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「ただいま!」


 美優は上機嫌で帰ってきた。どうやら桜歌の車の去っていく音がした。


「おかえりなさい」

「おかえり」


 優陽と葉子は美優に目を向けた。組み立て式のベビーベッド兼用サークルらしきものを片手で持ってきた。買い物袋をもう片方の手で持っている。そして、抱っこ紐で朝陽を固定していた。


「皆にママだと勘違いされちゃった」


 美優は舌を出して、ウインクする。


「まあ、見た目若そうだしな。母さん、叔母さん、何か言っていた?」

「美優お姉ちゃんは優しいねって言われちゃった」

「私達のことは何か言ってませんでした?」


 葉子の言葉に一瞬戸惑うような顔をする美優。


「それは、まあ、まあね。でも悪い印象を抱いている風には見えなかったね。まずはしばらく3人で暮らしてみて、優陽に相応しいか、逆に葉子ちゃんに相応しいか、どうかチェックするわ」

「母さん、ありがとう」

「ありがとうございます」

「あ、でもDNA鑑定の結果も気になるし、葉子ちゃん、太陽と血縁関係にあったら追い出すからね」

「はい、それは大丈夫です」


 美優はリビングのクッションの上に朝陽を抱っこの姿勢から寝かせた。


「肩こった。それじゃ、朝陽ちゃんのおむつ替えてくれる?」

「あ、はい」


 朝陽のおむつを葉子が替えた。


「そのサークルみたいなものはどうしたんですか?」

「桜歌ちゃんの家に捨てずにとっておいたんだって。チャイルドシートもね」


 美優は部屋の隅に組み立てる。

 優陽と葉子も手伝う。


「母さん、赤ちゃんの服や下着が欲しいんだけど、お店に連れて行ってくれるか?」

「そうね……、いいよ。お世話はちゃんと2人で見るんだよ」

「はーい」


 葉子は哺乳瓶に粉ミルクを入れてお湯を水筒に入れ出かける準備をした。

 美優は車の鍵でくるくると円を描きながら家を出た。車内の助手席にはチャイルドシートがつけられている。そのため、2人はその横をくぐって後部座席に乗った。


「葉子ちゃん、休まなくて平気?」

「昨日、元桜歌ちゃんの部屋で寝かせてもらったし、お風呂にも入れたし、大丈夫だよ」


 葉子は目を細めて笑った。

 この家は元々は石井家の家なのだ。


「それにしても、横に赤ちゃんを眠らせて、泣いたら起きての繰り返しだったでしょう?」

「そうですが、大丈夫です」

「葉子さんの服や下着も買わないとな」

「そう、そうだけど」

「じゃあ、別行動とろうか。デパートに赤ちゃんの売り場があるから、そこで優陽が赤ちゃん用品を買って、葉子ちゃんは私と服屋にでも行きましょう?」

「わかりました」


 葉子は美優の服をジャストサイズで着ていたが、流石に何着も余裕があるわけではなかった。赤ん坊の服も買わなくてはならない。

「優陽抱っこ紐つけて朝陽ちゃんと行動してね」

「はいはい」

「それじゃあ発進!」


 美優の愛車のミニカに4人が乗り、美優はエンジンをかけた。


「全部車に入りますか?」

「入らなかったら優陽がタクシー拾うから大丈夫」

「僕の貯金をあてにしないでくれ」

「ばう」

「朝陽ちゃんもそうしようって」

「いや言ってねえからな。今の内にお金渡しとくな」


 優陽は5万円を隣にいる葉子に手渡した。


「こんなに?」

「いいから受け取ってください。赤ちゃんグッズもちゃんと買うから」

「優陽さん、ありがとう。美優さん、5万円貰いました」

「そうなんだよね、実は貯金を隠し持ってるのよねー」

「なんだよ。そんなに自慢できるほどでも」


 あーだこーだふざけていながら、車を走らせて20分ほどのデパートの駐車場へ入りたつ。

 優陽は朝陽を抱っこする。そして抱っこ紐で縛る。そして葉子が準備したミルク類を持った。


「じゃあ、玄関ホールで1時間後に集合ね。14時だから15時までにいてね」

「はいはい」


 優陽は赤ん坊のお店に速攻で向かった。服や下着を何着も買う。もしものときのための離乳食も買っておいた。紙おむつも買う。

 朝陽の世話をしながらだと大変な作業だった。探したベンチに座った時だった。


「うわあああ」


 朝陽が泣き出した。

 優陽は朝陽と多目的トイレに向かった。

 多目的トイレにはおむつの交換台があるからだ。

 おむつを交換してあやす。


「うあああ」


 おむつを綺麗にしたが泣き止まない。


「お腹空いたのかな」


 優陽は哺乳瓶に水とお湯と粉ミルクをセットして飲ませた。

 ごくごく。

 小さな体で一生懸命生きている朝陽を見て、優陽は今まで感じなかった感情が生まれた。

 ミルクを飲み終えると泣かなくなった。


「よしよし」


 優陽は抱っこ紐で朝陽を固定するとフードコートに向かった。

 まだ30分時間があった。


「あら? 石井さん?」

「え?」


 優陽が会ったのは百合香だった。彼氏なのだろうか男連れだ。

 その男性は長身でかなりの美形だった。顔はどちらかと強いて言うなら薄いほうだ。


「石井さんって結婚していたんですね。子供もいるとは思いませんでした」

「えーっと」

「可愛いですね。鳶がたかを生むって感じで! あ、これだと奥さんの悪口言ってるみたいだわ、うふふ」

「失礼です! この子は知り合いの子ですよ、預かっているだけで」

「そうなの?」

「そうですよ」

「あ。なんで? ……石塚さん?」


 百合香は口をぽかんとあけた。

 近くに葉子と美優が偶然にも通り過ぎようとしていた。


「飯野さん? これはえっと」

「やだ、あなた達そういう関係なんだ、へえ」

「誤解です。僕ら、異母兄妹なんです。その関係なだけで、この子の父親は他にいるんです」

「そうなの? そんな運命的な偶然ある?」

「実はそうなんです」

「ふうん。それじゃあ良い週末を」

「あ、はい」


 葉子は離れていくカップルに手を降った。


「まずいことになった」


 優陽は朝陽の顔を見る。


「ばあぶ」


 朝陽はニッコリと笑った。

 優陽はなんとも言えない安らぎをもらった。


「母さん、葉子さん、もう買い物はいいの?」

「買い物は大丈夫、お腹空いちゃってね」


 美優はお腹をおさえて言った。


「お昼食べてないんですって」

「そうなんだ、好きなものお食べ」


 優陽が美優に言うと、美優はラーメン屋に突撃して行った。


「スタッフに僕らのことバレたら仕事しづらいよね」

「そうだけど仕方ないよ」

「僕が言わないように言っとくから」

「あ! そうだ、口止めするの忘れてた。口が軽いので有名なんだよ。飯野さん」

「もういっそのこと、僕との子って言っちゃう?」

「うーん」

「それが1番いいと思うよ」


 美優は呼び出す機械を持って戻ってくるなり言った。

「美優さん。でも……」


 葉子は優陽をチラチラ見る。


「あなた達、結婚するんでしょう?」

「それは……、その時になってみないと……考えてみます……」

「母さん、葉子さんが困っているよ、変なこと言わないで」

「これは約3ヶ月後、どうなっているのか見ものね」

「……わかりました、優陽さんとの子供ということにします」

「ええ!?」

「優陽さんも合わせてね」

「仮にそういうことにすると、どこで出会ったとか聞かれない?」

「優陽さんの趣味は?」

「ゲームと音楽鑑賞かな」

「じゃあ、ゲームのオフ会で出会ったことにしよう」

「いいけど、葉子さん、ホラーゲーム以外でなんのゲームするの?」

「ゲーム? ホラゲ以外だと囲碁と将棋ならできます」

「渋い。僕ができないや」

「それなら、オンラインゲームはこれから頑張る!」

「そうだね、葉子さんはしばらくデイケアに通わないし、尻尾を出す心配もないから……そういう事にしよう」

「1年前からの付き合いにしようか」

「そうするか。サシオフ会でね」


 ピリリ

 美優の持っている呼ぶ機械がなった。

 美優はややはや歩きで店頭に向かった。ラーメンを持って戻ってくる。


「美優さんって大食いなの?」

「ああ、うん」


 優陽はいつものことのように何も感じなかったが、葉子は二度見をしていた。

 そのラーメンは大盛り、全部のせ(チャーシュー、ほうれん草、もやし、メンマ、煮卵、青ネギ、ノリなど)だった。


「いただきます」


 美優は男顔負けな大口でラーメンを食していく。


「明日は日曜日か」


 優陽は含みをもたせた口調で喋る。


「なにかするの?」

「映画鑑賞しようよ」

「いいね、ホラー?」

「んなわけねーよ! SFとかラブコメとかだよ!」

「どんだけ耐性ないの」

「じゃあ帰りに借りてくるか!」


 美優は食べながら話した。


「ホラーが見たかったな」

「わかった、じゃあ一本だけだよ?」

「私も混ぜてね」


 美優は気づくとラーメンを完食していた。


「あれ? 石井さん?」


 デパートで帰りの道すがらだった。

 今度はイヌタンとかち合った。


「イヌタンさん?」

「え? え? 2人って? え?」

 イヌタンは驚いて言葉がでてこない様子だ。それでもついてくる。


「俺達の子供です 籍はまだ入れてないですけど」

「付き合ってたんだ! へえええ。俺ちょっとトイレ行こうとしてたんだ。じゃあ」


 イヌタンは駆け足で消えていった。


「あっ。このことは口外しないでください」

「多分届いてないよ」

「どうしよう、明後日、デイケア行きづれー!」


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