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少女の妖精物語 ~魔女が生み出した魔物~  作者: 畝澄ヒナ


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第十六章『目覚め』

「ひどい有り様だな……」

 妖精界に薬の材料を取りに来た狐の妖精動物、キーはその惨状を見て言葉を失っていた。

「変なカメがうろうろしてる、あれがララたちが気をつけろって言ってた奴らか」

 隠密行動必須、バレた時点で攻撃を受けるのは確実だ。妖精界は広いといってもここまで破壊されたのは悪魔との戦争以来、そうあったものではない。

「森の中にあるって言ってたな。えっと、一つ目は……」

 キーはあらかじめ渡されたメモを見ながら、森のほうへ走り出す。この広い妖精界の広い森の中、メモに記されたイラストをもとに一生懸命探す。

「ん、あれは、妖精?」

 どこか村のような場所にたどり着いたキー。物陰に子供らしき妖精が隠れていた。

「こんなとこで何してるんだよ。妖精たちはフェアリーランドの城の地下に避難してるって聞いたぞ」

「わ、私はこの村から出たことなくて、村の人たちはみんなあの怪物に連れていかれちゃった」

 泣いている子供は、この村に何があったかを話してくれた。

「そうか、でもここも危ないぞ、俺がフェアリーランドまで案内してやるよ」

「いいの? お父さんとお母さんも助けてくれる?」

 本当は人助けをしている場合ではない。キーも長く妖精界に居ればどうなるか分からない。それでも、キーはこの子供を見捨てることができなかった。

「きっと、城の地下に行けば仲間がいる。その仲間がお前の両親を助け出してくれるさ」

「わかった。きつねさんについていくよ」

 キーの隠密能力が効く範囲は二人程度。キーの近くに居れば隠密能力が適用される仕組みだ。この村からフェアリーランドはそう遠くない。魔法が使えないため、徒歩で行くしかない。

「お前何か魔法使えないのか?」

「お花にお水をあげるくらいならできるよ」

 子供もささやかな魔法しか使えない。怪物にバレれば身を守る魔法すらない。

「分かった。絶対に声を出すなよ。俺に引っ付いてれば大丈夫だから」

「うん……」

 来た道を戻り、フェアリーランド入り口まで無事にたどり着くことができた。

「ここからは一人で行けるか?」

「私、分からない……」

 そういえば村から出たことがないと言っていたことを思い出したキー。仕方なく城までついていくことに。

「しょうがねえ、俺も一緒に探してやる。俺も初めてだから期待すんなよ」

「うん、ありがとう!」

 ランド内を右往左往した結果、城を発見。建物の中に入れば安全だろう、そう考えるキーは今度こそ子供を送り出す。

「ここからはお前一人で行くんだ。俺は別にやることがある、急がなきゃならねえ」

「わ、分かった。助けてくれてありがとう、きつねさん」

 子供と別れたキーは再び森の方角へと走り出した。まだ一つ目すら見つけられていない。もうすぐ日が落ちる、暗くなれば日が昇るまで探索は不可能だ。

「はあ、さすがに広いな。ララたち、大丈夫かな。俺が戻らなきゃ、ララのお兄さんが大変なことになっちまう。明日には一個は見つけないと」

 夜風が全身をさらう。今日はここまでのようだ。


 一方、人間界で待つララたちは、日菜の部屋でトトを見守っていた。

「日菜ちゃん、お友達と遊ぶ予定とかあったら全然行ってもいいんだよ」

「ううん、トトがこんなことになってるのに遊びになんていけないよ」

「コノハも今日は調子が悪くてこっちに来れないみたいだし、兄ちゃんのそばには僕がいるから、遠慮しなくてもいいんだよ」

 人間界は今夏休みシーズン。ただ、日菜はそれどころではない。階段下から母が日菜を呼んでいる。

「お友達が遊びに来たわよー」

 一緒にプールへ行こうという誘いがきた。日菜はララとトトを交互に見つめ、どうしようか迷っている。

「行っておいでよ。言ったでしょ、遠慮はいらないって」

「う、うん。ごめん」

「いいよ。楽しんでおいで」

 日菜は友達とプールへ、ララは日菜を送り出し、眠り続けるトトと二人っきりになった。

「兄ちゃん、日菜ちゃんのことは心配しなくても楽しくやってるよ。お友達とプールだってさ、僕たちもいつかまた水浴びしようね」

 トトの額にキスをして、ララは添い寝する。

「僕たちはずっと一緒だよ。たとえ最悪な展開になったとしても、僕は兄ちゃんに会いに行くよ」

 少しずつ眠たくなってきたララ。いつの間にかすやすやと眠りについてしまった。そんな双子を窓から見つめる影が、にやりと笑って何かを企んでいる。

「妖精の反応を辿ってみたら、人間の家に住みついてるとは。ということはビンゴかな?」

 妖精界に出向いた悪魔からの連絡で、魔界から人間界へと幹部が一人派遣された。キラーとは別の、魔界を束ねる最重要人物。舌が長く、尻尾をくるくる巻き上げ、緑色の肌をさする。

「僕たちが探している女の子、いないみたいだねえ。今妖精と接触するのは得策じゃないかも」

 悪魔は何もせずその場を去った。騒ぎを大きくすることはしたくない。狙うは目的の少女ただ一人であり、それ以外に用はない。強行突破は今ではないと判断したまでだ。


 妖精界の太陽は昇り、キーは探索を再開した。

「まずは一個、やっと見つけた」

 鈴鳴の森に多く生えている植物、魔力回復の魔草。何個か採取して次の材料を探しに向かう。

「くそ、カメばかりだ。森の中を進むのも楽じゃないな」

 キーはさらに森の奥深くに足を踏み入れる。既に二日目に突入している、体力は減る一方だ。

「オマエ、ナニヲシテイル」

「な、なんだよ……!」

 キーに気づいた怪物が話しかけてきた。この時、カメには仲間に見えるよう欺く力を発揮している。

「シゴトハドウシタ」

「ちょっと休憩だよ、文句あんのかよ」

 怪物はキーをしばらく見つめ、怪しそうに全体を見回す。

「オマエ、ナンカヘンダ。ナニヲカクシテイル」

「何も隠してなんかねえよ。疑ってんのか?」

 そろそろごまかすのも大変になってきた。欺くコツは堂々とすること。だがそれも、限界が近づいている。

「ボスニホウコクスルゾ」

「そんなの必要ねえ、俺はボスに特別な任務を任されてるんだ。お前には言えないが、それはもうすごい任務なんだぞ」

 盛大に嘘をつくキー、カメはそこまで知能は高くないが、そこまでバカでもない。ここでうまく騙せなければ、材料探しは難しくなる。

「イエナイシゴト? ソレハホントウナノカ」

「本当だとも、俺を疑うってことは、ボスを裏切る行為だと思うんだけどなあ」

 目を見開き黙る怪物、少し考えこみ、言葉を発する。

「ワカッタ。ジャマシテスマナイ」

「あ、ああ」

 怪物は森の奥へと消えていった。危機は脱したようだ。

「危ねえ、よし、あと二つ、絶対見つけてやる」

 一難去ってまた一難、相変わらずカメはうようよしている。さっきのように何回もごまかしている時間はない。そんな中、怪物たちの話がキーの耳に入った。

「ニンゲンカイハマダカ」

「モウスグシンリャクデキル」

「ボスノメイレイダ」

「ニンゲンカイ二イケル」

 茂みの陰で聞いていたキーは焦り始める。

「人間界だって? ララたちが危ない。早く戻って知らせないと」

 もうすぐ怪物たちが人間界にもやってきてしまう。それを知ったキーは、より一層探索に力を入れる。

「あった。これが生命の泉。ここの水を汲めばいいんだな」

 生命の泉は妖精の新たな命を生み出す神聖な場所。妖精は人間のような妊娠、出産という工程は踏まず、天からの贈り物としてこの泉を通して新しい妖精が生まれるのだ。

「ララのお兄さんを助けるために、少しだけもらいます」

 小瓶に水を汲み、命の雫を手に入れたキーは、最後の材料を探しにさらに森の奥へと進みだした。


「ただいまー」

 プールから帰ってきた日菜は、トトの隣で寝ているララを見つけた。

「本当に私だけ遊びに行ってよかったのかな。ララも疲れてるよね」

 ふと窓の外から視線を感じ、瞬時に向くが誰もいない。

「気のせい、かな。私も疲れてるのかも」

「気のせいじゃないよお嬢さん」

 後ろから声がした。怖くて振り向くことができない。

「だ、誰なの……?」

「僕は悪魔さ、君の味方の悪魔。あれ、心当たりない?」

 緑の肌の悪魔は日菜の肩に腕をまわし、ねちっこく話す。

「知らない、私悪魔なんて知らないよ」

「そんなはずないよ、黒い服のおじさん、君の所にやってきただろう?」

 それについては心当たりがあった。ミル・アカデミーに襲来してきた奴のことだ。

「あの人、あなたの仲間なの?」

「まあ、そんなとこかな。僕たちは君がほしい。妖精たちと仲良くしてないでさ、魔界においでよ」

 魔界の長、魔王の狙いは日菜を悪魔側に引き込むこと。そのために幹部たちを使い、人間から妖精になった日菜を悪魔にしようとしている。

「私、悪魔とは仲良くできない。人間に戻らないと、そのために妖精界で勉強してるの」

「悪魔は人間より楽しいよ。勉強なんてしなくていいし、遊んで暮らせるんだ」

 そそのかす悪魔。動くことのできない日菜。交渉は成立しそうにない。

「嫌だよ、私色んな事知りたい、悪魔になんてなりたくないよ」

「そっかあ、それは残念。それなら力づくで……」

「何してるのさ、悪魔野郎」

 ララが目を覚ました。今起きている異常事態に、睨みを利かせている。

「あーあ、めんどくさい奴が起きちゃったよ」

「日菜ちゃんを離せ、人間界だからって僕が何もできないと思うなよ」

 ララは魔法の準備をしている。悪魔は日菜から手を離し、両手をすっと挙げた。

「おー、怖い怖い。今回は失礼させてもらうよ」

「次はない、二度と来るな!」

 悪魔は姿を消した。いざとなれば戦う意思を見せるララ。男前な姿をみた日菜は、少しだけララを見直した。

「ララ、ありがとう」

「ううん、それより日菜ちゃんはどこも怪我してない?」

「大丈夫だよ。どうして悪魔が人間界に来てるんだろう」

 ララたちも知らない、日菜の秘められた力。それに気づいた悪魔たちは躍起になっている。妖精界が怪物に支配されようが、人間界が危険にさらされようが、魔界には関係ない。

「分からない。でも、僕たちが必ず守るから、大丈夫だよ」

「うん……」

 不安要素が増えてしまった日菜たち。キーの帰りを待ちつつ、悪魔への対策も考えることに。


 妖精界で薬の材料を探すキーは、最後の材料集めに苦戦していた。

「見つからない。どこもかしこも焼け野原だ」

 最後の材料は白色の花、一般的に治癒強化に役立つ、目立たない花だ。どの森にも一定数咲いているものなのだが、怪物たちの侵略によってほとんどが焼けてしまっている。

「あいつら本当に余計な事しやがる。あとはこれだけなのに」

 どんどん森の奥へと進んでいく、その先の崖に白く光る花が咲いていた。

「あれだ、やっと、見つけた」

 落ちそうになりながら手を伸ばす。あと一歩が届かない。

「よし掴んだ!」

 無事落ちることなく回収成功。大事にケースに入れて懐にしまう。

「急いで戻ろう。ララたちが待ってる」

 フェアリーランド前の人間界入り口まで戻ってきたキーは、勢いよく飛び込んだ。日菜の家近くの森に出ると、ララたちが待っていた。

「キー! おかえり! 兄ちゃんの薬の材料は無事に手に入った?」

「もちろんさ。さあ、早く薬を作ろう」

 日菜の家に帰り、ララがレシピを見ながら薬を作り始める。

「作り方わかるの?」

「コノハにメモをもらったんだ。キーが持っているメモもコノハが書いてくれたものだよ」

 瓶に材料を入れて魔法をかける。材料が混ざり合い、一つの液体ができた。

「兄ちゃん、薬だよ」

 ララができた薬をトトに飲ませる。トトはゆっくりと目を覚ました。

「ん、ここは、どこだ?」

「兄ちゃん!」

 思わずトトに抱きつくララ。何が何だかわからないトトは鬱陶しそうに顔をしかめる。

「なんだよ、暑いだろ……。俺は、出られたんだな」

「もう一か月半も眠ってたんだよ。兄ちゃんは病気にかかって命が危なかったんだ」

「トト、本当に心配したよ……」

 ララも日菜も泣きながらトトに抱きついている。地獄の暗闇から脱出できたトトは、曖昧な記憶をゆっくり辿る。

「そうか、俺は、何をしてたんだろうな……」

 長い間彷徨っていた記憶が思い出せない。暗闇にいた記憶しかトトには残っていなかった。ドッペルゲンガーのような存在も、精神崩壊も、全てがなかったように心の中はすっきりしていた。

「兄ちゃん、何か食べたいものある?」

「ああ、腹減ったなあ。お前が、ララが作ったものなら何でも……」

 しばらくは病み上がりのトト、そんなトトに優しくしないわけもないララと日菜。三人の様子を後ろから微笑ましく見ていたキーは、これから伝えなければならない情報を頭の中で整理するのだった。

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