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第九章『魔女』

人間界、日菜は木の幹の穴を見つめていた。

「あ!」

 見えたのは二つの影、トトとララだった。

「おかえり!」

「ただいま! ってずっと待ってたの?」

 ララはつられて元気よく挨拶したが、日菜が待っていたことに驚いた。

「でもすぐだったよ」

 双子が妖精界にいた時間はおよそ三時間。人間界の時間軸で考えれば三分である。

「あ、そっかそっか!」

 時間のことをすっかり忘れていたララは、舌を出して可愛く誤魔化した。

「トトもおかえり」

 気まずいのか何も話さないトト。日菜が声をかけても、下を向いている。

「兄ちゃん、言うことあるんでしょ?」

 ララがトトの背中を押す。日菜の顔の前にきたトトは、恥ずかしそうにしばらくもじもじした後、小さく呟いた。

「さっきはごめん。言い過ぎた」

「ううん、私もわがまま言ってごめんね」

 ララはその光景を微笑ましく見ていた。素直に謝れる日菜は、本当に良い子だと。

「仲直りが済んだところで、帰ろっか!」

 三人はまた仲良く、家へと帰った。

翌日の放課後、いつものように三人で妖精界へと向かう。

「日菜ちゃんはアカデミーに行っておいで。もう道はわかる?」

「うん。二人は?」

 ララが優しく問いかける。日菜がアカデミーに行くのも三回目だ。道をしっかり覚えて、今日も行く気満々だ。

「俺たちは女王様に用がある。終わったらまたここに集合な」

 人間界への入り口を集合場所として、三人は解散した。


 アカデミーに着いた日菜は、今日初めて魔法を習う。

「はい、皆さん。今日は初めての魔法の授業ですね。実技はまだですが、楽しく学んでいきましょう」

 ミント先生が黒板に文字を書き始める。まず、魔法とは何か。

「魔法とは、妖精や精霊が持つ魔力を使って、攻撃や防御、何かを作り出したりする能力のことです。さて、ここで問題です」

 先生は手作りのパネルを取り出し、黒板に貼り付けた。

「妖精が使える魔法には種類があります。それは何と何でしょう?」

 この問題、妖精にとっては基本中の基本だが、元人間の日菜にわかるはずがない。生徒の一人が手を挙げ、当たり前のように答える。

「そうですね。正解は『家系魔法』と『個人魔法』です。皆さんは十分知っていると思いますが、一応説明しますね」

 一年生が使う魔法の教科書『初めての魔法』の最初のページに書いてある説明文。

「家系魔法とは、その家に代々伝わってきたもの。個人魔法とは、生きていく中で見つけた自分に合った魔法のこと」

 先生は透き通った声で読み終え、次の項目へと進む。

「家系魔法と個人魔法は必ずしも同じ属性とは限りません。少し例を出しますね」

 先生は手のひらを指でなぞり、その手を教卓につけた。そして手をつけたまま指を鳴らす。すると、さっき答えた生徒の机から若葉が生えた。

「何これー!」

「先生どうやったのー?」

 生徒たちは目を輝かせていた。日菜も当然、その光景に釘付けだ。

「これは私の家系魔法『草』の能力です。どうやったかは後で説明するので、次にいきますね」

 先生は机から手を離し、手のひらをまたなぞると若葉は消えてなくなった。次に先生はポケットから指輪を取り出し、それを右の薬指にはめた。その後はさっきと同じように手のひらをなぞり、教卓に手をつけて指を鳴らす。そうすると次は、若葉が生えていたところから一輪の花が咲いた。

 教室からは歓声が上がる。

「これが私の個人魔法『花』の能力です。では、一から説明しますね」

 ミント先生の家系魔法『草』はララが使っていた個人魔法『草』と少しだけ威力が違う。家系魔法は能力そのものに威力があるが、個人魔法は単純に魔力の量が威力になる。

 魔法の出し方は妖精によって異なり、先生の場合、魔力を込めた指先で手のひらに記号化した条件『位置』『種類』『大きさ』『数』をなぞり、それを壁や地面などに手をつけ指を鳴らすと魔法が発動する。

「皆さん、参考になりましたか?」

「先生、その指輪をつけたら私も『花』の魔法が使えるのー?」

 一人の生徒が先生に質問する。

「残念ながら、これは普通の指輪なので、他の人には使えません」

 ではなぜ、指輪をつけただけで違う魔法が発動するのか。

「これは母に買ってもらったおもちゃの指輪です。小さい時から常に肌身離さずつけていたからなのか、私の魔法と共鳴して『花』の魔法に変わるのです」

 個人魔法を得る方法も人それぞれだ。先生のように、昔から使っていたものがキーアイテムとなる場合や、家系魔法の延長で同じ属性の者もいる。個人魔法の種類はいくつあるのかまだ解明されていないが、その者の思い出や経験によって自由自在に変化する。

「皆さんはどんな魔法を手に入れるのでしょうか。先生も楽しみにしていますね」

 先生が話し終えたタイミングで、授業終了のチャイムが鳴った。


 一方、トトとララは城を訪れていた。

「あの怪物のこと、何かわかったのか?」

 生け捕りにした怪物のおかげで、解析は進んでいた。

「はい、あれは様々な材料が混ざって出来た怪物だとのことです。名前はまだ不明ですが、これは魔女特有の魔法で作られていました」

 滅多に聞かない存在に、双子は混乱していた。

「魔女が行動に出るなんて珍しいな。あいつらは悪魔の森で好き勝手に暮らしてるって聞いてたんだが」

「僕たちは会ったことがないよね。歴史の本にもあんまり載ってないし」

 魔女の情報はほとんど無いに等しい。存在しているのは確かなのだが、その姿を見た者は数人しかいないという。現状、女王も双子も見たことがない。

「未知の存在だからこそ警戒しなければなりません。またいつ攻めてくるかもわからない状況ですし、厳戒態勢に入る必要がありそうですね」

 これは魔女が仕掛けたものなのか、あの怪物の意志なのか、事実を確認する方法は一つだけだった。

「あいつらを止めるには、魔女から情報を聞くしかないだろ」

 トトが正論を言う。それを聞いたララと女王は頭を悩ませる。

「でも、どうやって?」

「そうですね、魔女が姿を現すとは思えませんし」

 それはトトも理解していた。魔女に会うにはリスクが伴う。

「悪魔の森にもう一度入るんだよ」

 トトの驚きの発言にララがすぐに反論する。

「もう一度あんなところに行くの? 次は出てこれないかもしれないんだよ?」

「ララは来なくていい、俺一人で行く」

 トトにはちゃんとした考えがあった。だが、それが信用していいものかどうかはわからない。しかし、躊躇している時間もないのだ。

「ばかじゃないの? 兄ちゃん、なんか変なものでも食べた?」

「俺は本気だ。大丈夫、心配すんなって」

 怒ったララの頭を撫でるトト。ララは子供扱いされたように感じ、余計に怒りが増す。

「何が大丈夫なのさ! 前回あれだけ死にかけたのに!」

 今にも泣きそうなララを見て、女王が口を開いた。

「信じましょう、ララ」

 もちろん、母としては絶対に送り出したくない。しかし、息子の決意を無下にすることはできなかった。

 そんなことを言う女王に、ララは目を見開く。

「お母様まで何言ってんのさ!」

 ララはついに泣き出してしまった。二人の言っている意味がわからない。死ぬかもしれないのに、どうしてそこまで信じ切れるのか。

 トトは泣きじゃくるララに、わざと冷たい言葉をかける。

「お前はそこで一生泣いてろよ。泣き虫の言うことなんて俺は聞かねえから」

「兄ちゃんのばか!」

「ばかで結構、じゃあな」

 ララがトトに言い合いで負けた瞬間だった。トトが静かに部屋を出る。ララは女王に抱き寄せられ、胸の中で泣き続けるのだった。


 悪魔の森入り口。

「大丈夫だよな」

 トトは覚悟を決めて森に入った。周りの景色ががらりと変わり、不気味な鳥の鳴き声が響き渡る。

「とりあえず進むか」

 トトは『ある者』を探しに歩き出した。濃霧のせいで飛ぶことができず、魔法も使えない。沼地の毒素が少しずつトトの体を蝕んでいく。

 そして突然、後ろから『ある者』が声をかける。

「今度は何の用でここに?」

「来たか、待ってたぜ」

 トトが後ろを振り向くと、そこにはあの時のドッペルゲンガーが立っていた。

「待ってた? どういう風の吹き回しだい?」

「魔女のとこに案内してほしい」

 偽物はくすくすと笑い出す。

「嫌だって言ったら?」

「そりゃあ、力でどうにかするしかなくなるかもな」

 トトは軽く拳を握った。頼りたくて頼っているわけではない、これは仕方なくなのだ。

「おー、怖い怖い。争いごとは嫌いだから素直に従っておくよ」

「そりゃどうも」

 偽物の案内を頼りに、トトは森を歩き始めた。

 前回と同じように、後ろから方向を示す偽物は、影のようにぴったりとトトにくっついていた。

「お前、どうしていつも後ろなんだ?」

 トトが純粋な疑問を口にする。

「簡単な話さ、前を歩けない。そういう存在なんだよ」

「それは物理的な話か?」

「そう、物理的に」

 偽物は本物の前を歩けない、これは偽物が本物に成り代わるのを防ぐための制約だとされている。誰が作ったものかは偽物にもわからない。

「ふーん、不憫だな」

「そもそも、こうやって姿を現すことは稀だからね。あ、もうすぐだよ」

 偽物が指を差した方向にはツタのカーテンが張られていた。そのツタには棘が付いており、触れないようになっている。

「なんか物騒だな」

「ここをくぐれば魔女の住処に行ける」

 くぐろうにも棘のせいでどうしようもできない。

「どうやってくぐるんだよ」

「さあ? お願いでもしてみたら?」

 偽物はそう言って姿を消した。

「あ、おい! くそ、なんなんだよ」

 カーテンの前に一人立ち尽くすトト。偽物の『お願い』という言葉が頭をよぎる。

「一か八か、やってみる価値はあるよな」

 トトは大きく息を吸い、大声を張り上げた。

「おーい! ここを開けてくれー!」

「うるさい!」

 中から怒鳴り声が返ってきた。そしてカーテンが勢いよく開く。出てきたのは黒いとんがり帽子に黒いローブの若い女だった。

「何あんた、近所迷惑なんですけど! 調合魔法の最中なんだから邪魔しないでよね!」

 調合魔法とは、魔女だけが使える、様々な材料を混ぜ合わせて作る魔法のことである。

「ごめんけど、それどころじゃねえんだ。聞きたいことがあって来た」

「聞きたいこと? 妖精が魔女になんの用よ」

 若い魔女はあからさまにイライラしていた。パーマをかけた金色のロングヘアーに、ばっちりなメイク。人間界でいうところのギャルのような見た目だ。

「最近妖精が、魔女が作った怪物に襲われてるんだよ。誰がなんの目的でやってんのか知りたい」

「はあ? 私知らないけど。そういえばひいお婆様が最近部屋にこもって何かしてるから、それなんじゃない?」

 有力な情報だ。トトは若い魔女に頼み込む。

「そのひいお婆様を連れて来てくれないか?」

「そんなの無理よ。怖いもん」

 わがままな魔女に翻弄されつつも、別の方法を考える。

「じゃ、じゃあ、俺を案内してくれ」

「それも無理。魔女以外立ち入り禁止だもの」

 じゃあどうすればいいんだ、と沸々と怒りを感じているトト。この魔女に罪はないが、派手に倒して強行突破しようと考えていた、その時。

「そこを退きなさい」

「ひ、ひいお婆様!」

 若い魔女は怯えながら、すぐにその場から離れる。

「わしに話があるのだろう? 手短に話しなさい」

 ゆっくりとした話し方だが、威厳のある口調でトトを圧倒する。

「あのカメみたいな怪物はあんたが作り出したのか?」

「初対面に『あんた』とはねえ、まあいいだろう。怪物とは『ザラタン』のことかい? あれならわしが作った」

 トトも負けずに強気でいくが魔女には及ばない。怪物の名前と作った者が判明し、次の質問に移る。

「そいつらが今、森の外で暴れまわってんだ。心当たりは?」

「失敗作たちが逃げ出したんだろう。閉じ込めていたはずなんだが、いつの間にかいなくなっていてね」

「なんの目的で作ったんだ?」

「ちょいと昔の本を見つけてねえ、巨大亀『ザラタン』が気になって作ってみようと思っただけさ。あとは大きさの調整だけなんだが、なかなかうまくいかなくてね」

 トトは途中から呆れ顔で話を聞いていた。なんだよそれ、と思いながら、ふと疑問に思ったことを聞いた。

「それ作って何になるんだよ」

「わしのペットに相応しいじゃないか」

 聞いたのは間違いだったとトトは後悔した。

「用事は済んだ?」

 トトの後ろから声をかけたのはドッペルゲンガーだった。

「お前、どこ行ってたんだよ。急にいなくなりやがって」

「君が無事に森を出られるように準備してたのさ。この森が普通じゃないことは、君が一番わかってるだろ?」

 この森に入ってすでに二時間以上が経過していた。トトは軽く咳き込み、体が蝕まれていることを実感した。

「魔女も暇じゃないんでね、わしも帰らせてもらうよ」

 魔女が去っていくとともに素早くカーテンが閉まった。

「はあ、よくわからねえ連中だな」

「急いだほうがいいんじゃない? 君の体、限界みたいだから。来た道をまっすぐ戻れば帰れるよ」

 偽物は雑に帰り道を指差した。トトは咳をしながらその道を歩き出す。

「またねー」

「もう来ねえよ」

 にこやかに手を振る偽物をあしらい、足早に森の出口を目指す。

「これ、本当に出れんのかよ」

 視界が徐々にぼやけていく。遠くの方に小さな光が見え、必死に歩き続ける。

 意識はほとんどなく、倒れるように光に飛び込んだ。

「外、か……」

 もう体は一ミリも動かない。微かに誰かの声がトトの耳に届く。

「……ちゃん、だい……ぶ?」

 そのままトトの意識は途切れた。

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