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最強の諜報員ですが、コミュ障改善のために魔法学園へ強制入学させられました〜一応任務の一環です〜  作者: 終夜翔也
1章 入学編

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第34話 内通者の正体

 『決闘』の無事終了と違反行為が行われなかったことを確認した監督役の教師四人は参加者の保護へ向かうため、決闘運営本部として使用されていた空き教室を出た。


 「いや〜、一年生同士の『決闘』にしては中々見応えがあったね。そう思わないかいギャリー先生?」


 「え、ええ……私もそう思います……」


 同意を求めるクルトに大人しげな印象を受ける眼鏡の女教師――トルク・パータイル・ギャリーは気まずげに目を逸らしながら答えた。

 

 「クラウゼウィッツ先生、あまりギャリー先生をいじめるな。不正に加担したの彼女とて本意ではなかったのだ」


 ベルンハルトが目だけを向け、背後に歩くクルトを窘める。

 ギャリーがチームAと内通し、協力していたということには他の教師陣もすぐに気が付いた。

 そしてギャリーが不正を強いられたのにはエコンズではなく、そのチームメイトのフォロゾによる影響が大きかった。

 フォロゾの実家のイーシェード家は使役術の名家であり、それは同分野を専門とするギャリーにとっては無視出来るものではなく、その意向を蔑ろにしては研究がままならなくなるだけに留まらず最悪職を失う恐れすらある。爵位を持つわけでもない一教員の彼女に大人しく従う以外の選択肢はなかった。


 クルトを注意したベルンハルトもその行動に思うところがないわけではなかったが、それよりも同情の念の方が勝ったのに加えギャリーも深く反省しているようなのでこれ以上の追及は止めることにした。

 不正に関与したため処罰を受けることは避けられないだろうが、事情が事情のため可能な限りのフォローはするつもりだ。


 「ごめんごめん。それにしてもやっぱり彼女は気骨があるね。格上の敵相手に立ち向かって行くなんてあの歳じゃなかなか出来ないよ」


 クルトが褒める彼女とは無論、レイチェルのことだ。

 襲撃事件時、共に解決に奔走したという贔屓目も含まれているであろうが、ベルンハルトも同じ気持ちだった。

 これはベルンハルトの持論だが、相手に打ち勝つための最も重要な要素とは『恐怖を飼い慣らす』ことだと考えている。

 レイチェルはエコンズに技術では劣っていたかもしれないが、技量では優っていた。

 つまり勝利のための下地は整っていたということだが、それは些細なものに過ぎない。

 真に称賛されるべきは相手の肩書き(レッテル)に臆することなく、挑んだ勇気だ。

 例え実力で優っていたとしても相手の経歴や称号に慄き本領を発揮出来なくなること少なくないが、逆に実力で劣っていたとしても相手の驕りを突く形で勝利することもままある。

 今回の『決闘』でレイチェルは見事にそれをものした。恐怖を飼い慣らしたのだ。

 平民出身ということで彼女を侮る者も未だにいたはずだが今回の結果でその風向きも変わってくるだろう。


 「うむ。しかし、凄まじい逆転劇だったな。敵陣へ襲撃し、敵チームを殲滅、その流れで得点差を一気に埋めてしまうとは」


 「確か同じチームのフレミング君だっけ? 彼があっという間に魔獣を狩っちゃったんだよね。どうやったか見たかいベルン君?」


 「もう耳にタコができるほど言っていると思うが勤務中は私をその名で呼ばないでくれ」


 「ごめんごめん」


 クルトが両手を合わせて謝ると、ベルンハルトは咎める視線を外し質問に答えた。


 「私は見ていないな。ギャリー先生はどうだ?」


 「わたしも見ていなかったです。……ライダーさんとプラインセズさんの方に目がいっちゃって……」


 「小生も同じく」


 ギャリーに追随するように四人目の監督役である傀儡術教師カントロ・ルウェステーク・ノーヴァーも軽く手を挙げて言った。


 「みんなレイチェル君を見ていたのかい? しょうがないなぁ」


 そう肩を竦めるクルトだったが、ベルンハルトは引っかかりを感じていた。

 確かにレイチェルとエコンズの戦いは白熱した試合だった。裏で同時展開されていたであろうジェイミーの魔獣狩りよりも二人の一騎討ちの方が注目されるのは当然だろう。しかしだからと言ってここにいる四人全員の記憶にまったくと言って残らないことなどあるのだろうか?

 それに決闘中のジェイミーの行動をほとんど思い出すことが出来ない。どうしてもレイチェルの活躍ばかりが思い返される。


 そんなことを考えている内に一つ部屋を挟んだ先にある職員室の出入口を潜り、中のとある部屋の前に辿り着いた。

 この部屋には校舎と迷宮訓練場を繋ぐ転移の結界が張られており、わざわざ迷宮の中を歩かずとも訓練場へ瞬時に向かえるようになっている。

 主に緊急用に作られたものなので普段使いは出来ず、生徒はもちろん教員でも事前に許可を取らなければ使ってはならないという決まりがあるのだが――、


 「――――」


 「どうしたんだいベルン君?」


 部屋に鍵を差し込もうとする動きを止めたベルンハルトにクルトが尋ねる。

 ベルンハルトは問いに答える代わりにドアノブに手を掛けた。


 「――やはり鍵が空いている」


 そう確信し、扉を開く。

 本来なら部屋の床には《瞬間移動(テレポーテーション)》の結界が張られているはずだが、どういうことか綺麗さっぱり消え去っていた。


 「これはどういうことだ……」


 「誰かが鍵を使って部屋に入り、結界を使用。そして迷宮(むこう)で一方を破壊した感じだろうね」


 重々しい表情を作るベルンハルトにクルトは冷静な分析を口にする。

 《瞬間移動(テレポーテーション)》は二対一体の結界術。二つの地点にそれぞれ結界を張り、双方を行き来するというものでどちらか片方が破壊されるともう片方も消える特性がある。

 そして結界を破壊する最も手軽な方法は張られている場所を結界ごと破壊すること。加えて部屋の床がなんの損傷もないことが迷宮側の結界が破壊されたとクルトが断じた根拠だった。


 犯人の最終的な目的が何かは図りかねるが、結界を壊した理由は明白。教師たちが訓練場へ辿り着くのを遅らせるためだ。

 嫌な予感しかしない。ベルンハルトは勢い良くカントロの方を向いた。


 「ノーヴァー先生、すぐ貴方のゴーレムを再起動させてください。犯人が訓練場で何をしようとしているのかを――」


 「小生もそう思い既に行動に移したのだが――」


 カントロは一度言葉を切り、ベルンハルトを見ると苦々しく告げた。


 「ゴーレムとのパスが切れている。恐らく破壊されたのだろう」


 ベルンハルトは絶句した。

 結界に加え、監視用ゴーレムの破壊。

 内部の情報を知っているとしか思えない用意周到な動きだ。

 とにかくこのままでは不味い。


 ベルンハルトは逸る衝動に従うまま部屋を出、職員室から抜け出すと迷宮へ向かい走り出した。


 ◇


 「か――――っ…………⁉︎」


 鋭い痛みが腹部へ突き刺さり、全身を駆け抜ける。それと同時に蹴りの衝撃で体が浮かされた。

 あまりの痛みに頭がショートしたような感覚に陥る。何が起こったのか理解の及ばぬままレイチェルは意識を失い地面に叩きつけられた。

 その拍子に何かがポケットから飛び出し、ロナルドの元まで転がった。


 「やはりきみが持っていたか」


 転がってきた物――バッジを拾い上げながらロナルドは納得したように呟いた。


 「きみは気付いていなかったようだけど――これは僕が内通者であるという大きな証拠なんだよ。ま、もう聞こえてないだろうけど」


 今さっきまでの人当たりの良さはすっかり鳴りを潜め、冷酷な雰囲気を漂わせたロナルドが倒れたレイチェルへ哀れみの目を向けた。


 「余計なことさえしなければきみは楽しい学園生活を遅れただろうに」


 そして懐に忍ばせていた短剣を取り出し、レイチェルへ近づくとそのすぐそばで膝をついた。

 見下ろしたレイチェルの顔はとても穏やかでまるで安らかに眠っているようにも見える。

 呑気なものだとロナルドは思った。

 これから本当の安息が訪れると言うのに。


 「よい眠りを」


 短い別れの言葉とともに逆手に持たれた短剣が振り下ろされる。

 狙いはもちろん心臓。刃が肋骨の間を滑り込み、噴き出す鮮血とともに少女の息の根を止める。

 そんな未来をロナルドは幻視していた。

 だが、それは同じく未来を見通すことの出来る青年に妨げられる。


 「⁉︎」


 レイチェルの短剣の間へ割り込むように雷撃が走り、反射的にロナルドは背後へ跳び退った。

 そして攻撃が襲いかかってきた方角を睨みつける。


 「やはりきみか……」


 そこにいた白黒の髪の青年の姿を認めたロナルドは忌々しく呟いた。

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