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「そういえばレイの両親は来ているのか?」
煌びやかなホールにたくさんの人がいるが、おそらくこの中に私の両親もいるだろう。さすがに突然娘がキルシュタイン公爵様の婚約者として現れたら驚くだろうとのことで、簡単に事情を記した手紙を事前に送ってある。もちろん口外はしないようにも書いておいた。
「手紙の返事には参加すると書いてあったので来ていると思います」
「そうか。あとで挨拶をしに行かなければな」
「えっ!うちは男爵家ですしわざわざヴィンセント様から挨拶しなくても大丈夫ですよ?」
「なんだ?挨拶をしたらまずいのか?」
「いえ…。ただ両親が驚くのが想像できたもので…」
「ああ、そういうことか。だが婚約者のご両親に挨拶をしないのは失礼だからな」
「でも私は本物じゃ…」
「ヴィンセント様っ!」
私は本物の婚約者ではないと言おうとしたところで、誰かがヴィンセント様の名前を呼んだ。声のする方に顔を向けるとそこには美しい女性がいた。輝く金の髪に宝石を思わせるような緑の瞳を持つ女性。事前に聞いていた情報から、この女性が隣国の王女様だということがわかった。
(噂には聞いていたけどすごい美人。…金の髪に緑の瞳、か。私の色と似てるけど、私とは全然違う…)
一国の王女と貧乏男爵家の娘など比べるまでもないのだが、分不相応にも比べてしまう自分がいた。
「…お久しぶりでございます」
「うふふ、いつ見ても素敵ね。ヴィンセント様に会えて嬉しいわ」
「…ありがとうございます」
「ねぇ、ヴィンセント様。このドレスどうかしら?」
「…とてもお似合いです」
「でしょう?ヴィンセント様の瞳と同じ色なの。私ほどこの色が似合う女性はいないと思わない?」
王女はそう言ってその場でくるりと回って見せた。水色のドレスがふわりと揺れる。そして一瞬私の方を見て笑った。その目は『私の方がヴィンセント様に相応しい』と言っているようだった。
「ねぇ、ヴィンセント様。私少し疲れちゃったの。どこか休憩できるところに連れていってくれないかしら?」
「!」
これは婚約者のいる男性に二人きりになりたいと言っているのと同じだ。そして私を貶している。まさかこのような場でここまで直接的に行動するとは思っていなかったので、どう対応するべきか判断できずにいた。
(このまま引き下がるわけにはいかないけど相手は王族…。どうしよう…)
こちらから仲睦まじい姿を見せるはずだったのだが、王女に先手を打たれてしまい予定が狂ってしまった。
「お願い。それにヴィンセント様に大切なお話があるの。ね、いいでしょう?」
私のことをいないもののように扱いながらも、視線からは優越感をひしひしと感じる。王女は相当性格が悪そうだ。
「さぁ、行きましょう?」
そう言って王女様がヴィンセント様の手に触れようとした。
(ダメっ!)
嫌だと思ったその時、突然肩を抱き寄せられた。




