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最強の諜報員ですが、コミュ障改善のために魔法学園へ強制入学させられました〜一応任務の一環です〜  作者: 終夜翔也
1章 入学編

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第37話 黒幕

 その後、駆け付けたベルンハルト達によって意識を失ったレイチェルと肉塊と化した何者かの死体が発見された。

 服の残骸や毛髪などから死体は魔法学園幻術担当教師ロナルド・アルテュール・ベルトレと判明。

 森林エリアに配置されていた複数体の魔獣によって襲われ、食い殺されたことも分かった。


 問題はここからだった。

 何と目を覚ましたレイチェルがロナルドに襲われた旨の証言をしたのだ。

 前後して学園校舎から迷宮への転移の結界が破壊されていたこと、『決闘』の運営に携わっていたわけでもないロナルドが現場にいたことの不可解さから魔法犯罪捜査部による捜査が行われることになった。

 結果、ロナルドの自宅から【薔薇十字教団(ローゼンクロイツァー)】」との関係を示唆する手紙が発見された。

 もちろん、そんな物がそのまま置いてあったわけではない。

 自室の机に置かれていた使いかけのろうそくの周りに散らばっていた(すす)の一部の復元し、中の暗号の解読に成功したことでそれが【薔薇十字教団(ローゼンクロイツァー)】とのやり取りに使われた物であると突き止めたのだ。


 「なるほど――それは大事であるな」


 報告を受けた魔法省大臣マハル・ベザレルは平静さを保ちながらも悩ましげに呟いた。


 「我が国を代表する教育機関であり、多くの貴族の子を預かる魔法学園に【薔薇十字教団(ローゼンクロイツァー)】の協力者いたなどとは。本来ならすぐに事の隠蔽を図りたいところだが――もう手遅れなのだろう?」


 そう尋ねる――というよりも確認に近い言葉に直接報告にやってきた魔法犯罪捜査部のトップである部長は苦々しく頷いた。

 ロナルドが内通者であったことは既に学園どころか学園都市中で噂になっており、生徒や住民は「そんな身近にあの【薔薇十字教団(ローゼンクロイツァー)】がいたなんて」と怯える日々を過ごしている。


 「――仕方ない。この前の一件もある。下手に隠しては皆の不安を煽るだけだ。今回の件は潔く公開しよう」


 「し、しかしそれでは魔法学園の権威は更に落ち、魔法省全体にも追及の目が――」


 「それに関しては問題ない――とまではいかないが、対策案を用意してある」


 「それは――」


 「実は新しい学園長が内定してな。何と陛下直々の推薦人なのだ」


 本来ならまだ口外すべきではないが、捜査部長を安心させるため特別に教えた。


 「――――――何と………………それは、本当なのですか?」


 その正体を知らされた捜査部長は長い長い絶句を挟んだ後、思わず聞き返した。

 新学園長はそれほどの人物だった。


 「うむ。本当だ」


 「――確かにその方が学園長に就いてくださるなら学園関係の不安は払拭すること間違いないでしょうね」


 幾分か顔の固さが取れた捜査部長にくれぐれも口を滑らせないようにと注意喚起を促すと退席させた。

 そして一人大臣室に取り残されたマハルはそこから一時間ほど仕事をしていたが、仕事がすべて終わったところでゆっくり顔を上げ――


 「待たせてしまってすまなかったな。退屈だっただろう」


 誰もいないはずの部屋へそう呼びかけた。

 一軒家よりも大きな面積の空間に不必要なほど高い天井。雰囲気を色取る備品、仕事道具、調度品。カーテンの隙間から覗く夜の闇を照らす灯り。部屋のどこを見回しても人の姿は見られない。

 しかし、その呼びかけに応えたのか、灯りの届かない箇所に生まれた一点の染みのような暗がりから一つの影が姿を現した。


 「流石は魔法大臣と言ったところですか」


 黒のローブにファントムマスクで顔を隠した影――ジェイミーはそう素直な感想を述べた。


 「せっかく姿を見せたというのに顔を見せぬとは。他人(ひと)の部屋へ勝手に侵入したことと言い、礼儀を失しているのではないかね」


 「それに関しては面目ございません。しかし、貴方も他人(ひと)の非を責める資格などないのでは?」


 「どういう意味かね?」


 「とぼけても無駄ですよ。貴方がベルトレ教授に指示して学園を窮地に陥れたのは分かっているのですよ。【薔薇十字教団(ローゼンクロイツァー)】の正規メンバーである『同志』のマハル・ベザレル殿?」


 「――ふ、確かにとぼけても無駄のようだな」


 動揺を見せたのは(まばた)きにも満たない刹那。

 普通の者ならそれ自体に気付かない一瞬の間に平静を取り戻したマハルは素直に自らの正体を認めた。


 「何故、私だと分かった? ベルトレの家に証拠でもあったか?」


 「彼もそこまで抜けてはいませんでしたよ。焼いた手紙の燃え(かす)を残したのは不味かったですけど、誰かの名前がそのまま書いているわけでも、今後の作戦が書かれていたわけでもないので明確な失敗ではない。どちらかと言うと抜けていたのは貴方の方です」


 「何?」


 「直接顔を見せたことがあったのは失敗でしたね。本人に喋る気がなくとも頭は正直なので」


 人差し指で顳顬(こめかみ)の上をトントンと叩きながらジェイミーは言うとマハルは自嘲したように笑った。


 「顔を見せた方が動かしやすいと思ったのだ。それに彼は手練れの幻術師で自らが幻術で喋らされるような失態も犯さないと思っていたのだがなぁ……」


 「何故貴方ほどの人物が【薔薇十字教団(ローゼンクロイツァー)】なんかに?」


 マハルは独立戦争または審判戦役と呼ばれるシオン帝国樹立のきっかけとなる戦争で皇帝レイ一世側の勝利に尽力し、シオン帝国の魔法関係の事案を一手に扱う魔法省のトップ魔法大臣にまで登り詰めた英傑だ。

 皇帝への忠義心もあれば地位も名声も財産もある。

 そんな人物が裏切りを働く動機がジェイミーにはまったく見当も付かなかった。


 「君は私がエルシャダイ教の信者であることは知っているかね?」


 「もちろん。国内信者のまとめ役もされていることは有名ですしね」


 「そこまで知っているなら話は早い。有難いことに私は多くの同胞から崇敬の念を受け、本来上下の立場などないに等しいエルシャダイ教の中でそのような役割を許されている。私はそんな同胞たちの思いに応えなければならない。どうするか? 無論、我々が崇拝する教えをより多くの人々に広め、虐げられる信者のを救済することだ」


 「それならば何も問題はないのでは? シオン帝国は異なる教えに対しても寛容なので」


 シオン帝国は世界最大の信仰宗教であるヨシュア教を国教としながらも他宗教の信仰を認めており、国内は異なる数多の教えを信じる者達で溢れている。

 中でも多くの国で迫害の憂き目に遭ってきた歴史を持つエルシャダイ教徒にとってそんなシオン帝国は救いの方舟と言って差し支えない存在で信者数は他国と比較しても多い。

 それだけシオン帝国はエルシャダイ教徒にとって心地良い国ということなのだが、マハルは不満の声を滲ませた。


 「確かにシオン帝国――陛下は我々エルシャダイ教徒に居場所を与えてくだされた。私も陛下こそがエルシャダイ教を救済してくださる方だと信じて力を尽くしてきた。だが、陛下がしてくださったのはそれだけだった。宗教摩擦回避の目的で布教活動は制限され、国内の信者は保護すれど今この瞬間の虐げられている国外の信者にはほとんど何の行動も起こしてくだされなかった」


 「それは当然でしょう。多種多様な人種、宗教がいる以上そのどれか一つを特別視するわけにはいかない。多少の不自由は許容するべきなのでは? それに国外のエルシャダイ教徒の惨状についてはシオン帝国の管轄外です。そんなところにまで関わってはいくら皇帝陛下と言えど内政干渉と批判されかねない」


 「それくらい理解している。だからこそ私もそれらに耐え、陛下に仕えてきた。陛下はそれぞれの教えに理解を示し、平等な愛を向けていられるのだと。しかし、それは私の勘違いだった」


 マハルの目に絶望の色が宿ったようにジェイミーは見えた。


 「ある日、私は我らの教義の素晴らしさを理解して頂こうと陛下に語りかけていた。しかし、全てを聞き終えた後、陛下は仰ったのだ」


 『興味がない』


 「と。そしてこうも仰ったのだ」


 『貴方がどのような教えを信じるか、それは貴方の自由だ。だが、あらゆる教えを信じないのも俺の自由だ。俺は貴方の信じる教義を否定するつもりはないし、好きに信仰してくれればいい。だが、俺にそれを押し付けないでほしい。俺は神の教え――いや、それを建前にした既得権益に興味はない。むしろ嫌ってすらいる。俺にとってはエルシャダイ教もクレセント教もヨシュア教でさえも関心の対象にない。ヨシュア教での立場も国教に定めたのもその方が国家にとって都合が良いからだ。それでいて他の信仰を受け入れているのもそのためだ。枠を設けない方が国民が集まり、優秀な人材が増える。君のようなな。そのためなら私は狂信者にでも背教者にでもなってやろう。だから君は好きなだけエルシャダイ教を信仰してくれ。代わりに私にそれを押し付けるな』


 「陛下は神の教えに微塵の関心も寄せてはいなかった。ただ国家を為すための道具としか思っていなかったのだ」


 その悲鳴にも似た訴えをジェイミーは心動かされることなく聞いていた。

 為政者が宗教を己の権威のために利用するなど古今東西あることで教えそのものに関心がないことは珍しくない。

 とある要因からヨシュア教において絶対的な立場にいるレイが宗教に対してそれほどドライな考えを持っていたことには驚きだが、特別非難される事柄には思えなかった。


 「いや――それ以上に私は悲しかったのだ。あれほど立派な御仁が神の教えの素晴らしさを理解していないことに。故に私は【薔薇十字教団(ローゼンクロイツァー)】に参加したのだ。陛下に神の教えを理解していただくために」


 まとめるとどうやらマハルは自分の理想とする陛下(レイ)と実際の在り方の乖離に失望したことが裏切りの原因らしい。

 愚かしいとジェイミーは感じた。

 現実の相手を直視せずに自分の頭の中で理想(イメージ)を作り上げ、それと異なる行動取られると勝手にショックを受ける。

 相手のことをちゃんと理解しようと意思があれば防げたすれ違いのはずだとジェイミーは思う。レイとマハルのように長年の付き合いがあるならば尚更だ。

 それを今になってようやく気付いたというのだから愚かしいとしか言いようがない。

 ジェイミーは呆れて嘆息するとそのことについては発言せずに別の疑問に対して問いを投げかけた。


 「申し訳ありせんが、皇帝陛下にエルシャダイ教の素晴らしさを理解して頂くのと学園――いえ世界各国で事件を起こすのにどう関係があるのでしょうか?」


 「それには全て意味がある。我らの偉大なる悲願に繋がる意味がな。その悲願が為されれば、私の願いも成就する」


 「意味?」


 「うむ。特に今回の学園襲撃は大きな収穫だった。……些か話しすぎたな。次はこちらから質問だ。君は何者かね?」


 当然ながら答えるはずがない。

 沈黙で返すジェイミーにマハルは「フッ」と笑った。


 「答えるはずがないか。まあ大体察しはつく。凡そ【分隊】あたりだろう? 警吏庁、魔法犯罪捜査部であればこのような法を無視した解決方法は取ろうとしない。そもそも、国家の中枢にいる大臣が裏切りを働いているなら一度陛下に奏上し、判断仰ぐはず。そしてあの方がそんなことを知れば自らお出になられてもおかしくはない。しかしながら現れたのはたった一人。これはつまり陛下に何もお知らせせず早急にかつ事を荒立てず収めたいという意思が透けて見える。そんなことをしようとするのは存在が秘匿されており、独立した側面を持つ機関――【分隊】としか考えられん」


 国家機構の内部事情を把握している大臣という立場とマハルの洞察を交えた鋭い指摘。それでも尚、ジェイミーの雰囲気から動揺の色は現れなかった。


 「答えないならまあいい。私はただ抵抗するだけだ!」


 その言葉ととも壁の一部数箇所が上がり、そこから大小様々な形をしたゴーレムが姿を現した。


 「我が名はマハル・ベザレル。シオン帝国魔法大臣にしてエルシャダイ教信徒。そして世界に仇なす【薔薇十字教団(ローゼンクロイツァー)】の傀儡術師である!」

最後まで読んで頂きありがとうございました!


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