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少女の妖精物語 ~魔女が生み出した魔物~  作者: 畝澄ヒナ


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第十二章『救出』

約一時間前、休憩を終えた三人は日菜の救出のため、道を急いでいた。

「あれじゃねえか?」

 トトが指差した先には、鉄でできた怪しげな建物が建っていた。

「これ、どうやって入るのさ」

「みるからに硬そうだね……」

 ララとコノハは建物を見上げ、頭を悩ませる。

「とりあえず入り口探すか。俺は右から行く、ララたちは左から行け」

「「了解」」

 建物の周りをぐるぐる回り、目を凝らして入り口を探すが、扉すら見つからない。

「くそっ、怪物のくせに頭のいい造りにしやがって、もう面倒くせえ!」

「ちょっと! 何しようとしてんのさ!」

「入り口がねえなら、作るまでだ!」

 トトは頭上に手をかざした。

「まさか、ここであの技使うの?」

 コノハは察した。これは逃げなければ巻き込まれる。

 トトの手に炎が集まり始め、それが徐々に大きくなっていく。

「コノハ! 僕たちは一旦木の陰に隠れよう!」

 ララとコノハは、慌てて近くの木の陰に移動した。

 炎が渦巻きながらさらに大きくなる。体の何倍もの大きさになった炎の玉を、トトは鉄の建物に向けて思い切り投げつけた。

火炎爆弾(かえんばくだん)!」

 建物に触れた瞬間、炎は大規模な爆発を起こした。

 爆発音が森にこだまし、小鳥たちが一斉に飛び立つ。

「あーあ、やっちゃったよ」

 ララが別の意味で頭を抱えた。

「おい! 開いたぜ!」

「扉じゃなくて、穴が、ね」

 トトの報告に、コノハは小声で呆れながらツッコんだ。

「ちょっと兄ちゃん、さすがにやりすぎ!」

「さすが、変わらないねー」

「いいじゃねえか、開いたんだから。それに、救出は派手にやったほうがかっこいいだろ?」

 ララはいつも通り注意し、コノハはもう諦めている。それに対して、トトは全く聞く耳を持っていなかったのだった。


 そして今、離れていた者たちはやっと再会した。

「トト! ララ! コノハさん!」

 日菜は泣きながら三人の元へ行こうとするが、檻が邪魔して進めない。

「鍵開けるから待ってろ」

 トトは近くにかけてあった鍵を錠前にさしこんだ。

 檻の扉が開いた瞬間、日菜はトトに抱きついた。

「怖かったよお! 寂しかったよお!」

「もう大丈夫だ。よく頑張ったな」

 日菜の経験の中で、これ以上恐怖を感じたことはなかった。トトは日菜の震える体を、優しく抱きしめていた。

「三人とも、助けに来てくれると信じていましたよ」

「女王様もここに連れてこられていたんですね」

 コノハと女王は話すのさえ久しぶりだった。

「ええ、力及ばず。申し訳ないです」

「今まで妖精界を守ってきたんですから、謝らないでください」

「ありがとう、ございます」

 女王は成長したコノハと久しぶりに話せて、泣きそうになっていた。

 しかし、こんな悠長に話をしている場合ではない。

「やってくれたねえ、お前たち」

 五人の背後には、怒り狂ったザーラが待ち構えていた。

「うわ! 誰!」

「でけえな、他の倍以上じゃねえか」

 双子及びコノハは初めての対面だった。

「よくも私の城をぶっ壊してくれたねえ! 生きて帰れると思っているのかい?」

 ザーラの息遣いが荒くなる。そして、体がどんどん大きくなっていく。

「まだでかくなんのかよ」

「こ、これ、やばくない……?」

 トトはやる気満々なのだが、ララはもう逃げ腰だ。

 ここでコノハがある異変に気づく。

「あれ、女王様、杖はどうしたんですか?」

「捕まった時に奪われてしまったのです。この近くにないということは、どこかに隠されているのでしょうか」

 女王は杖がなければ魔法が使えない。女王の杖は『魔道具』と呼ばれるもので、あらかじめ魔力がこもっているものだ。

「ここは俺とララで食い止める、女王様は杖を探しに行ってください」

「え、僕も?」

「お前、またビビってんのか?」

「別に? 兄ちゃん一人でできないのかなって思っただけだよ」

 こんなところでも若干けんか気味になる双子。

「あーもう、私も残るから、けんかしないの」

 結果、ザーラを食い止めるのは双子とコノハ、杖を探すのは女王と日菜になった。

「三人とも、くれぐれも無理はしないでください!」

「そちらこそ、杖を見つけたら出口を目指してくださいね、お母様」

 トトは女王を戦わせたくなかった。今まで何もかも背負ってきた女王に、これ以上負担をかけたくなかったのだ。

「何をごちゃごちゃ話してる、無駄口叩けないように頭から喰ってやる!」

 ついにザーラが襲いかかってきた。

「早く行って! 僕たちも後から絶対行くから」

「ああ、必ず。あと、これ持ってけ」

 トトは日菜に袋を渡した。

「これ何?」

「敵がいたらその中の瓶を投げるんだ。きっと役に立つ」

 双子とコノハはザーラと向き合った。

「無事を祈ります。行きましょう、日菜さん」

「はい!」

 こうして五人は、また別れることになったのだった。


「狭いから派手な攻撃はだめだよ、兄ちゃん」

「それじゃ、どうすりゃいいんだよ」

「二人とも攻撃きてるよ!」

 ザーラの攻撃を、間一髪で魔法を発動させ受け止めたコノハ。木の根を格子状に組み上げて壁を作ったのだ。ただその壁も、長くは持たない。

「僕に考えがある」

「ララが提案なんて珍しいじゃねえか。で、どんな考えだ?」

「特訓の応用だよ。『泡撃ち』覚えてるでしょ?」

 幼い頃の特訓が、役立つ時が来た。

「もちろんだ。どう応用するんだ?」

「僕が作り出す泡に、兄ちゃんの炎を閉じ込める。そうすれば、泡が割れたときに爆発する仕掛けが出来上がる。それを大量に作るんだよ」

「なるほどな、分かった」

 ララの考えにしては勝ち目があると判断したトト。そしてコノハに尋ねる。

「コノハ! 壁はあとどれくらいもつ?」

「もう一度強化すれば……一分ぐらい!」

「十分だ。少し任せてもいいか?」

 コノハは頷いて壁を再構築し始める。網目に合わせて木の根をさらに絡ませていく。

「ララ、ありったけ作るぞ」

「了解」

 トトが火炎玉を作る、それをララが泡で包む。与えられた一分でできたのは、およそ五十個。

「もう限界……!」

 木の根の壁が崩れ、ザーラの牙がぎらりと光る。

「終わりだよ、小僧たち!」

 ザーラは大きく息を吸い始めた。大量の爆発泡が目の前にあるとも知らずに。

「それはこっちのセリフだ! 俺たちの攻撃をくらえ!」

 大量の爆発泡はザーラに引き寄せられ、触れた瞬間、花火のようにはじけ始めた。

「な、なんだこれは! 煩わしい!」

 爆発は伝染していく。その間にトト、ララ、コノハの三人は勢いよく走りだし、その場から逃げ出すことに成功した。


一方、女王と日菜は杖を探し、アジト内を駆け回っていた。

「魔道具の反応が、あちらから強く感じます」

 女王の先導に日菜も一生懸命ついていく。すると目の前に敵が現れた。

「女王様、離れてください!」

 日菜は先ほどトトから渡された瓶を思いきり敵に投げつけた。瓶は一気に発火し、敵を燃やし尽くしていく。

「トトが作った火炎瓶ですね。助かりました」

「すごい、こんなのも作れるなんて」

 敵がいなくなり、道は開けた。魔道具の反応が強いほうへ、どんどん進んでいく。

「あ! あの杖!」

 日菜が指さした方向には、女王の杖が立てかけてあった。

「ここはどうやら宝物庫のようですね」

 杖以外にも様々な武器や防具が転がっている。宝箱に入った宝石類がとても輝いていた。

「日菜さん、念のためこれを持ち帰りましょう」

 女王が手に取ったのは小さな黄色の宝石が付いたネックレスだった。

「これは、なんですか?」

「これは身に着けている者の身を守る、宝石型の防具です。魔力を持っている者であれば身に着けるだけで誰でも使えます。危険を感じるとシールドが発動します」

 怪物たちがフェアリーランドの店から持ち帰った物だろう。まだ使える魔法がない日菜にとって、最適の魔道具といえる。

「色んな魔道具があるんですね。じゃあ、持っておこうかな」

「よくお似合いですよ。では、早くこの場所を離れましょう。杖が戻ってきたので、ある程度の敵であれば倒せますよ」

 女王と日菜は、トトが開けた出入口へと戻り始めた。


 見事ザーラから逃げ出すことに成功したトト、ララ、コノハだったが、危機が去ったわけではなかった。

「絶対に逃がさないよ!」

 かなりの攻撃を食らったはずのザーラは、やみくもに三人を追いかけまわしていた。

「どうしよう、このまま逃げ続けてもいずれは……」

 コノハはもう一度魔法の準備をする。それをトトが制止した。

「これ以上魔力を消費したら、体力までなくなっちまうぞ」

「でも……」

「兄ちゃん、コノハ、あれ見て!」

 ララの指さした先に、女王と日菜が立っていた。その場所はアジトの外、女王が転移魔法を準備して待っていた。

「三人とも急いで!」

 日菜が必死に呼びかける。五人一気に転移させるのはかなり魔力を消費してしまう。つまり、チャンスは一度きりだ。

「俺が食い止める、だから二人は先に行け」

 トトは走るのをやめ、ザーラのほうへ向く。

「何言ってるんだよ兄ちゃん!」

「そうだよ、トトがやるなら私も……」

「いいから! 早く行け」

 トトには何か考えがあるようだ。それを信じた二人は、女王が展開した魔法陣に急いで入る。

「最後に思いきり苦しませてやるよ」

 手をかざし、少しずつ炎を纏った縄をザーラの首を囲むように作り出すトト。

火縄締(ひなわじ)め」

 トトが手を握り締めた瞬間、作り出された縄が一気に締まり、ザーラの首を絞める。

「く、苦しい、熱い……!」

 苦しむザーラをよそに、トトはふらふらになりながら魔法陣へと向かう。

「トト!」

 日菜がトトの手を掴み、その瞬間、転移魔法が発動した。


 転移したのは見覚えのある、フェアリーランドの噴水前だった。

「もう、兄ちゃんは無理ばっかりするんだから!」

「助かったんだからいいじゃねえか。それより、日菜ちゃん」

「あ、えーっと……」

 トトは明らかに怒っている。日菜も覚悟はしていた。

「一人で突っ走るからこうなるんだぞ! 俺たちがどれだけ心配したか分かってんのか? たまたま女王様もいて、俺たちも助けに行けたからよかったけど、もっと危ない目に遭ってたかもしれないんだぞ!」

「ごめんなさい……」

 一通り叱ったトトは、その場に座り込む。もう魔力も体力も全然残っていない。

「兄ちゃん、大丈夫?」

「ああ、ちょっと魔法を使いすぎちまった。少し休憩すれば元に戻る」

 改めて辺りを見回した女王、城の地下に避難した人たちは無事だろうか。

「私は避難した人たちの様子を見てきます。トトとララには少しお話があるので、ついてきてもらっても大丈夫ですか?」

「僕は大丈夫だよ。兄ちゃんは無理しないほうが……」

「いや、俺も女王様に話がある。だからどっちみちついていくさ」

 トト、ララ、女王は城の地下へ、日菜とコノハは噴水前で待つことになった。


「日菜はどこも怪我していない?」

 コノハが心配そうに日菜に尋ねる。

「うん、私は大丈夫。コノハ姉ちゃんは?」

「大丈夫だよ。魔力はいっぱい使っちゃったから残ってないけど」

 日菜は俯き、あからさまにしょんぼりしている。

「私のせいでみんなに迷惑かけちゃった……」

「そんなこと気にしなくていいんだよ。できないことを、できる人が補えばいい」

 コノハは日菜の頭を優しく撫でる。女王も救出できたのだから、結果オーライである。

「トト、まだ怒ってるかな」

「そんな根に持つタイプじゃないから安心して。戻ってきたときにはけろっとしてるよ」

「うーん、わかった……」

 日菜とコノハはのんびり、噴水の縁に座って三人を待っていた。


 城の地下に向かったトト、ララ、女王は、避難した人たちの安否を確認していた。

「特に怪我人はいないようですね。安心しました」

「さすがお母様だね」

「ああ、いつだって国のために、よくやるよ」

 トトは少し嫌みのように、女王を褒める。

「それで、トトは私に話があるんでしたね」

「悪魔の森に入った報告をまだしてなかったから、それについてだ」

 魔女に聞いたカメの正体、ザラタンという巨大亀が逃げ出して勝手に暴れだしたのが原因だと、トトは事細かく、女王に説明した。

「なるほど、魔女が仕組んだわけではなかったのですね。そうなるとボスであるザーラを倒すことが最優先になります」

「まあ、さすがにあの攻撃で倒れるほど雑魚ではないだろうからな」

「僕、もう会いたくない……」

 ララはやはり逃げ腰だ。トトはそんな感じのララを、いつも無理やり戦闘に出向かせている。

「とりあえず様子を見ましょう。私は皆と一緒に地下でしばらく過ごそうと思います。あなたたちは日菜さんとコノハを連れて人間界へ避難してください。人間界もいつどうなるか分かりませんが、こちらよりはマシでしょう」

 女王の指示で双子は地下を出て日菜たちと合流、人間界へと戻るのであった。

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