11 会議
『ふむふむ、お兄ちゃんは離婚したのか。異母兄妹かぁ、ショックだねぇ、……お墓!?』
桜歌は様々なリアクションをする。
『その事、母さんに言うのが怖いので、ついてきてくれないですか? お子さんの幸歌君と一緒に』
『ゆっきーは働いているから19時以降で良ければいいよ。ファミレスで話そう』
『ありがとうございます。僕の家知ってます?』
『わからないから、p市のヴァーミヤンで待ち合わせでいい?』
『構いません、今日の19時に行きます』
『はーい』
『それでは』
優陽は電話を切った。
「石塚さんに会いに行こう」
近くの病院の位置を調べた。
歩いて20分くらいだった。
外は暑い。
優陽はてくてく歩いていった。
「こんにちは」
病院のカウンターまで汗だくになりながらもついた。
「すみません、石塚葉子さんの兄妹の石井優陽と言います。石塚さんは母子ともに生きてますよね?」
「手術後間もないので当面はお見舞いを禁じられております」
「助かったんですよね?」
「はい、母子ともに元気です」
「良かった!」
優陽はカウンターの横のソファに身体を預けた。
しばらく冷房の聞いた部屋に居たが、美優が今日は何時に帰るか不安になった。そして、外に出て電話した。
『母さん、19時にファミレスでご飯食べに行こう。桜歌叔母さんも許可とったから』
『急だね? どうしたん?』
『皆に話したいことがあってその会議をと思って』
『18時には帰れるからその後行こう』
『分かった』
そうして、美優と優陽はファミレスへと向かった。
「実は相談したいのは父さんのことで。家の地下のお墓を見たんだけど何を隠しているの?」
優陽は全員が座って服装を整えたあと、開口した。
逃げられないと思ったのか、美優はしばらく目をつぶって、意を決して口を開いた。
「ええ、あれは、太陽の仮のお墓だよ。でも誤解しないでほしいんだけど、太陽と奥さんは一緒に海岸から飛び降りたの。奥さんは海に飲まれていき、太陽は岩肌に頭をぶつけて即死。その海に落ちなかった死体は箱に入れて運んだわ」
「そんな事があったの!?」
桜歌は心底驚いた顔をする。
「ローリの力を使って運んだの。海のかさが増してその場所の血痕は取り除かれたわ」
「ローリか、懐かしいなぁ」
桜歌は呟いた。
「誰だよ」
「魔法使い」
「それが9年前ってこと?」
優陽は隠していることがあるのだと感づいた。
「ええ、でも、太陽は生きている」
「さっきは死んでいると言っただろ?」
「魔法で生き返らせることに成功したの。優陽は音楽魔法の力を信じてないのでしょう? 優陽には残念だけど説明はしない。だけど、遠いところで生きてるわ。でももう私達とは関わるなと言ってるから会えないよ」
「そっか、桜歌は会いに行ってもいいんだよね?」
桜歌は穏やかに言った。
「そうね、優陽は桜歌ちゃんを通じて文通でもしたら?」
「会うか会わないかは僕が決めることだ」
「まったくもう、それじゃあ来てもらうか、会いにいきなさいよ。私は絶対に会いたくないけど」
「あと、1つ疑問に思ったのはピアノが消えたり出てきたりするんだ」
「それも魔法よ。音楽を生業としているんだから」
「魔法?」
「音楽に興味ないから優陽に言っても無駄ね」
「まあ、謎がわかって良かったよ。父さんも生きていて良かった」
「父さんって呼ばないで。虫唾が走る。太陽でいいわよ」
「離婚したんだってな?」
「まあ。そのことを知る人は少ないけど誰に聞いたのかな?」
「誰でもいいだろ。叔母さん、僕、太陽さんに手紙を書いて会いに行きます。あと、今日青井小春さんが薬物で捕まったんだけど、その時、石塚葉子さんが刺されたんだ、僕も手を負傷したんだけど」
「優陽君、怪我大丈夫?」
「叔母さんありがとうございます」
「母ちゃん、腹減ったよ、もう食っていい?」
それが幸歌の最初の言葉だった。
「うん、今日のところはそのへんにしてご飯を食べよう。すみません、オーダーしていいですかぁ?」
「早いな、ちょっと待って」
美優達は慌ててメニュー表を見た。
「ピザとハンバーグと」
「ナポリタン」
「グラタンと〜〜〜〜」
優陽達は一丸となって注文した。
料理はわりとすぐに持ってこられた。
優陽は自分のナポリタンを早食いする。
そして皆が黙って自分の頼んだご飯を食べていた。
一段落すると優陽は隣に座っている幸歌に声をかけた。
「幸歌君って何歳?」
「29歳です。優陽さんは?」
「41歳」
「彼女は?」
「いないけど、好きな人はいるよ」
「えー!」
「桜歌ちゃん、この子ね、石塚葉子ちゃんが好きっていうの。どうすればいい?」
「なんでバラすんだよ」
「誰?」
「太陽の再婚相手の娘よ」
「電話で聞いていた人かぁ!」
「お互いが好きならそれでいいんだよ」
「どうだか!」
そういう美優を優陽は睨む。
「せっかく人を好きになることができたんだ。異母兄妹なんて知るか!」
優陽は財布から5000円札を置いて、逃げるように帰った。家に帰るとシャワーを浴びた。怪我をしている右手に触れないように髪を洗った。