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最強の諜報員ですが、コミュ障改善のために魔法学園へ強制入学させられました〜一応任務の一環です〜  作者: 終夜翔也
1章 入学編

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第29話 危機

 『おおっと! なんとフレミング選手、突如自分の手を深々と切ったぁ‼︎ これはどういうことでしょうか⁉︎』


 『魔獣は人の血の臭いを嗅ぎ取ってやってくる習性がありますから、それを利用するつもりでしょう』


 突然の自傷行為に驚くリベブロの反応とジェイミーの意図を的確に理解したエクスの解説が拡声器を通して校舎を駆け巡る。

 拳を握り締める形で傷口へ爪を突き立て更に血を滲ませようとするジェイミーに観戦している生徒らは顔を歪ませる一方、当の本人は何の痛痒も感じていない涼しげな表情を浮かべていた。

 そして流れ出た撒き餌を再度広く撒くと無詠唱で第一階位魔法嵐風(らんぷう)系魔術《木枯らし(ウィンド)》で風を吹かせその臭いを拡散させる。


 程なくして効果は現れた。

 暗闇、岩陰、地中とあらゆる場所から魔獣たちが顔を出す。

 種類も体長も習性も様々だがその全てに共通していること――それは獲物を狙い定めた(まなこ)でジェイミーとレイチェルを睨め付けていることだった。


 「すごく見られてるよわたしたち……! これは流石に集めすぎなんじゃない……?」


 魔獣の大群に囲まれ、息を呑むレイチェル。

 故郷にいた時も一人で複数の魔獣と戦ったことはあったが、ここまでの数を相手にしたことはない。

 命の危険すら感じる状況に助けを求めるように隣へ目を向けるが、ジェイミーはまったく動じていなかった。


 「むしろ少ないくらいだ問題ない。手筈通りにやるぞ」


 目配せで作戦の実行をジェイミーが告げるとレイチェルは躊躇いがちに頷きながらも詠唱を始める。


 「〈清らかなる泉よ〉、〈我に恵みをもたらし給え〉」


 第二階位魔法水瀑(すいばく)系魔術《水領域ウォーター・フィールド》。周囲一帯を水で満たす魔術だ。

 レイチェルが詠唱を始めるとジェイミーが無詠唱で《雷光(ライトニング)》を放ち、一体の魔獣を撃ち倒す。

 それが引き金となり、今まで様子を窺っていた魔獣たちが一斉に襲いかかってくる。


 「跳べ」


 しかし、それに対してもジェイミーは冷静さを失うことなく短くレイチェルに命じると共に天井高く跳躍する。

 そして――、


 「〈走れ〉、〈稲光よ〉」


 《三連雷光(トライ・ライトニング)》を真下に向けて放つ。

 血の臭い引き寄せられやってきた魔獣の数は約二十体。それらをたった三撃の(いかずち)で全滅させることなど不可能である。

 だが、三条の稲妻は魔獣たちの足元に広がる水を着火剤とすることで電圧を全体に伝播させ、その命を根こそぎ奪う。

 重力に従い元の場所へ降り立った二人の周囲には黒い煙を吐く屍だけが転がっていた。


 『全滅全滅全滅ゥ‼︎ フレミング選手とライダー選手の連携が魔獣の軍団を一網打尽‼︎ 一気に大量のポイントを獲得だぁ‼︎』


 『討伐したのは一点(Fレート)が九体、三点(Eレート)が十二体、五点(Dレート)が一体で合計五十点になります!』


 五十ポイント。既存ポイントの十五点の三倍以上の得点だ。それも稼ぐのに有した時間と手間は既存ポイントのそれよりも圧倒的に少ない。


 「上手くいって良かった……」


 喜びよりも安堵が勝ったのかレイチェルはゆっくり息を吐いて胸を撫で下ろした。

 ジェイミーとレイチェルは効率良くポイントを稼ぐための基本戦略をあらかじめ決めていた。

 まず、一点(Fレート)の魔獣は積極的に狙わないこと。そして、エリア内を駆け回り各個撃破するのではなく、魔獣を一箇所に集めまとめて倒すこと。

 無駄を省き、効率良くポイントを稼ぐことを考えたシンプルな作戦だ。

 そしてその方法が血の臭いで魔獣たちを引き付け、水を通して感電死させるというジェイミーとレイチェルの得意魔術を生かしたものだった。


 「そうだ……! ジェイミーくん怪我は――」


 ポイントの獲得と引き換えに負ったジェイミーの代償。その手当てのために彼の手を取り――、


 「あ……れ?」


 確認するもそこに代償の証は見受けられない。確かに掌には血が纏わり付いているものの肝心の傷が綺麗さっぱり消えていた。


 「……あ、《電位活性化バイオエレクトリック・アクセラレーション》?」


 「そうだ。特訓中これで散々治してやっただろ?」


 第四階位魔法電位系魔術《電位活性化バイオエレクトリック・アクセラレーション》。生体電位の流れを活性化させる魔術であり、細胞分裂を促進することによって傷の治癒も出来る。

 『決闘』に向けた訓練中は当然怪我をすることもあったのでその度レイチェルに対して使っていたのだ。


 『ここで途中経過を発表したいと思います!』


 降ってきたリベブロの声にレイチェルはもうそんなに時間が経ったのかと軽く驚いた。

 『魔獣討伐決闘(モンスター・ハント)』では試合時間の半分――つまり十五分が経つとその時点での対戦チームの総合ポイントが公表される。

 相手チームに関連した実況は聞けないようにされねいるため、この途中経過のみが試合の戦況を把握出来る数少ない手段なのだ。


 『まずはチームB。先ほど獲得した五十点に加えて既存ポイントの十五点と合わせて合計六十五点です!』


 レイチェルは首を傾げた。何故チームAではなく先にチームBの発表をするのだろうと。

 そんな疑問をよそに続けてエクスがチームAの得点発表へ移る。


 『そしてチームAは――なんと合計百三十三点‼︎ チームBと倍以上点差を付けております‼︎』


 「えええええっ⁉︎」


 想像以上の大差にレイチェルは驚きの声を抑えられなかった。


 『内訳としては一点(Fレート)が九体、三点(Eレート)が三十三体、五点(Dレート)が五体となっております』


 『下馬評通りチームAがこのまま逃げ切り圧勝するのか⁉︎ それともチームBが奇跡の大逆転を見せるのか⁉︎ 後半戦も引き続きお楽しみください!』


 「どうしよう⁉︎ どうしよう⁉︎」


 訪れた大ピンチにレイチェルは大いに取り乱し、ジェイミーの肩をブンブンと揺らす。


 「このままじゃ負けちゃうよ! 早くなんとかしないと! というかわたしがもっと頑張っていれば良かったのかなぁ⁉︎ わたしが動き回るなりなんなりしてもっと魔獣を倒していれば――」


 「落ち着け」


 焦燥感からか発言が要領を得なくなってきているレイチェルを落ち着かせるようにジェイミーは彼女の両肩に手を置いた。


 「慌ててもどうにもならない。まずは落ち着いて現状を整理するんだ」


 「………………はい」


 対照的なジェイミーの態度を目にし、自分のみっともなさを顧みたのか冷静さを取り戻した様子でレイチェルは返事した。


 「まず作戦そのものに問題はない。ただエリア内を駆け回っていては無駄に体力を消費してしまうからな。問題はその中身だ」


 「中身?」


 「ああ。おれたちが討伐した魔獣の数は三十六体、一方チームAは四十七体。討伐数こそ向こうの方が上だがそう差はない。しかし、実際は倍以上の点差をつけられている。なんでだと思う?」


 「それは……向こうの方が高レートの魔獣をたくさん倒しているから?」


 躊躇いがちに答えたレイチェルにジェイミーは静かに頷いた。


 「そうだ。Eレートの数だけ見てもおれたちが十三体に対し、チームAは三十三体。これだけで六十点の差だ」


 「どうしてチームA高レートの魔獣ばかりを狙うことが出来ているの? 向こうのチームの方が魔獣の索敵が上手(うわて)なの? それとも森林エリアの方が高レートの魔獣が多いってこと?」


 「恐らくは後者だな。そしてそこにも明確な理由がある」


 「それって?」


 上目遣いで見つめるレイチェルにジェイミーは確信を持った目つきで答えた。


 「イカサマだ。恐らくチームAは学園側の一部と結託して高レートの魔獣を仕込ませている」

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