旭の返答
よくしてくれていた構堂にも知れたことだと旭は永華の好みを今一度徹底的に知る為、書庫に向かった。
朝早くの時間なら誰も居ないと思えば、絶対に今一番会いたくない人に会ってしまった。
「永華様!」
咄嗟にそう呼んでしまい、慌てて口をつぐむ。
だが、間に合わなかった。
何故ここに旭が居るのか? そして、何故その名を口にした? と振り返った志遠の目が物言わず言う。
「申し訳ありません。つい……」
久しくその名を口にしていなかったが、言ってしまったのはよほど永華様の事だけを考えていたからだ。
でも、それは決して口には出さない。
いや、出せない。
「何の用でここに来た?」
「えっと……その、ここの所、気になる事が出来たので少々調べに」
「こんな朝早くにか?」
「ご自分だってそうではないですか。この時間しか私にはないのです」
「そうか……」
それ以上言って来ない志遠を旭は少し見た。
ずっと探しているのだろうか。辺りは散らかっていないが、この立ったままの静けさ……。
自分がそう言ったからではあるが、志遠が何について調べているか気になる。
「志遠様はここで何をお調べに?」
「呪いについてだ」
「呪い?!」
「ああ、心配することはない。陛下や公主様には関係ないことだと思う」
「ですが、公主様はお体が弱いようで、昨日も体調が良くないようでしたが」
「しっかり診てもらっているのだろう?」
「ええ、そうですが。またそうなったら……」
縁起でもないことを言うな! と怒ろうとした。
これは陛下の子供だからだろうか、それとも自分と血が繋がっているからだろうか。
「――旭は知っているか? 揺妃と皇后の宦官だったという雲雕を」
「雲雕ですか?」
「ああ……」
しばらく自分の記憶を探った旭は言う。
「確か、陛下が直々にそうされたのです。構堂がそう言うならと」
「構堂?」
「はい、覚えていませんか? 先帝にお仕えしていた元宦官なのですが」
「ああ、それなら覚えている」
見た目は冴えない感じだったが有能で、旭の面倒を何かと見ていた。
「気遣いがすごかった気がする」
「そうですね、あの方はそれだけいつも最新の注意を払っていた。何かあっては困るからと」
用意周到とは言わなかった。
「その名を口にするということは、その者が知っていると言いたいのか? 旭は」
「そう思われてもしょうがないでしょうね」
他にはないようで、しばらく志遠は考え込み、言った。
「案内してくれ」
それは謎を解く鍵になるかもしれなかった。




