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4 エリク視点

 

「家を出た、だと…?」


 ハーストン男爵家にやってきた俺に告げられたのは想像もしていない言葉だった。昨日あいつ、レイラに話があると伝えたのに次の日に来てみれば昨日のうちに家を出たと言われた。もしも本当に俺が来たときには伝えといてくれとの伝言を残して。


 俺は今日レイラに想いを伝えるためにやってきたのだ。




 ◇◇◇




 レイラとの出会いは俺が七歳の時。よくある話だがたまたま領地が隣だったこともあり、ブロイズ伯爵家とハーストン男爵家は昔から交流を持っていた。そして俺が七歳、レイラが六歳の時に初めて顔を合わせることになったのだ。それまではお互いの親が幼いからと子供同士の交流をさせていなかった。けれど俺は次期伯爵、レイラは次期男爵となることが決まり、年齢的にもそろそろ顔合わせしてもいいだろうということになり初めて顔を合わせることになったのだ。


 そして顔合わせ当日。この日が俺にとっての運命の日となる。そう、俺はレイラに一目惚れしてしまったのだ。



「はじめまして。レイラ・ハーストンです。よろしくおねがいします」



 そう言って一生懸命にカーテシーをするレイラから俺は目を離すことができなかった。

 榛色の髪に緑色の瞳の可愛い女の子。俺はどうしてもレイラと結婚したいと顔合わせのあと両親に訴えたが、レイラは家を継ぐから無理だと言われてしまった。それなら俺がハーストン男爵家に婿入りすると言っても、ブロイズ伯爵家には俺以外に子どもがいないからダメだと取り合ってもらえなかった。それから何度頼んでも両親から返ってくる答えは同じ。その間にも何度かレイラと会ったが、会うたびに彼女のことを好きになってしまった。



「わたしはもっとエリクさまとなかよくなりたいな」



 レイラからの純粋な好意は嬉しかったが、俺はそれを素直に伝えることができなかった。



「ふ、ふん!しかたないからなかよくしてやるよ」



 今思えば幼さ故の照れ隠しだったと思う。しかしその後も素直に気持ちを言葉にしようとしてもなぜかうまくいかなかった。

「かわいい」と言いたいのに「ブサイク」と言ってしまったり、何でも器用にこなす彼女を「すごい」と褒めたいのに「女のくせに調子に乗るな」と貶してしまったりした。

 そうしていくうちに次第にレイラは俺に会いにこなくなってしまった。だから今度は俺から会いに行っていたが、それでも俺の口から出るのは思ってもいない言葉ばかり。自分でも嫌になったが、レイラを目の前にすると緊張からかどうしても余計な言葉ばかりが口から出てしまっていた。

 このままではまずいと思っていると、両親からとんでもない話を耳にした。レイラが結婚相手を探していると。その話を聞いて俺はレイラの婚活がうまくいかないように手を回した。

 レイラは下位貴族の子息や裕福な商家の子息を結婚相手にと考えていたようなので、伯爵家の俺が手を回せば誰もレイラに言い寄る男はいなかった。しかし両親にレイラを婚約者にすることは反対されている。このまま手を回し続けたとしても俺とレイラが結ばれることはない。だから俺は考え、そして思いついたのだ。レイラの弟が家を継げばレイラを自分の婚約者にすることができるのではないかと。レイラの弟に婚約者をあてがい、レイラに婚約者ができないように今まで通り手を回せば、レイラは弟に後継ぎの座を譲るはずだ。そうなったら今までのことを誠心誠意謝り、レイラに想いを告げようと心に決めたのだった。




 ◇◇◇




 それからはレイラの弟に情報をもらい手を回し続けた。きっと俺が手を回さなければレイラはあっという間に他の男のものになっていただろう。それだけレイラには魅力があるのだ。


 そしてとうとう俺の望んだ状況になった。すぐにレイラに会いに行ったが、やはりレイラを目の前にするとうまく言葉が出てこない。だけどここで諦めるわけにもいかない。だから一旦仕切り直して明日想いを伝えようと思ったのだが、翌日ハーストン男爵家に行ってみればレイラは昨日のうちに家を出ていったというのだ。



「家を出た、だと…?」


「え、ええ」


「そんな…」


「レイラからはもしかしたらエリク様がいらっしゃるかもしれないと聞いていましたが、なにかお急ぎのご用でも…?」


「っ、いや、そういうわけでは…」


「そうですか?」


「…あいつ、いや、レイラはどこに行ったんですか?」


「それが、王都に行くとしか…」


「王都…」


「あの子のことなのでちゃんと考えはあるのでしょうが、王都で何をするかまでは私たちもわからないんです」


「…」



 王都はここから馬車で一週間ほどの距離だ。今から馬で追えば追いつけるかもしれない。



「あの…」


「わかりました。ありがとうございます」



 俺は男爵夫妻にお礼を言って屋敷をあとにした。追いかけるにしても一度家に戻らなければならない。いつもなら馬に乗ってくるのだが、今日は馬車に乗ってきたのだ。今まで渡すことのできなかった十二年分の誕生日の贈り物を持ってくるために。まさかこんなことになるとは思っていなかったが、行き先は王都だと分かっているので一度家に戻ってからでも十分に追いつけるはずだ。



「レイラ…」



 今回こそは絶対に想いを伝えると決めたのだ。これくらいのことで諦められるならとっくの昔に諦めている。しかしどうしても諦めることができなかった。それほどレイラのことが好きなのだ。



「急いで屋敷に戻ってくれ」


「かしこまりました」


「…レイラ、待っていろよ」



 そうして俺は急いで屋敷に戻り、準備を整え王都に向けて出発した。


 おそらくレイラは乗り継ぎ馬車に乗ったのだろう。それなら王都にたどり着く前にはレイラに会えると思っていた。しかし結局俺はレイラに会うことはできなかったのだった。


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