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20 手紙

 優陽は自分が立っていた事にただただ驚きを隠せなかった。その後、呆然と車椅子に乗っていた。


「さて、1分たちます。次は右足のリハビリです。両足で立ち、左足を浮かせてみてください」


 姫吉は有無を言わさない態度で命令してくる。


「は、はい」


 優陽はしょっぴかれる思いで素直に従う。

 手すりを掴まりながら片足で立つ。丸くなった猫のように猫背でいる。


「はい、次は逆に右足を浮かせて左足で立ちましょう」


 姫吉はしばらく見ていると、また強い口調で言ってきた。


「はい」


 優陽は左足で立つことを試す。両手に力が分散していくのを感じた。

 なんとか立てる。


「じゃあ、もう1回。右足立ちです」

「もう1回?」

「はい」


 優陽はもう足がガクガクして立ちたくない。しかし、そのことを伝えたら、呆れられそうだ。そもそも、なんだか怖くて唇をつぐんでないと泣き出してしまいそうだ。


「あ、いたいた。石井さん、面会です」


 恰幅のいい女性の看護師は優陽を大声で呼び立てる。横には葉子の姿があった。


「葉子さん」

「もし何だったら、リハビリが終わるまで待っていますよ?」

「いやリハビリはこれで終わりのしますので」


 優陽は姫吉の顔色をうかがう。


「明日から本腰入れて、デイでリハビリですから、座ってください」


 姫吉は軽くアイコンタクトをして、優陽を車椅子に座らせた。

 優陽は軽く頭を垂れた。

 今日は助かったが、明日から地獄だ。

 優陽は車椅子を押されて、いつもの病室まで着く。ベッドの横に立たされて、ベッドに寝かさせられた。


「それではまた来ますねー」


 姫吉は後ろ手で扉を閉めていった。


「優陽さん、大丈夫?」

「えっと、……うん」

「嫌なときは嫌ってはっきり言わないと」

「……大丈夫だって!」

「顔に嫌だなって書いてある」

「リハビリなんてこんなもんだろ! いちいち口出すなよ! 葉子さんには関係ないだろ」


 怒鳴った優陽は慌てて口を抑えた。

 ときはすでに遅し。


「……だったらもっと明るく振る舞いなよ、見苦しい。もう帰る」


 葉子は悲しそうな表情で病室からいなくなった。

 優陽は状況を飲み込む。

 葉子にひどいことを言ってしまった。美優に話すように否定してしまった。




 ◇

 次の日、美優が来た。





 ◇

 優陽はその次の日、葉子に謝ろうと思ったが、葉子は来なかった。誰も面会に来なかった。

 わざわざ電車に乗らないと来れない距離なのに会ってくれていたんだ。


 優陽はリハビリを頑張った。


 1か月経つ頃には、なんとか杖をついて歩けるようになった。


 2日に一度くる美優に葉子のことを言っても愛想笑いしてお茶を濁されるだけだった。




 ◇

 その後、余命5日となった。


「優陽そろそろ、皆で出かける?」


 思い立ったように美優が言った。

 しかし、優陽は首を降った。


「葉子ちゃんと何があったか知らないけど、お互いに向き合わないといけないと思うよ。私、葉子ちゃんを近くまで連れてくるから」

「余計なお世話だ」

「そう? じゃあ、ずっとそうやって、すねてなさい」


 美優はそう言うと、病室を出ていった。

 優陽は本当は美優を呼び止めてもう一度、葉子と話したいと思ったが、言葉にならなかった。


「今度こそ、ちゃんと言おう」


 優陽は初めてテレフォンカードで美優に電話した。


「母さん、葉子さんには内緒で頼みがあるんだ……」





 ◇

 余命3日。


「来たよ、優陽!」


 美優は持ち前の明るさで気まずい空気を取り去った。


「あ、じゃあ今から行く?」

「うん、行こう」


 優陽は杖をつきながら、ある場所へと向かった。


「葉子さん、明日来れるって」

「わかった」


 2人は車である場所へと向かった。

 そこはジュエリーショップだった。


「もしも僕がこれを渡せなかったら病室の鍵のかけてあるロッカーに入れておくから、その時はよろしく」

「何言ってるの? 自分で渡しなさいよ」




 ◇

 余命2日。


 その日病院に美優から電話がかかってきたらしく、優陽は嫌な予感をしながらかけ直した。


『優陽、ごめん、葉子さんインフルエンザにかかっちゃって〜〜〜〜』


 優陽は美優の言っていることが飲み込めなかった。


『もう会えないのか』

『何言ってるの、死ぬわけでもないし! 元気になったら会いに行くよ?』

『いいよ、もう』

 優陽は電話を切り、病室に戻ると几帳面な字で欄を埋めた赤茶色の紙を破った。ちぎって、ちぎってそのまま紙を食べてしまった。




 ◇

 最後の日。


「そうか! 僕が会いに行けば会えるんじゃないか?」


 優陽は電話をしに、公衆電話の個室に急いで向かった。

 そして、電話番号を押した後、心臓が苦しくなった。


『もしもし? 優陽?』


 バタン!

 優陽は受話器を落として、息絶えた。




 ◇

 次の日。


『葉子さんへ 今君がこの手紙を読んでいるということは僕が亡くなっていることでしょう。今君のことを考えながら手紙を書いています。したいことの約束守れなくてすみません。得を積んでいる君なら来世は今以上に、健康で、強く、明るく、素直で、賢い子に生まれ変われるはずです。僕の生きていたこの世界で、いつも強く、可愛くあってほしい、それだけが願いです。人を信じるのもいいですが、この世には悪い人もいるので時には疑う心も大事です。僕がいなくても母さんと朝陽を守ってあげてください。僕はテイアの作業所で別の命が尽きるまで働きながら死んでいくことになるでしょう。もし向こうで会えたら、いや、会わずとも、心の何処かにおいてくれると嬉しいです。新しい名はコモリと言います。長くなりましたがここまで読んでくださりありがとうございます。さようなら、愛してます。  石井優陽より』


 葉子は結局、あの日から最期まで優陽に会えなかった。手紙にはダイヤモンドの指輪が同封されていた。


「優陽さん、もう触っていいから、抱きしめていいよ」と、そう言って、優陽の残した手紙に涙をこぼした。

 優陽はその様子を近くで見ていた。

 実は神様のミスで早く殺しすぎてしまい1日地球の様子を見ることが許されていた。

 葉子の左手には大量のリストカットの跡があった。

 昨日今日でできたものではなさそうだ。

 優陽は葉子に抱きしめようとするも空を掴むだけだった。

 葉子さんはメンタルが傷ついていたんだ。知らなかった。


『だめだ、こんなこと、神様もう一度だけ、お願い、お願いだから、生き返らせて。リストカットを止めさせて!』


 優陽の意見はどこ吹く風となった。

 そのまた次の日、優陽は神様と交渉するも異世界転移が行われた。

 コモリとなる優陽は生きている事の素晴らしさを知った。ただ、それは少し遅かった。


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