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異世界おっさん一人飯  作者: S・B


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21/29

9ー3

ラピスラズベリーの味を楽しみに、彼らの愚痴を聞き流しながら馬車は進む。

 すると夕方には湿地帯の入口ともいうべき橋の前にたどり着いた。この川にかかる橋を越えると広い湿地帯が広がっているらしい。


「ここにテントを張り、明日の早朝から湿地帯に入るぞ」


 バルドの声に従い馬車を止め、そのすぐ隣で各自テントを張りはじる。夜の見張りは御者をしていた彼がしてくるらしい。彼も元冒険者らしく、今ではギルド専用の馬車の管理を生業としているそうだ。


「軽く飲みながら、打ち合わせをしておかないか?」


 他の場所では、あまり見かけない多種多様な生物や魔物がいるが、その生態系の上位にいるのがラフレベリーと書かれている。俺は対峙するのが初の魔物だ。もし討伐経験がある奴がいたら色々と聞いておきたいと思い声を掛けると、


「そうだな、皆集ってくれ」


 焚火を囲むようにそれぞれが酒瓶を片手に集まった。皆、打ち合わせと言うより飲み会に参加するような雰囲気だ。


「俺はこいつだ」


 バルドが高級そうな火酒の瓶を掲げた。


「俺はやっぱりエールだな」


 ブランカは小樽を抱え現れる。


「私はこちらを。当たり年のものです」


 通常よりかなり大きなワイン瓶を抱え、ブレイブがにこやかに言う。


「俺は妻を射止めた手作りの蜂蜜酒だ」


 ビートは料理好きらしく、自慢げに自家製を主張する。


 それぞれの好みが分かって面白い。俺は東酒を出そうかと思ったが、流石に酒だけでは身体に悪い。飲む量も十分だろう。それに俺は飲む派より食う派だしな。


「酒は十分だな。なら、俺は摘める物を出すか」


 収納袋に貰ったり買い溜めしておいた、サーモンサンド、オークのベーコンやソーセージ、ゴールデンミルクのフレッシュタイプとハードタイプの二種チーズを取り出し大きめの木皿に盛って出した。すると、


「「「おお!」」」


 何故か皆が驚きの声を上げあげる。


「これはすごい!まるでレストランのオードブルみたいだな」


と、バルドが目を丸くして言った。彼の顔には、普段の威厳あるギルドマスターの表情ではなく、ただの食いしん坊のオヤジの顔が浮かんでいた。


 ブランカがソーセージを一切れ口に放り込み、


「うん、美味い!このオークのベーコンも、燻製の香りがたまらないな」と、満足げに頷いた。


 ブレイブは、ゴールデンミルクのフレッシュチーズを一口食べ、


「これは……!口の中でとろけるようです。神聖な味がしますね」


と、恍惚とした表情を浮かべた。神聖な味がどんなものかわからないが口に合ったらしい。


ビートは、ハードタイプのチーズを手に取り、


「自家製の蜂蜜酒に合うな。この組み合わせは新しい発見だ」


と、冷静ながらも興味津々といった様子だった。彼の顔にも、普段の淡々とした表情にはない、好奇心が垣間見えた。


「バン、お前は本当に色々なものを持っているな!?」


と、バルドが感心したように言った。


「いやいや、これは依頼で手に入れたり、知り合いから貰ったり買ったものばかりだ。俺は食べるのが大好きだからな」


 実際、収納袋の中には、もっと色々な食材が大量に詰まっている。これはほんの一部だ。


 皆が酒を酌み交わし、つまみを分け合いながら和やかな宴が始まってしまった。打ち合わせとは……


 しかし宴のおかげでラピスラズベリーの採取という危険な依頼を前に、皆の表情はリラックスしていた。


「しかし、ラフレベリーか……」


と、ブランカが真面目な顔に戻って言った。


「斥候として、厄介なのはその蔦と魔法攻撃だ。特に、魔力で周囲の環境を操るのが得意だから、足元には常に気を配る必要がある」


「その点では、高僧のブレイブ殿の結界魔法が頼りになるな」


と、ビートが冷静に分析した。


「広範囲攻撃で蔦を焼き払うのも有効だろうがラピスラズベリーも焼けてしまうからな。俺の土魔法で足場を固めるほうがいいだろう」


ブレイブは、


「ええ、皆さんの安全が第一ですから、回復は常に意識しておきます。だからといって無理はしないでください」


 そういってバルドを見る。


「お、おう」


 俺は、皆の話を聞きながら、ラフレベリーの姿を想像していた。資料にあった通り巨大な植物系の魔物で、宝石のようなラピスラズベリーを茎の根元に実らせる。危険ではあるが、その味への期待は膨らむばかりだ。


「バンは、採取がメインだから無理に戦闘に参加する必要はない。だが、魔剣士として、いざという時の対応は頼むぞ」


と、都合が悪くなったバルドが俺に視線を向けた。


「わかっているさ。ラフレベリーの蔦や魔法を斬り裂き、確実にラピスラズベリーを回収する。女性職員たちを敵に回したくない」

「「「たしかに」」」


と、俺はやれやれといった感じで呟くと、他の四人もニヤリと笑った。どうやら家族からの期待がモチベーションになっているようだ。

 夜が更け、焚き火の炎がパチパチと音を立てる。酒も残り少なくなった頃、皆の口から再び家族の話題が出始めた。


「うちの娘は、最近料理に興味があるらしくてな。今度、一緒にパイを焼こうって約束したんだ」


と、ブランカが嬉しそうに言った。


「いいですね。私も妻と、休日はよく庭でハーブを育てています。収穫したハーブで、料理を作るのも楽しいものです」


と、ブレイブが穏やかに語った。ビートは、


「俺は、娘のために新しい魔法の絵本を書き始めたんだ。まだ途中だが、完成したら読んでやるのが楽しみでな」


と、どこか照れくさそうに言った。バルドは、残りの火酒を一気に飲み干し、


「俺は、妻に最近は腰が痛いと愚痴をこぼしたら、薬草酒を作ってくれたんだ。これがまた、なかなか効くんだ」


と、満足げに腹を叩いた。

 俺は、彼らの話を聞きながら温かい気持ちになった。皆冒険者だが、家庭では優しい夫であり、父親なのだと。


「独身の俺には、まだ縁遠い話だな……」


と、俺が言うと皆が


「「「そのうちわかるさ」」」


という視線を向けてきた。


「さて、そろそろ休むか。明日は早いからな」


と、バルドが立ち上がった。


 皆がそれぞれのテントに戻っていく。俺も焚き火の残火をテントの中から眺めながら、明日の採取に備えてゆっくりと目を閉じた。 

 まだ味わえぬラピスラズベリーの味を夢見ながら。



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