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第26話 特訓志願

 ジルに勝利し帰路に就くジェイミーだが、その顔に勝利への喜びの色はなくただ上手く立ち回れていただろうかという懸念のみがあった。

 手加減はしたつもりだった。本来、魔法を使わず一撃で倒せたところ、決定打を五回見逃した上で倒したのだ。だが一撃くらいはわざともらっても良かったのではないだろうか。

 そんなことばかり考えてしまうが過ぎてしまったことは仕方がないと思い直す。それに最悪、《電位制御バイオエレクトリック・オペレーション》で全員の頭を弄ればいい。


 「ふぅ......」


 学内には既にほとんど人がおらずその中に警戒すべき気配もない。今日のレアの護衛はここで店仕舞いしても問題ないだろう。

 学園生活初日早々色んな目に遭ったがようやく自室に帰れる。そんな達成感を覚えかけた時だった。


 「待ってください!」


 自分を呼び止める声が背中にぶつけられた。

 振り返るとそこにはレイチェル。何の用だろうか?


 「ジェイミーさん、わたしに戦い方を教えて欲しいんです!」


 何故そうなる。

 予想だにしていなかったレイチェルの唐突な要望に少々戸惑ってしまうが、言葉を返す。


 「『決闘』のことならさっきの試合を見ていたら分かる通り問題ないだろう?」


 「関係ありません。わたしは強くなりたいんです」


 またその目だ。

 あの時と同じ他の一切の感情を塗りつぶすほどの決意の目。

 以前会った時は軍人になりたいと言っていたがそれだけが理由なのだろうか?


 「何故きみは強くなりたい?」


 「それは――わたしと特訓してくれたら教えます」


 恥じらいからそう答えたレイチェルだったが、この選択は正解だった。

 もし、ここで素直に理由を答えていたならその時点でジェイミーはレイチェルから興味を失っていただろう。

 

 ジェイミーは悩んだ。ここでレイチェルからの申し出を受けるメリットはどこにもない。しかし、訓練に付き合えば彼女が強くなりたい理由を知ることが出来る。掛け持ちの任務があったなら即断っていたが今はそれもない。

 そもそもこんな回りくどいことをせずとも《電位解析バイオエレクトリック・アナライシス》で頭を読み込んでしまえばいいのだが、何故かそれをすることは躊躇われた。

 そんな思考を僅かな逡巡に挟んだ後――、


 「分かった。ただし、付き合うのは決闘の日までだ。それでいいか?」


 「はい! ありがとうございます!」


 引き受けてしまった。

 自分らしくないな。そんなことを思いながらジェイミーは目の前で礼をするレイチェルを見ていた。


 ◇


 そして翌日。エコンズたちの敵意や彼らとのいざこざを知った周囲の好奇の目に晒されながらの学園生活を過ごした放課後、ジェイミーは約束を履行するためレイチェル()()とともに昨日同様、個別訓練室へ訪れていたのだが――、


 「何故お三方もここへ?」


 「一緒に訓練するって話したら着いてくるって聞かなくて......」


 外へ目を向けるとジル、フェリックスとともにこちらを見ていたレアがにこやかに手を振ってくる。


 「まあ、別に邪魔をされるわけでもないしいいか」


 仕方ないと言った様子を見せるが、これは演技で三人がやってくるのはジェイミーが仕向けたことだった。

 ジェイミーの第一優先はレアの護衛。そのためには常に彼女のそばにいなければならない。ならばと敢えてレアの近くでレイチェルと特訓のことを話し、興味を惹かせた。そして目論見通りここへやってきたというわけだ。


 「ではまず、きみの戦い方を見る。おれに攻撃を仕掛けてきてくれ。おれの方からは攻撃しない」


 そう言われたレイチェルは本当にいいのかと確認を取りそうになったが止めた。

 昨日のジルとの戦いを見ていれば不要な心配であることは明らかだったからだ。


 「〈奔流となりて穿て〉、〈我が水槍〉!」


 繰り出したのは《水砲ウォーター・スプラッシュ》。レイチェルが使える魔術の中で最も威力の高いものを容赦なく繰り出した。

 顔面に向けて放たれた水の高速噴射だったが、それをジェイミーに首を傾けるという最小限の動きで躱されてしまう。

 その反応速度に面食らってしまうレイチェルだが、続けざまに攻撃を仕掛けてゆく。

 だが、それらをジェイミーは魔法を使うことなくその身一つで次々と回避していった。

 そして攻撃を一度も当たることの出来ないまま魔素(マナ)の大量消費による疲労がレイチェルに見え始めるとジェイミーは訓練を一度中断させた。


 「思ってたよりも筋がいい」


 座って休憩するレイチェルにジェイミーはそう素直な感想を伝えた。


 「本当ですか⁉︎」


 「ああ。ただし、戦い方が魔獣を相手にするそれだ。対人間を想定するなら有効とは言えない」


 記憶を消す前、故郷で魔獣退治をしていたと言っていたがそれで相当鍛えられていたようだ。


 「だからきみには人間との戦い方を身につけてもらうことを重点において訓練を進める」


 「分かりました!」


 (やっぱり優秀だな)


 一連の特訓を見ていたフェリックスはジェイミーに改めてそんな感想を持った。


 (身のこなし、魔法の扱い、頭の回転、どれを取っても完璧の一言だ。同級生の中で五本の指に入る実力者であることは間違いない。だが――、何だこの違和感は?)


 目線の先のジェイミーは表情ひとつ変えずレイチェルの相手をしている。着いていくのがやっとと言った様子で疲労の色が見え隠れしているレイチェルに対し、ジェイミーは汗一粒かいていない。


 (まるでまだ余力を残しているような、そんな得体の知れなさがある。ただの気のせいか?)


 野生の勘か、ジェイミーの底知れない実力を直感で感じながらフェリックスは二人の特訓の様子を観察し続けた。


 ◇


 ところ変わって男子寮。通常部屋よりも広く、過不足なく調度品が揃った貴族家庭出身者用の寮室で二人の男子生徒が話し合っていた。


 「エコンズ様、本当に大丈夫なのでしょうか?」


 「何が不安なのだフォロゾよ」


 「あの平民はまだしもあのフレミングとか言う男の実力は侮れないかと――」


 「つまりフォロゾ、貴様はこの私が負けると言っているのか?」


 「いっ、いえ! そんなことはございません!」


 殺気を込めて睨みつけてきたエコンズにフォロゾは頭を下げるも「瞬殺されていたじゃないか」と内心で悪態をつく。


 「しかし、貴様の言うことも一理ある。不意打ちとは言えこの私に一撃与えた実力は軽視すべきではない。なあに心配する必要はない。手は打ってある」


 「最初からそれを言ってくれ」と心中でボヤかれているなどつゆ知らずエコンズは自慢げにその詳細を語り始めた。


 「ほお! それは素晴らしい!」


 「うむ。これで我々の勝利は確実だ。必ずや先日の雪辱を果たしてみせる」


 二人の貴族は顔を見合わせ頷くと部屋から漏れるほどの声量で高らかに笑った。

 そしてその日、異例とも言える新入生同士の決闘の申請が受理された。

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