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第27話 決闘

 申し出が受理され数日を経た放課後、遂に『決闘』当日となった。

 『決闘』の内容は『魔獣討伐決闘(モンスター・ハント)』で行われる場所は学園地下に広がる迷宮。その第三階層に学園が作った対魔獣用の訓練場あった。


 「......緊張するね......」


 「......絶対に勝てる戦いだ。過度に緊張する必要ない」


 迷宮訓練場は迷宮の環境をそのまま生かした洞窟エリア、瀑布が生み出す滝壺が広がる水域エリア、一帯が一寸先も見えないほどの濃い霧で覆われた闇霧エリア、植樹された樹木が生い茂る森林エリアの四つに分かれており、二人は洞窟エリアのゲート前に立っていた。

 洞窟エリアは岩肌に覆われた薄暗い空間だった。迷路状の狭い通路と広い空間が不規則に現れる構造になっており、天井からぶら下がる鍾乳石が独特の光を発している。


 「きみは故郷で魔獣退治に勤しんでいたのだろう? その点ではあの二人より確実に秀でている。自信を持つんだ」


 「うん、ありがとうね」


 未だ強張りを残しながらも、しかし確かに柔らかくなった表情でそう微笑んだ。

 レイチェルの口調から敬語が取れていることからも分かる通りこの数日間で二人の距離は随分縮まった。

 今日までの放課後をほぼ毎日のように共に特訓をしていたのだから当然だと思う者もいるかも知らないが、周知の通りジェイミーはコミュニケーションが得意ではない。

 そんな彼が短期間でここまで他人(ひと)と打ち解けることが出来たと知ったら長官(ラティーフ)あたりは驚くだろう。

 記憶を消す前の名残でもあるのだろうか?

 そんなあり得ないことをジェイミー本人も考えてしまう程度には。


 『皆さんお待たせいたしました! 入学早々新入生同士で行われる前代未聞の『決闘』、まもなく開催であります!』


 『対戦するのは【黎明派】出身のエコンズ・ピレストム・アーリャ・プラインセズとフォロゾ・マーキューズ・アラウドリック・イーシェードのチームAと学園を救ったヒーローレイチェル・ライダーと郵便庁長官の息子ジェームズ・フレミングのチームBです!』


 迷宮内――否、学園全体にこれから始まる戦いの盛り上がりを煽るような口上が響く。声の主はこの『決闘』の解説役である放送部所属の三年生エクス・フレインス・エデュールと同じく放送部所属の二年生リベブロ・アドキャスティンという二人の男子生徒だった。

 今日になって知ったことだが『決闘』の様子は学園全体に中継されるらしい。それも声だけでなく、エリア内を飛び回る小型飛行ゴーレムから映像を拾い、それをリアルタイムで教室などで投影しているとのことだ。

 この中世の世界観に似合わないオーバーテクノロジーだが、これが世界随一の魔法大国が成せる技術ということなのだろうか?


 『まずはルール説明から行わせて頂きます。『決闘』は二対二のチーム戦。エリア内に潜む魔獣を倒すことでその等級に応じたポイントが獲得出来ます。エリアにはF〜Cレートまでの魔獣が潜んでおり、Fレートが一ポイント、Eレートが三ポイント、Dレートが五ポイント、Cレートが十ポイントであります」


 『制限時間の三十分が終わった時点で合計ポイントが高い方のチームを勝者とします。使用するエリアは迷宮訓練場全域。つまりは四つのエリア全てが『決闘』の場ということです。現在、チームAは森林エリア、チームBは洞窟エリアで待機していますが、『決闘』が始まれば他のエリアに移動しても構いません。尚、相手チームへの妨害は構いませんが、当然命に関わったり障害を残すような攻撃は反則と見做し確認された時点で試合を中断。反則を犯したはチームは強制的に敗北となります』


 『決闘』の様子はゴーレムを通して常に監視されており、危険やルール違反があればすぐに教員らが駆けつけにくる。

 校舎と迷宮をつなぐ《瞬間移動(テレポーテーション)》の結界がそれを可能にするのだ。


 『今回の『決闘』をどう見ますかエデュール先輩?』


 『今回の選手は両方とも新入生。それも入学直後となると情報もほとんどないから何とも言えないんだけど......アーリャ・プラインセズ選手は火炎系魔術を、イーシェード選手は使役術を得意としていることから推察すると彼らの戦い方はイーシェード選手が索敵なんかのサポートをして、主にプラインセズ選手が持ち前位の火力で魔獣を狩るというスタイルになるんじゃないかな?』


 『使役術の一つである《視覚共有(リンク・サイト)》はこういう時、便利ですからね。ではチームBのライダー選手とフレミング選手はいかがでしょうか?』


 『それなんだけどさぁ......ライダー選手に関しては水瀑系魔術が得意、故郷で魔獣退治をしていたってことが判明しているんだけど、一方のフレミング選手に関しては何も分からないんだよねぇ......』


 『何も分からない、ですか?』


 『うん。彼、他の貴族家庭出身者と違ってご両親が魔法省の職員じゃないからか知り合いっていう人が見つからなくて調べるのが難しかったんだよ。ただ、聞くところによると『決闘』のきっかけを作ったのは彼らしくてね、なんでもプラインセズ選手のお腹を殴った後、髪を掴んで引き倒したって話だよ』


 『へぇぇ......大人しそうに見えて意外と好戦的なんですねぇ。今回のダークホースと言ったところでしょうか⁉︎』


 随分好き勝手言っているが、間違った情報は言っていないので反論のしようがない。

 ちなみにジェイミーについての情報がほとんどないのはエクスの言うように知り合いがいないというだけでなく、中央情報庁によってあらゆる経歴が抹消されていることも大きな要因だ。


 『そうだねぇ。下馬評ではチームAが有利との見方が優勢だけどフレミング選手の実力次第で結果はどうなってもおかしくないと僕は踏んでいるよ』


 『なるほど……では、フレミング選手の活躍によう注目ということですね! さて、いよいよ『決闘』開始の時間が近づいて参りました。双方準備はよろしいですか?』


 リベブロの声にジェイミーは自然と構えを取った。合図が出ればいつでも全速力で駆け出すことが出来る、そんな万全の体勢だ。

 そんなジェイミーの姿を見て同じようにレイチェルも構えを取る。


 「手筈通りに行くぞ」


 「うん」


 『それでは! 『決闘』開始です!』


 『決闘』の開始を告げる声。それと同時に檻のように聳え立っていたゲートが上がる。

 ジェイミーはゲートが上がりきる前に極限まで体勢を低くした疾走で下を潜り、エリアに足を踏み入れた。

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