが」
言う者は紅運ではないような気がした。それにさっきからずっと紅運が話しているのは志遠ではなく、隣に立つ春鈴にだった。
それにあの『圭璋』と言う感じ。
いつもの紅運であったならば、そう言うだろうか。
疑問が生じている、自分の中で――。
「もう忍んでいるのも疲れました。別に怒ってはいないのです。ただ裏切られたような気もして寂しいのですよ。別に仲間とは言ってもそこまでの仲ではないのですが」
はて、何の話をしているのだろう? と言った感じになって来た時にいよいよ春鈴は言った。
「その話の続きは志遠様抜きでしたいです!」
そこに居たのは春鈴なのに、そう思えない所もある。
それは勘だ。
この話の行き着く先が知りたい。
だから、志遠は言った。俺も混ぜろと。
それは思ってもみない事だった。




