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異世界おっさん一人飯  作者: S・B


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10話 出国

十話 使徒のサラダ


 ラピスラズベリーの採取依頼から一ヶ月間、俺は依頼をこなしながら再び旅の準備を進めた。いくら収納袋があるといっても、その容量には限りがある。道中に野宿になったとしても火種や水は魔法でどうにかなる。土魔法で石壁を作れば塒も作れる。やはり大事なのは食料だ。飯だけは魔法でどうにもならない。

 北風商店に再び訪れ食材や酒を買い足していると、カンタロウさんが気になる一言を言った。


「お酒は飛ぶように売れるんですが、米や調味料の売上があまり良くなくて……やはり食文化の違いは難しいですな」

「そんな、まさか!米の美味さが伝わってないだと!?」


 余りにも驚き声を上げてしまった。店内の他の客達の注目を浴びてしまい、申し訳ないと思いながら身体を小さくした。


 俺なら炊きたてのご飯なら、塩で丼一杯、おかずがあれば三杯はイケるというのに。おにぎりなら十個は余裕だろう。こんなにも美味いものが何故……うん、炊きたて!?もしかして……


「カンタロウさん、米の炊き方とか教えてますか?こちらでは煮たり炒める調理法はありますが、米を炊くという料理技法はないかと」

「成る程!そういうことですか!?」


 俺の問いに気付いたカンタロウさんが声を上げた。そして周りの目も気にせず、ぶつぶつと独り言を言いながら思考の海に深く潜っていく。


「店前で屋台を出してみてはどうです?焼きおにぎりなら、しょうゆやみその焼かれた香りで人も寄ってくると思いますよ。あと、炊き込みご飯とか肉巻きおにぎりとか」

「それはいいですね!早速準備し手配します。しかしバン様は何故東料理にそんなにお詳しいのです?」


 不味い!米への愛情故に語りすぎた。しかしそこは以前から考えていた答えで乗り切る。


「あ、えっ、その、幼き頃に読んだ冒険譚に東国の事が……以前からその物語に出てくる料理に憧れていたんです」

「成る程!それで色々とお詳しかったんですね。して、肉巻きおにぎりとは?」

「えっと……俵型のおにぎりに薄くカットした肉を巻いて醤油ベースの甘辛いタレをつけて焼き上げた感じだったかと」


 正確には日本発祥ではない気もするが美味しければ正義だろう。


「おお!それはまさにおにぎりの進化系ですな!?きんむすやいなり寿司のお肉版と言う感じですかな」


 きんむすだと?それにいなり寿司!。と言うことは豆腐にお揚げもあるってことか。くそっ、盲点だった……後で追加で買おう。


「た、多分そんな感じかと……」

「それは本国でもまだありません!間違いなく売れるはず。私の商会で早速販売してみても?」

「俺は詳しいレシピなんてわかりませんよ。ただ、物語に出てくるその料理が余りにも美味そうだったなと」


 いや、実際美味かった。あの香ばしい香りにおにぎりとしてはボリュームのある量、そして焼けた肉のインパクト。間違いなく店を出しても赤字にはならないだろう。


「灯台下暗しとはこのことですな。では私は根回し、もとい準備に取りかかりますので、他の従業員になんなりとお申し付けください」

「ははは……ありがとうございます」


 俺が礼を言い終わる前にカンタロウさんは急ぎ去ってっていった。



 宿へと戻り、旅の道中に食べるおにぎり作りを頑張る。上手く三角に握れないが、どうせ俺しか食わないのだから問題ない。しかし、ずっとマダムが俺をみている。まぁ俺と言うよりおにぎり作りだが。


「あんたがお米を握ると美味しそうじゃないね」

「うるせぇな、素人なりに頑張ってるんだ。チャチャをいれるんじゃねえよ。それより仕事はいいのか?」

「もう引退したんだ。のんびりするさね」


 いつの間にかマダムは娘夫婦を呼びつけ後を継がせた。「もう老い先短いからね」と本人談だが、絶対にまだまだ長生きするはずだ。と皆が言っているし俺も思っている。


「しかし、バン。リタリアなんかに行ってどうするんだい?」

「どうするもなにも、あの国の食文化を是非味わってみたいんだよ。風土、人、そこから生まれた料理。楽しみで仕方がない」

「別にあたしが死んでからでもいいじゃないか?あんたがいなくなったら東料理が食えなくなるよ」

「なら、一生行けねぇよ!店なら紹介してやったろ?買いに行くでも娘夫婦に頼むでもして自分で作ったらどうだ?」

「ふむ、それも面白そうだね!?どれ、私に握らせてごらん」


 なにを思いついたのか、マダムは椅子から立ち上がり俺の隣に来て見様見真似で米を握り始めた。


「やさしく、ふわっと……」


 そう呟きながら米を取り握るマダム。


「はぁ!?なんでだよ!」


 何故かマダムが握ると綺麗な三角になっていく。そして具を中央に埋め再び握り直し炙った海苔を巻くと、俺の握ったおにぎりよりも綺麗で美味そうだった。まるで前世で専門店のショーケースに入っている商品みたいだ。


「どうだい、上手いもんだろ?」

「悔しいが確かに上手だよ」

「米を仕入れて、これを一つ銅貨三枚で売れば……ふふふ」


 マダムの瞳に金貨が見える。商売でも始めるつもりさ?しかし、前世でも今世でも、ばあちゃんの握るおにぎりは上手と言う、不変的な何かがあるのか?それとも俺が下手すぎるだけなのだろうか……

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