事実
まず最初に「驚かないで聞いて下さいね。馬まで使い、聞こうとしている話を私は少ししかできません」と構堂は言った。
それは旭が永華の言葉通りに書いた物のことについて言っているのだろう。
「それでも良い。聞かせてくれ」
「はい、雲雕はその時すでに揺妃の所の宦官ではあったのですが下の方におり、揺妃との接点はそんなに深くはなかったのです。それなのにあの日、紅運がまだ少年だった頃、初めて後宮の宦官としてやって来た直後でした――」
当時は何もなかったそこで、今まさに揺妃は噂の仙女、綺霞を呼び出そうとしていました。
旭から聞いておりますが、永華様もご存知でしょう? 倒流香炉のことは。
それが傍らに置いてあるのを見た時に物陰から雲雕が覗いておりました。
たまたま居合わせてしまったのでしょう。
それなのにそれだけで彼は夢見ることになった。
――ああ! あの方こそが一番美しく素晴らしいものだ!! と。
それはそれは目を輝かせていました。
やっと見つけた! とその眼は申しておりました。
私だけのものにしたいとかは全くありません。
ただ純粋に美しいと、彼の目は言っていました。
それが紅姿で現れた綺霞を見た途端、一変した。
彼の目はそれまで以上に麗しい――と恋焦がれるようにその手を伸ばしていた。
けれど、向こうはこちらに気付いてしまった。
そこで終わりだと思えば違いました。
彼女達は少し笑うとそれを行ったのです。
それは契約と言うのでしょうか?
聞いてはならない事を口走っていました。
『麗妃の子が、誰かに子を産ませたとしても、絶対にその子達全員を大人にさせないでほしいのよ!!』
それはあまりに酷い内容でした。
それが今の後宮の問題点となっている所です。
その後すぐ、絶対誰にも口外するな! とあの揺妃に言われれば従うしかなく、その使い終わった倒流香炉はこちらで預かることになりました。これが出てくれば噂は本当か? と大騒ぎになることは明らかでしたしね。
その後、揺妃は病に倒れ、回復せずにそのままとなったのは記憶に残っておいででしょう。
雲雕はすぐに言ってきましたよ、揺妃様のような方が今度、皇后になられると聞きましたが、私をその皇后の宦官にさせて下さい! と。
それを新たに皇帝陛下となられたあなたの兄上様に私は申し上げました。
すると陛下は実に何の疑いもなく、そうしろとおっしゃったのです。
そして、雲雕は揺妃と皇后の宦官となったのでございます。
雲雕はすぐに倒流香炉を用意しました。
あの方をもう一度! と強く願っていたのかもしれませんね。
でも、皇后はその仙女を使うことはなかった。
けれど、皇后は多くの宦官達と共に多くの罪をお作りになった。
そして皇后はその血を残すことなく、逝ってしまった。
これが『亡き人の呪い』ではなくて何なのでしょうかね?
それが始まりではないと永華は知っていた。
なのに、そうだと言ってしまいそうだ。
「私の母上がした事が『亡き人の呪い』の始まりか?」
「はい、そうです」
「何故それを今まで黙っていた? 陛下には申し上げてないだろう? その口ぶりからすると」
「はい、左様でございます」
淡々としている。
何も悪気がないように、旭も何も言わない。
いや、言えないのかもしれない。
微かな怒りでさえ、構堂に見せたくない。
それにそれ以上、構堂に強く言えないのはあの母上の事を永華もよく知っているからだ。
あの響妃よりも強い人だった我が母は誰よりも傲慢で、この母から永華が生まれたことを誰もが不思議がったくらい、人を嫌がらせるのが上手かった。
だから、寵愛が移ったとしても誰もが納得していた。
ただ一人、許していなかったのはその母上だけだ。
兄上の方が先に生まれた理由はそこにあり、それでも先帝である我が父が地位が高い貴族の娘というだけでえらく気に障る態度を取り続ける母上の所に通い続けたのは寵愛し出した地位の低い貴族の娘であった今の皇太后でもある麗妃が何かをされてしまうかもしれないという恐れがあったからだろう。
それがなければ、自分は生まれなかったが――。
話は済んだとしようとした矢先、春鈴が口を開いた。
「では、何故、継いだと言ったのですか?」
こいつはまだ根に持っているのか、その倒流香炉の事を。
「そんなにそれが気になるか?」
「はい、継いだのはその倒流香炉なのですか? それなら、それを預かることになったあなたが『こちら』であり、それを渡したのですか?」
それは――。
答えを聞くこちらの姿を、構堂はどう思っただろう。




