第30話 公正さよりも勝利を
更新めちゃくちゃ遅れました。
申し訳ございません。
「ええっ⁉︎ 不正ってどういうこと⁉︎」
一方、『決闘』を観戦する教室でジェイミーと同様の見解を聞かされたレアも辛うじて周囲に聞こえない声量で驚きの声を上げていた。
「簡単な話です。チームAのスタートエリアに高レートの魔獣を、逆にチームBの方には低レート魔獣ばかりを配置する。それだけで両チームの点に大きく差が出来ます。明らかに偏ったレートの討伐数がその証拠です」
『決闘』開始序盤からその可能性を疑っていたジルがそう語る。
そもそもこの『魔獣討伐決闘』という競技自体が運要素の強い内容だ。
例え高い実力を有していたとしても遭遇するのが低レートの魔獣ばかりでは高ポイントを稼ぐことは叶わない。
もちろん、高レートの魔獣と多く遭遇出来たとしてもそれを狩る実力がなければそれまでだが、対戦する両者の能力が拮抗している場合はそこに不公平が生まれることは避けられないだろう。
そして、運要素が強いということは不正がしやすいということでもあり、『魔獣討伐決闘』が『決闘』の競技として選ばれることが少ない大きな理由であった。
「でも、特定のエリアにだけ集中的に高レートの魔獣を仕込むなんて学園側の協力でもないと――」
そこまで言ってレアは気づいた。
この不正には学園の一部が加担していることに。
「ええ。恐らくは迷宮訓練場の魔獣を管理する使役術担当教師トルク・パータイル・ギャリーと学園迷宮管理課の職員が協力しているのでしょう」
「でもどうして……」
「実家の権力を傘に脅されているか、平民出身のレイチェルさんに反発しているかでしょうね」
このジルの推測は両方的中しており、ギャリーが前者、職員が後者の動機から協力または協力させられていた。
「こうしてはいられないわ。早くこのことを先生方に伝えて『決闘』の中止を――」
「それは無理っすよ」
主の訴えにフェリックスが首を横に振る。
「証拠がない以上何を言っても向こうは認めないでしょうし、先生方も動けません」
証拠を提示出来ない以上、チームAの不正は机上の空論に過ぎない。
例え明らかに不可解な事象が目の前で起こっていたとしてもだ。
「じゃあ……このまま見てるしかないってこと?」
「そういうことになりますねぇ。口惜しいですけど」
やらせない気持ちをこぼすレアにフェリックスは飄々としながらもどこか悔しさを滲ませた声色で答えた。
◇
「〈荒ぶれ〉、〈憤怒の炎よ〉、〈そして我が威光を示せ〉」
地面に展開された魔法陣から噴き出す第三階位魔法火炎系魔術《火炎葬送》が炎柱を立て、集められた魔獣の群れを丸焼きにする。
今日だけで幾度も嗅いだ肉の焼ける臭いで鼻腔を満たしながらエコンズはほくそ笑んだ。
「ぬるいぬるい……何もかもぬる過ぎる」
陽の光も届かず雨の一滴も降らない地下であるということを忘れそうになるほどの自然に満ちたこの森林エリアは自分のために用意された魔獣の虫籠だ。
連中に『決闘』を布告した時から『魔獣討伐決闘』を選ぶことは決めていた。
大変癪だが正面からの戦いでは連中に勝てない。いや、あの平民だけが相手なら何の問題もなかったが、本命はそう簡単にはいかないだろう。
目立たず冴えない雰囲気の男だと初対面では感じていたが、その印象はすぐ覆されることになった。
平民への魔術を防がれた時、一瞬で距離を潰されたことにも驚かされたがそれ以上にあの時自分に向けられていた目。あれは紛うことなき強者の目だ。独立戦争を戦い抜いた英雄である我が父と同じ強者の目。
あの目を見た瞬間勝てないと確信してしまった。
だが、公衆の面前で醜態を晒されたままおめおめと引き下がることなど出来ない。
どんな手段を使っても『決闘』に勝ち、威厳を示さなければならなかった。
故に使役術教師と学園迷宮管理課を抱き込み、自分に有利な勝負の場を設けた。
後はエリア内に潜む魔獣たちを使役術で視覚を共有したフォロゾの使い魔に見つけさせ、牧羊犬のように一箇所に追い込んで一網打尽にするだけだ。
そして結果はご覧の通り。残り時間が半分になった時点でダブルスコア以上の点差を付けることに成功した。
思ったよりも簡単に事を為せたとエコンズは拍子抜けしていた。
このまま前半と同じことをしているだけでチームAの勝利は確実だ。
ここ以外のエリアに潜む魔獣の多くが一点。チームBがいくら数を稼いだところで高レートの魔獣数が多い森林エリアの方が得られる得点とその効率は圧倒的に良い。
仮にここまで移動しようとしたとしても時間がかかり過ぎる。
恐らく魔素で強化した脚力でも十分以上はかかるだろう。
移動だけで時間をかけていれば魔獣を狩っている暇などない。
やはり自分たちの勝利は揺るぎないとエコンズは確信した――その時だった。
「⁉︎」
森林エリアの入り口に障壁として貼っておいた第二階位魔法防御系結界術《炎壁》が破られたのを察知したのだ。
そしてそれはある一つの事実を示していた。
(奴等か⁉︎ 洞窟エリアからここまで走破してきたのか⁉︎ いや違う‼︎ あの距離をこんな短時間で走り抜けれるわけが――)
|チームB《ジェイミー、レイチェル》が襲来してきた可能性に勘づく冷静さとその可能性から目を背けたいという恐れが僅かな逡巡の内にせめぎ合った結果、辛うじて前者が勝利しチームメイトであるフォロゾへ警戒を呼びかける。
「奴等だ! 奴等がここまで来たぞ! フォロゾ貴様も使い魔を集めて用心しろ!」
その直後――、
「うわあああああああああああああ⁉︎」
フォロゾの絶叫が木々の間を駆け抜けた。
「フォロゾ? どうしたフォロゾ‼︎」
そう声を張り上げるも返答はない。
否、返答はあった。しかし、それは声によるものでも、フォロゾからでもなかった。
限界まで引き絞られた矢のような一撃がエコンズを襲う。
不意打ちの攻撃にエコンズはなんとか反応し、回避するとその正体を認める。
それは編み上げられた糸のように細く、しかし頑強さを伴った水の噴射だった。
「平民んんんんんんんんんんんッ‼︎」
怨嗟の叫びを発してエコンズは木の上からこちらを狙うレイチェルの姿を視界に映した。
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