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15 夢のような日

優陽はデイケア行きづらくなった。葉子の子どもの父親ということになったのだ。


「とりあえず、帰ろう」

「うん」


優陽一行は車に乗った。しばらくしてレンタルビデオ店に着いた。


「レンタルDVDは私が独断と偏見で借りてくるからね、朝陽ちゃん、見てて」

「「はい」」


美優は車から降りて歩いていった。


「僕さ、元社会人、元引きこもりだったんだ」

「何歳くらい引きこもっていたの?」

「32から、41歳まで。デイケアに来たつい最近までだよ。9年間オンラインゲームでしかまともに会話できなかった。転機となったのが、事故にあって入院した事かな」

「事故にあってって、大丈夫なの?」

「軽い脳震盪で済んだよ」

「過失は?」

「子供が飛び出して、トラックに轢かれそうになっていたから、僕も飛び出して助けたんだ。過失はわからないけど」

「無事で何よりだよ」

「僕が引きこもりでひかないの?」

「ひくわけない。今のあなたが1番重要なんだよ。私と今ちゃんと話してるじゃない」

「あ、ありがとう」


優陽はほろりと涙がこぼれた。


「そんな事気にしてたんだ。大丈夫だよ」


葉子は涙を飲んだような顔で優陽をみた。


「話が変わるけど、僕に合う仕事ってなんだろう」

「うーん、こればっかりは何にでも挑戦だな。作業所に行ってる利用者もいるはずだからね。就労支援B型作業所というところなんだけど」

「その就労なんとかって何?」

「就職したくてもできない人が就職を目指して通うところだよ。給料は、工賃といって最低賃金よりもかなり安いんだ。雇用契約を結ばずに働く利用者に支払われるものだよ」

「へえ、障害者年金はどうなるんだ?」

「入所しただけなら継続されるよ。障害等級が軽くなって、障害者年金の2級から3級になった人も知ってるよ。だから多分、健康になれるチャンスなんだよ」

「僕も行ってみようかなぁ。デイケアと半々で」

「そう。頑張って!」

「うん、それとさ、君の家の人達に勝手に家出したこと謝りに行こうよ」

「嫌だよ。また殴られるじゃない」

「こんなにもやもやした状態じゃ、前に進めない! 君はこなくてもいいさ、僕がかわりに説明しに行くよ、そもそも日常的に暴力を振るわれていたの?」

「子供ができる前は、癖があるけど優しくていい人達だったんだ。暴力は子供ができてから。お腹の子が名前も知らない夜のお仕事している人だって正直に話したところ、養母が殴る蹴るの暴行をしてきて、子供が生まれてからは養父までおかしくなって、罵られたり、体を触られたりされてきたの」

「妊婦に対して酷い扱いだな」

「私の子を降ろさせようとして殴られてきて、何ヶ月も我慢してやっと入院したの。子供が生まれてからも殴る蹴る罵るの暴力を数カ月我慢したけど、もう我慢の限界で飛び出してきたの。殺されるかと思った。頼れる身寄りも他にいなくて、優陽さんと美優さんには感謝してもしきれないよ」

「なんというか、なんて親だ」

「でしょう?」


葉子は強い口調でそう言った。


「だけど、育ての親に挨拶したほうが後腐れはない。僕が1人で説明しに行くよ」

「それだと優陽さんが怒られる……」

「大丈夫、命まではとられないよ」


ガチャ。

運転席のドアが開いた。

美優が車内に入る。

持っているDVDを後部座席の葉子に手渡した。


「ホラー、ときめきラブストーリーアニメ映画、ホラー、だね」

「おいおい、アニメ映画挟めばなんとでもなると?」


優陽は怒らずにはいられなかったが、葉子の手前、あまりきつくでられなかった。


「まあいいじゃない。優陽には朝陽ちゃんの世話を頼もうかな」

「交代な!」

「いやー、昔はホラー系苦手だったんだけど、貞子観てから平気になったよ。むしろ得意かな」

「昔話はいいんだよ。交代だからな」


家につく。


「桜歌さんの部屋でおっぱい飲ませてくる」と葉子。


美優が朝陽を抱っこして、葉子と優陽は後ろの隙間から車を出た。

葉子は運転席の美優に朝陽を受け渡してもらった。

優陽は家の鍵をあけて葉子と朝陽を先に入れた。


「おんぎゃあ」


朝陽が泣き出したのがわかった。

荷物を持った優陽と美優が家に入ると、優陽は家の鍵を閉めた。

「じゃあ、リビングにレコーダー用意して。1本目は今日見てしまおうよ」

「なんで僕が?」

「いいからセットしなさい。ホラー、大音量で流すわよ?」

「わかりました。その代わり明日、ホラー、2人で見てよ、僕は朝陽と散歩してくるから」

「そんなにときめきラブストーリーが観たいのか、まったくもう」


美優はぶつくさつぶやくと頷いた。

優陽は反論する気よりもホラーを見たくない気持ちが勝った。


「葉子さんは大丈夫かな」

「おっぱい見に行く気か!?」

「違うよ!」

「じゃあ夜這いするためのチェックか?」

「そんなんじゃねえよ!」

「何を言い争ってるの?」


葉子は階段から降りてきた。朝陽の背中を叩いてゲップさせて、ベビーベッド兼サークルに寝かせた。


「なんでもないよ。今日はラブストーリー観るから。明日、僕が朝陽と散歩している間に、ホラー見てくれる?」

「うん、いいよ。ありがとう」


葉子が気を使ってくれているのがわかったので、優陽はほっと胸をなでおろした。


「何? 〝YOUの名は〟って。もう3回くらい観たんだけど」


車で暗がりでDVDのタイトルが見えなかったが、明るい室内で見るとテレビで放送されていた数年前の映画だった。

ちなみに優陽は録画していて何度も観ていた。


「私も1回観たことあります」

「あら偶然ね、私も観たことあるよ?」

「じゃあなんで借りてきたんだよ!」

「また観たくなってね!」

「ふー」


優陽は呆れたように苦笑いを浮かべた。


「朝陽が泣いたら僕があやすよ」

「ごめんね、ありがとう」


葉子はレコーダーの電源を入れた。リモコンを持って、ソファに座った。

映画が始まった。

優陽は内容をすべて知っていた。

男女の体が入れ替わっていく物語で、落ちてくる彗星から町に住む人々を助けて、元の体に戻り、いつか再会すると言ったものだ。

幾度となく朝陽が泣くので、優陽は席を何度もたった。クタクタになりながら映画の様子を見守った。

気がつくとエンドロールが流れていた。

3人は刺し身とサラダ、味噌汁とご飯で夕食を食べた。


「今日は朝陽ちゃんと寝るんだったら下で寝たらどう? あのベッドサークル意外と組み立てるのが大変でしょう?」

「はい。1階で眠らさせていただきます」


葉子は美優に笑い返した。


「優陽、わかってると思うけど、さきっちょだけ! とか言うなよ?」

「僕は何もしないよ!」

「葉子ちゃん、お風呂先にどうぞ?」

「それじゃあお言葉に甘えて」


葉子は買ったばっかりの服や化粧品などを持って、浴室に向かった。


「あのさ、葉子さんに印象悪くなるから変なこと言わないでくれよ」

「これだから、面白いんじゃない」

「母さん」

「ごめんごめん、気をつけるよ」

「お風呂先に入っていい?」

「うん、いいよ」

「朝陽も洗ってくる」


優陽は朝陽を抱っこしながら、葉子と入れ違いに、お風呂の前の脱衣所に入った。さっと裸になる。朝陽の服も脱がせる。そして、いざお風呂場へ。

大きめの桶にお湯を3分の1ほどすくって、その中に朝陽を入れた。

朝陽を注意しながら優陽も湯船に入った。

今日はぬるめお湯だったが、敏感肌の赤ん坊には低刺激だろうからよかった。体と髪を洗い流して、一段落つく。そして、体を拭き、再び着替えて、朝陽にも服を着せた。頭髪をタオルで撫でるように拭いた。朝陽の体を拭いていると、あろうことか朝陽は脱糞した。


「あーさーひー、うんこしないでくれよ」


優陽の虚しい声が響きわたる。

優陽は朝陽を置いて、トイレで便を流した。ついでに小便をする。

キャッキャ!

朝陽が喜んでいる。

みると、朝陽は服を着ていて、美優が高い高いしていた。


「母さん」

「朝陽ちゃん、目はなさないで、ちゃんと見てなさいよ?」


美優はぼやいた。


「わかってるって、トイレに行っていただけだよ」

「ならいいけど」

「朝陽の世話あとは頼んだ」

「葉子ちゃんに言っとくね」

「はいはい」


優陽は歯を磨くと、すぐに2階の部屋に引きこもった。




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