四守のうちの二人が見るもの
後宮ではまた新たな命を生む為の努力をしているというのに、ここはそうではない。
暗闇の中、冷えた石床は冬を迎える前にころっと人の温度を全て吸い取ってしまったのだろうか。
死後硬直し、もうその身体に用はないとそこから静かに出て来たのはあの蠍皇后とまことしやかな噂が立った相手ともいうべき美男子だった。
「香霧」
そんな彼にふわっとどこからかやって来た精悍な顔をした男が声を掛けた。
「晧月!」
にこやかそうにゆるく笑った顔は本当に美男子そのものだ。
それなのにそこに転がっているそれは違う。正反対のものだ。
何もかもが失われて、もう本当に用がないのだと分かる。
「呆気ないものだな、この雲雕の身体はどうだった?」
「ボクがいなければ、ここまで生きてられなかったよ。誰が見てもそれは分かっただろう?」
何の悔いもなく香霧はそう言った。
しばらくぶりの外の空気は美味しいだろうか。
コキコキとは鳴らないまでもそのようにして身体中を動かし、窮屈だったと彼は言う。
「ねえ、晧月……ボクはちゃんとあの方がお出になった倒流香炉を持って帰って来たよ。えらい?」
「ああ、偉い、偉い」
そう言う香霧の頭を少しも撫でる気などなく、晧月は言う。
「そろそろ行くぞ、お前を迎えに来ただけだからな」
「分かってる。じゃあね、雲雕」
何とも軽い別れ方だ。
いつもより長くそこに留まっておきながら、香霧に愛着など求めてはいけないのだろう。
自分よりも律しているのか、普通ならこっちが出ただけでは人は死なないが、あの雲雕の弱り方では呆気なく逝ってしまうのも仕方なく見える。
そこまで弱らせていないのに、あの倒流香炉を持ち去ったが為にそうなってしまっただけ。
自らが招いた不幸だろう。
それを嬉しくも何とも思わないこちらとしては、素早く離れるだけだ。
その責を負わされるのは誰か。
考えたとて、別に誰が見ても時間の問題だったというのは分かるだろうし、不自然に生きていてもしょうがない。
朝方には発見されるだろう。
「いやはや、人に生まれたくはないものだな」
「そうだね……。でも、ボク達は仙でも人でもないんじゃない?」
「そうだな」
ただあの綺霞の暇潰しに必要な倒流香炉を守るのが役割だ。
それを『四守』と呼び、それ以外に存在理由はない。
ただ人がそれに魅了されてしまっただけで簡単にこちらの者となる。
それは人が言う呪いに近いのだろう。
まだあと二人いる。
それが揃えば、もっと動き出すのだろう。
悠々と飛び続けていても人には見えない。
それがこちら側のものの特権だと言うように、その日の月は澄み渡らずにすっかりと霞んで見えていただろう。




