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キルシュタイン公爵邸の応接室にて。
今この場にいるのは四人。私、キースさん、マチルダさん、そしてキルシュタイン公爵であるヴィンセント様だ。
「――ということでして例の求人で雇ったのが彼女なのです」
「改めましてレイラ・ハーストンと申します。公爵様の婚約者役を務めさせていただいております」
「君が…」
「私の判断でお伝えするのが遅くなり申し訳ございませんでした」
「…いや、私もそのことはまったく頭になかったからな。キースの判断は私を思ってのことだろう?それに自分のことなのに確認せずにいた私も悪い」
「恐れ入れます」
私はヴィンセント様からお出掛けの誘いを受けてすぐにキースさんに相談した。すると数日後にこうして場を設けてくれたのだ。
私は勝手にヴィンセント様と交流してしまったことをキースさんに謝罪したら、キースさんはすでに知っていたようで特に怒られることはなかった。むしろ笑顔で感謝された。謎である。
「君はなぜメイドとして働いているんだ?」
「そ、それは…暇だったので」
「暇…」
「ヴィンセント様。彼女はとても優秀で時間が余ってしまったのです。そうしたら彼女から空いてる時間はメイドとして働きたいとの申し出があったのです」
「一年間の契約が終わってもここで働けたらなと思って…。申し訳ございません!決して騙すつもりはなかったんです!」
「ハーストン嬢、頭を上げてくれ。私は騙されたなど思ってはいない」
「でも」
「…むしろ嬉しいくらいだ」
「え?」
「あ、いや…」
「レイラさん。ヴィンセント様もこう仰ってますので」
「キース!」
「そうですよ。ようやくお坊っちゃまが心を許せる女性に出会えたと思うと私は嬉しくて涙が出そうです」
「マチルダまで…!それにその呼び方はいい加減やめてくれ」
「私にとってお坊っちゃまはいくつになられてもお坊っちゃまなのです」
「っ、くそ…」
「うふふふ」
「まぁそういうことですので、レイラさんは気にしなくて大丈夫ですよ」
「は、はぁ。わかりました」
なんだか拍子抜けである。それになぜかキースさんとマチルダさんは嬉しそうな表情だ。まぁ怒られないのならそれに越したことはない。解雇もされなさそうでよかった。
(ヴィンセント様も嬉しいって言っていたけど、本当に嫌じゃないのかしら?)
そういう私もヴィンセント様の言葉を聞いて嬉しいと思ってしまった。一年という短い期間ではあるが、少しでもヴィンセント様の役に立てればと思う。そしていずれ正式に迎える婚約者を大切にしてもらえたら、と考えたところでチクッと胸が痛んだ。
(…今の胸の痛みはなに?)




